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「それでも、祈ることをやめない」

影に陽は差し

第一部 (top)

46.目算

「やっ……たぁぁぁーーーー!!!」
 私の絶叫を聞いて、ゲンマもガイも驚いた様子でこちらを振り返った。木の葉の修行を始めて五ヶ月、ついに私はチャクラのみで真っ二つにすることに成功した。ガイは私と同じかそれ以上のテンションで喜んでくれたけど、ゲンマは池に向けて火焔の術を放ったあと「で、術はいつできるんだ?」と無慈悲に言い放った。ムカつく。
「ゲンマ! 何事にも段階というものがあるだろう!」
「んなこた分かってんだよ。で、術はいつできんだ? って聞いてんの」
 ガイが拳を震わせながら訴えるも、ゲンマは顔色ひとつ変えずに淡々と切り返す。ガイは頭を抱えて呻いたが、私は反論できずに唇を引き結んだ。ゲンマは別に意地悪を言ってるんじゃない。木の葉を切ることが最終目標ではない以上、それをこなした上で、次の目処はついてるのかを数字で求めているに過ぎない。それは大事な考え方だ。
 でも、その前に、やっぱり一度共感くらいしてほしい。
「ガイがいてくれて良かった」
 ゲンマがチョウザ先生に火遁を見てもらっている間、並んで水分補給しながら私は傍らのガイに話しかけた。返事がないので怪訝に思ってガイの方を見ると、彼は目をまん丸にして穴が空くほど私を凝視していた。
「どうしたの?」
「いや……はボクのこと、嫌いだと思っていた」
「そんな自覚あったの?」
 ガイはド天然のポジティブ変換機能つきと思っていたけど、そういえばチーム結成の頃、私は分かりやすく彼を毛嫌いしていたことを思い出した。それに、これはチームメイトになってから分かったことだが、彼は別に根っからのポジティブというわけではない。
 ガイはまだ驚いた様子で私を見ている。私は気楽に笑ってまたお茶を飲んだ。
「ま、最初苦手だったのは本当だけど。今はガイがいてくれないと困るよ。チーム一の機動力だし元気くれるしね。さっきだって葉っぱ切れたの一緒に喜んでくれたじゃん」
「それはもちろん……仲間の努力が実を結ぶのは嬉しいに決まってるだろう」
「へへ、ありがとう」
 優しいだけじゃダメなのは分かってる。ゲンマは昔から優しいけど、優しいだけじゃない。アカデミーで修行に付き合ってくれたときでさえ、言うことはちゃんと言うし、甘い判定は出さなかった。それがチームメイトになって、さらに明確になっただけだ。ゲンマは昔からそうだ。
 でもやっぱり、共感してもらえなくて寂しいときは、時々ある。そんなとき、ガイは私以上にいつも喜んでくれた。
 二人がいるから頑張れるし、二人がいるから成長を信じられる。どちらが欠けてもダメだと今なら思えるようになった。そして後ろにはどっしり構えたチョウザ先生がいる。私たちが行き詰まると、いつもチームワークの大切さを説き、私たちにヒントをくれた。
 チョウザ先生は秋道一族の次代で、秋道家は古くから奈良家、山中家と共に連携忍術を極めた名家だ。私は火影邸でたまたまチョウザ先生、シカク先生、そして山中家のいのいちさんが鉢合わせて話しているのを見たことがある。先入観のせいかもしれないが、いかにも阿吽の呼吸といった様子でものすごく憧れたものだ。
 その日も私たちは任務受付所でたまたまシカク班と遭遇した。今日は私たちチョウザ班にとって、初めてのCランク任務だ。里から少し離れた村の作物を荒らすイノシシの捕獲というシンプルな任務だが、ランクが上がるだけで私はだいぶ緊張してしまった。ガイはむしろ奮起して、これは周りが見えなくなるやつだなと思った。ゲンマも同じことを考えているのか、口元の長楊枝を揺らしながら真顔でガイのほうを見ていた。
 受付所を去る前、私はあとから来た紅に声をかける。
「紅たち、こないだ任務終わったばっかりじゃないの?」
「そう。前回はくたびれちゃったけど、また急ぎの任務があるとかで」
「あんなに賊が多いと思わなかったもんな」
 後ろから顔を見せてライドウがため息をついた。彼らはすでにCランク任務を多くこなしている。賊の討伐とかもあるんだよね。いくら相手が忍者でないといえ、武器を持つ相手と対峙するのはまた全く違う話なのだろうなと思った。
 私は顔を上げ、今度はアスマを見やる。
「あ、アスマ。葉っぱ切れたから、また今度修行付き合ってほしい」
「え? 早くないか?」
「あ、うん、えーと……五か月、かな?」
「なにぃっ!?」
 アスマは大げさに悲鳴をあげ、ガックリと項垂れた。確かアスマは半年かかったんだっけ。受付所に今日ヒルゼン様は不在だったけど、シカク先生が私たちの話を聞きつけて大きな声で笑った。
「そら見ろ、アスマ。余裕かましてると寝首かかれるぞ」
「シカク先生、そういう言い方やめてください……」
 私は眉をひそめて抗議したけど、シカク先生は愉快そうにクツクツ笑うだけだ。アスマは軽く頭を振ってから、渋い顔で私を見た。
「分かったよ。任務が終わってから時間合えば付き合ってやる」
「ありがと! 頑張ってくる!」
 意気揚々と答える私の首根っこをむんずと掴んだのは、仏頂面をしたゲンマだ。彼は私の襟を少し引っ張りながら「さっさと行くぞ」と不機嫌そうな声を出した。
「ごめん、行くからそんなとこ引っ張らないでよ」
「さっさとしろ」
「ごめんって! じゃあ、またね」
 私はアスマたちに軽く手を振って、ゲンマに引っ張られるままに受付所をあとにした。ちょっと同期と話し込むくらい、大目に見てくれてもいいのに。
 でも受付所を出ると、初めてのCランク任務ということがまた肩にのしかかって緊張してきた。ゲンマは相変わらず私たちのリーダーを任されていて、頭の中でイメージを組み立てているのかもしれない。依頼元の村までは一時間ほどで着くが、イノシシは夕方から明け方にかけて活動するため、今夜は泊まり込みになりそうだ。そこで各自準備ができたら西門に集合と決まり、一時解散となった。
 私はゲンマと家が近いので、私の家の前まで一緒に帰る。ゲンマは私が話しかけても言葉少なだったので、ゲンマもやっぱり初のCランク任務に緊張しているのかもしれない。私も喋るのをやめ、今は目の前の任務に集中しようと改めて決意した。