影に陽は差し
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「それでも、祈ることをやめない」
里周辺でのDランク任務を積み重ねながら、私たちチョウザ班はチャクラコントロールの修行を始めた。といってもゲンマはアカデミーの頃から楊枝吹と並行して木登りや水面歩行はすでにやっていたし、私もどちらも難なくクリアする。
苦戦していたのはガイで、これまでがむしゃらに根性で身体を鍛えてきた彼にとって、チャクラを自分の意思で扱うとなると一気に難易度が上がるようだった。
「ガイ、まずは落ち着け。お前はチャクラの垂れ流しなんだよ」
「お、おう……?」
怪訝そうなガイの後ろに回って、ゲンマが身体の使い方や集中の仕方など、具体的なアドバイスをする。やっぱりゲンマは教え方が上手い。チョウザ先生もすぐにそのことが分かったのか、基本的にあまり口を挟むことはしなかった。
「ゲンマ、お前、アカデミーでサボってただろう」
「サボってないっす」
チョウザ先生が一度指摘したことがあるが、ゲンマは淡々と否定した。でも私にだって分かる。ゲンマの実力なら、とっくの昔に卒業していてもおかしくない。わざと手を抜いていたのだろうなと思った。
「ゲンマは、なんでもっと早く卒業しなかったの?」
任務や修行が終わったあとは、家が近いので大抵ゲンマと一緒に帰る。その日、私が横から覗き込んで尋ねると、ゲンマはめんどくさそうに顔をしかめた。
「お前やガイみたいに優秀じゃないんで」
「めちゃくちゃムカつく」
皮肉にも程がある。ゲンマの実力は私たちの中で群を抜いているし、それが年齢差のせいだけでないことくらい、周りのチームを見ていれば何となく分かる。
私が頬を膨らませて睨むと、ゲンマはやれやれと息を吐いて聞き返してきた。
「お前こそ、なんで三年で卒業したんだよ。友達ともっとゆっくり勉強したって良かっただろ」
「私は……」
サクモおじさんのことが、チラリと脳裏をよぎる。もともとカカシに追いつきたくて、がむしゃらに走ってきた。カカシを見返したくて、認めてもらいたくて、ただそれだけだった。でも今は違う。
「私は、何もできない子どものままでいたくなくて。忍びになっても、人を捨てたくなくて。それができるのか、証明してみたい」
こんなこと、誰にも言ったことなかったし、突然聞かされても意味が分からないかもしれない。そう思ったけど、ゲンマは少しびっくりした顔で私を見つめたあと、そっかとつぶやいた。受け止めてもらえたみたいで、胸の奥が温かくなった。
「ま、その前に修行だな。お前、何だよあの自己紹介。これと言って得意なことはない? 強いて言えば? あんだけ手裏剣もクナイも付き合ってやったのに得意分野に入ってねぇのショックなんだけど」
「な、なによ。自分だって得意なこといっぱいあるくせに何も言ってなかったじゃん」
「俺はシンプルに言っただけだ。得意分野がないなんて言ってない」
屁理屈だ。そう思ったけど言い返せずに、私は黙ってゲンマの横顔を睨んだ。ゲンマは不敵に笑いながら、私の視線を軽くかわしてまた歩き出す。
お兄ちゃんみたいなゲンマが大好きだ。でも今は、それだけじゃだめだって分かってる。
ガイの修行に最後まで付き合っていたら身が持たないので、大抵いつも私とゲンマが先に帰るのだが、ゲンマの顔を見ていたら、これからはもう少しガイと一緒に頑張ってみようかなと思った。
***
の話を聞いて俺は驚いた。の発言は、俺が親父からずっと聞かされていた『澪様』の教えと一致していたからだ。
「澪様はな、道具として生きることに絶望していた俺に違う道があると教えてくれた。忍びは忍びとして生きるとき、人を捨てなければならないときがある。だが澪様は、道具は道具なりにプライドを持てと、お前たちは人間だ、人間を捨てるなということを、何度も何度も伝えてくださった。俺が今もここにこうして生きていられるのは、澪様のお陰だ」
――忍びは道具だ。そう思わなければ、何かが起きたときに自分を保てなくなる気がした。伯父さんが死んだとき、道具なのだから仕方がないと思おうとした。
俺がそもそもの面倒を見始めたのは、彼女のそばにいれば、親父の尊敬する『澪様』の教えについて何か分かるかもしれないと思ったからだ。だがこの三年、彼女の無邪気さや寂しさに引き寄せられ、俺は『澪様』のことなどもうどうでも良くなっていた。
だが。
「忍びになっても、人を捨てたくなくて。それができるのか、証明してみたい」
やはり、は『澪様』の教えを継いでいるのかもしれない。俺の中で忘れかけていた気持ちが再び湧き上がってくるのを感じた。