影に陽は差し
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「それでも、祈ることをやめない」
オビトはあれから少しずつ、アカデミーでは話をしてくれるようになった。あくまでクラスメイトのひとりといった感じだが、今はオビトの気持ちを知っているから、余計な詮索はしまい。
それだけでなく、タイミングが合えば私はリンとオビトの三人で一緒に帰るようになった。オビトとリンが話をしているイメージはこれまであまりなかったが、先日の模擬訓練以来、距離が縮まった気がする。オビトはリンと一緒のとき見るからに嬉しそうなので、私はその光景を黙って微笑ましく見ていた。
「私、今日はここで」
リンがいつも別れるのとは違う曲がり角で止まったので、私とオビトは少し遅れて振り返る。
「どっか行くの?」
「うん、今日は母さんに頼まれて病院寄ることになってるから」
「そっか。じゃあまた明日ね」
「うん。、オビト、またね」
リンの後ろ姿が見えなくなるまで、しばらく沈黙が続いた。オビトがまだそちらを見ているのでそろそろ行こうよと声をかけようとしたところで、オビトのほうが先に口を開く。その頬は心なしか赤くなっていた。
「リンって……誰か好きなやつとか、いるのかな?」
「え? どう見てもカカシでしょ」
あまりに分かりきったことなので、思わず即答してしまった。オビトは涙目になりながら勢いよくこちらを見る。
「やっぱり!?」
「まぁ、リンの口から直接聞いたわけじゃないけど……」
「そっか!」
オビトは私の言葉に一縷の望みをかけたようだったが、その可能性はあまりにも低いと思った。リンはカカシが教室に入ってくるとチラチラとそちらに目をやるし、演習や訓練でカカシが神がかり的な動きを見せるのをいつもウットリと見つめている。リンがそんな顔をするのは、私の知る限りカカシを見るときだけだった。
「オビトはリンが大好きなんだね」
私が淡々と言うと、オビトは真っ赤になって声を張り上げる。
「だ、誰がそんなこと言った!」
「えー……さっきの質問しといて、そういうこと言う?」
「うっ……」
苦虫を噛み潰したような顔をして押し黙るオビトの肩を叩いて、私は気楽に声をかけた。
「私はリンがもし付き合うなら、カカシなんかよりオビトのほうがいいと思ってるから、応援してるよ」
するとオビトは目を見開いたあと、私を見て照れ臭そうに笑った。なんだか懐かしい顔を見たなと思った。
「あ、もちろん私が何かするわけじゃないから、オビトが頑張ってね。あとオビトなんかよりもっと素敵な人がいたらそっち応援するから宜しく」
「なんだよ。言わなくていいよ、そんなの」
途端にふてくされた顔をするオビトに笑いかけながら、私は家路を歩き出す。幼馴染の恋路を応援できるのはなんだか嬉しかった。しかもそれが私の大好きな友人だなんて、うまくいってほしいという気持ちしかない。
「オビトがめちゃくちゃ素敵な人になればいい話じゃん。頑張れ!」
「わ、分かってるよ」
オビトが自棄のように言いながら、私の隣に並ぶ。昔と距離感は変わっても、また一緒に過ごせることが純粋に嬉しかった。
オビトや私自身もきっと、これから少しずつ変わっていくんだろうな――そんなことをふと思いながら、私は彼といつもの道を並んで歩き続けた。少しはにかんだオビトの横顔が私にも何だかこそばゆかった。
***
母さんや父さんは、家のことは気にせずお前はアカデミーの勉強を優先しなさいって言ってくれるけど。休みが不定期で帰りも遅くなることの多い両親の力になりたくて、私はよく家事を手伝っていた。
そんなとき、が「一緒に夕食食べない?」と誘ってくれることがある。彼女も家族が忙しく、最近はひとりで食事をとることが多いそうだ。でものおばあちゃんが作ってくれた料理がたくさんあって、それを温めて食べているんだそう。
本人はあまり話したがらないけど、父さんから聞いた話では、のおばあちゃんは三代目火影のアドバイザーをしているらしい。と一緒にいることも多い口寄せ動物の忍猫を、十匹ほど従えているそうだ。里の人たちは尊敬を込めて、のおばあちゃんを「澪様」と呼んでいる。
おばあちゃんだけでなく、自身も相当すごい。彼女は入学当初から成績が良かったけど、そのうえ今は苦手な手裏剣の修行を、上級生と一緒にしているらしい。自分には目標がないからと、以前は自信なさそうにしていたけど、そんな中でも自分で努力できるのは才能だと思う。はいつも前向きで、そんな彼女に追いつきたいと感じることもある。
「今日も手裏剣の修行?」
とオビトの三人で帰る途中、がウキウキ楽しそうなので私はそう尋ねた。はお兄ちゃんができたみたいと言って、その上級生と過ごす時間をいつも楽しみにしていたからだ。
は元気よく「うん!」と頷く。
「最近ちょっとずつ当たるようになってきてさ。まだまくれって言われるからもうちょっとだけど……ゲンマ、教えるのめちゃくちゃ上手なんだよ」
「はそればっかりだね。の飲み込みが早いから、その人もきっと教えるのが楽しいんだよ」
「全然! ボロボロ言われる! 早く見返してやりたい!」
そう言いながらも、やはり楽しそうだ。三つも上の先輩なんて私なら緊張しちゃいそうだけど、は打ち解けるのも早いんだろうな。
はときどき別れる十字路でこちらに向けて手を振った。
「じゃあ忍具店寄ってから帰る。またね、リン、オビト」
「うん、また明日ね」
の後ろ姿を見送りながら、私は人知れずつぶやいた。
「はほんとに頑張ってるな」
「リ、リンだって頑張ってるよ。家のことやってトレーニングだってちゃんと」
オビトが顔を赤らめながら必死にフォローしてくれたので、私は思わず笑ってしまった。
「まぁ、確かに体力はちょっと自信あるけどね。でも後期から特別授業も始まるし、もっと頑張らないと……にもカカシにも、どんどん離されちゃうな……」
「だ、大丈夫だって! 俺も一緒に頑張るから!」
オビトが一生懸命そう言ってくれたので、私はいじけかけていた気持ちがふと温かくなるのを感じた。微笑んで、告げる。
「ありがとね、オビト」
すると赤くなって照れた様子のオビトが、しばらくモジモジしてからやっと口を開いた。
「あの、良かったら俺たちも……放課後、一緒に修行しない?」
オビトの声は少し震えていた。彼がどれほど勇気を振り絞ってこの言葉を口にしたのか、なんとなく感じ取れたので、私は驚きながらも心が温かくなった。
オビトはと親しいのだから、と修行したいだろうなと思っていた。この前、保健室でつい立ち聞きしてしまったけど、多分ふたりは事情があって疎遠になってしまったけど、元々仲良しの幼馴染だったのだろう。
でも今オビトは私を一生懸命励ましてくれて、修行にまで誘ってくれている。その優しさが心に響いた。私はニッコリ微笑んで、答える。
「うん、いいよ! 一緒に頑張ろうね」
オビトの顔がパッと明るくなり、私も自然と笑みがこぼれた。頑張ってに追いつきたいのはオビトも一緒かもしれない。そんな彼の思いに応え、二人で頑張っていきたいと心から思えた。