影に陽は差し
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「それでも、祈ることをやめない」
私たちはゲンマの家まで一緒に帰り、四日後の修行の約束をしてから別れた。ゲンマの家のほうが訓練場に近いため、待ち合わせは彼の家の前だ。心弾ませながら帰宅する途中、ほんの五分の距離でなんとカカシに遭遇した。買い物袋を提げたサクモおじさんと一緒だ。
「やぁ、。帰りかい?」
「うん、友達と修行した帰り。おじさんは買い出し?」
「あぁ。修行帰りに買い出ししてきて、これからご飯だよ」
カカシはいかにも早く帰りたそうな顔をしているので、私はサクモおじさんだけに話しかけた。サクモおじさんもそれに気づいてか、苦笑しながら答える。
私はおじさんとカカシを交互に見比べ、悔しさのあまりうめいた。
「サクモおじさんのマンツーマン指導……羨ましすぎる」
「ざまあみろ」
即座にカカシが口を挟んできたので、そちらを思い切り睨みつける。サクモおじさんはカカシの前に出ながら、慌てたように言ってきた。
「だって澪様の指導を受けてるんだろう? なかなかそんな機会はないよ」
「ばあちゃんはダメ。ばあちゃん自身はすごい忍なのかもしれないけど、教えるセンスない。そもそもアカデミー入ってからほとんど修行も付き合ってくれなくなったし」
「お忙しい方だからね。でも澪様は情報部で優秀な人材を数多く育てられた方だ。部下の育成には長けていらっしゃる」
「じゃあ身内を育てるのは向いてないんだね。私もこんなだし、母さんも結局忍猫使いになれなかった」
思わず愚痴が出てしまった。ハッとして顔を上げると、サクモおじさんは目を細めて静かに微笑んでいた。
「凪はずっと悩んでいたから。彼女自身がそうなることを望まなかったのかもしれない」
「え、どういうこと?」
「俺の口から話すことではないよ。君が大きくなっていつか向き合わなければならない日が来たら、凪から君に話すだろう。それは彼女の役目だ」
よく分からない。望まなかったって、忍猫使いになることを? 子どもの頃から一緒に育ったのに?
家はアカデミーを卒業したら忍猫と血印を交わすのが慣わしだ。私にもそのときが来たら、アイやサクと共に生きることに何の疑いもない。
「父さん、いつまでそいつと話してるの? 早く帰って飯作らないと」
「あぁ、そうだな。も早く帰ったほうがいいよ。おやすみ」
まだ聞きたいことはあったが、私はおとなしくサクモおじさんに別れの挨拶をした(カカシは知らない)。おじさんは母さんの元チームメイトだ。母さんはサクモおじさんを心から信頼しているようだし、色んな話をおじさんにしてきたのかもしれない。
いつか母さんが、何かを話してくれる日が来るのだろうか。いつからか口を噤み、笑顔を見せなくなった母さんがもう一度私に向き合ってくれる日が。
***
木の葉隠れの忍は基本的に三人一組で動く。アカデミーでの初回演習はクラスを三つに分けての対決だったが、それ以降はランダムでスリーマンセルを組まされるようになった。三度目の模擬訓練は――私、オビト、ガイの三人。
(オビトと……ガイか……)
どちらも気が重い。オビトは入学から半年近く経った今でも私を避け続けるし、ガイは熱血が空回りして見ているだけで暑苦しい。リンはカカシと一緒になれて嬉しそうだった。
(あんなやつのどこがいいんだか)
私は相変わらず仏頂面のカカシを横目に見て嘆息した。まあ、ほんとは分かってるよ。カカシは忍術も体術も幻術も、何もかも完璧だもんね。そりゃ、かっこよく見えるよね。
リンだけじゃなく、クラスの女の子の多くがカカシを見るときウットリした顔をしていた。彼に興味がなさそうな女子は三分の一といった感じか。半数以上は目がハートだ。あれでサクモおじさんの穏やかさが半分でもあったなら、私もそのうちの一人だったかもしれないけれど。
結局カカシの飛び級の話はただの噂だったのか、カカシはまだ同じクラスにいた。
「障害物はボクに任せろ! すべてなぎ倒してやる!」
「いや、必要なやつだけなぎ倒してよ? あんたこないだの訓練、障害物全部壊して無駄な時間食ってたでしょ?」
ガイがこぶしを握りしめて熱く宣言するので、私は淡々とくぎを刺しておいた。オビトもガイを見ながら不安そうに顔をしかめている。
私はオビトにも声をかけた。
「じゃあ障害物はガイに任せて、オビトは空からの攻撃に備えて。私は後方から足元含めて周囲の警戒。他に提案ある?」
「……ねぇよ」
オビトは顔を逸らしながら、どこか居心地悪そうに唇を噛んでいた。私とは目も合わせたくないようだ。それでも何か言いたげな様子だったが、結局は口を閉ざしたままだった。
訓練は三組同時に行い、先生がチームの総合力と個人の能力を採点する。カカシとリンのチームも同時にスタートだ。私は気を引き締めて位置についた。
事件が起きたのは、それからわずか二分後。
ガイが障害物をまとめて片付けるために放った回転蹴りが、オビトの横っ腹を直撃して吹き飛んだ。
「オッ…………オビトーーーーーーーー!!!」
優に五メートルは飛んで行ったオビトに駆け寄りながら、私は声の限り絶叫した。