影に陽は差し
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「それでも、祈ることをやめない」
チョウザ班に復帰して二か月ほどが経過した。性質変化の修行はなかなか思うようにいかないし、気持ちだけが先走ってしまうことも多い。私はその度にヒルゼン様が思い出させてくれた呼吸法を繰り返し、家に戻るとひとりで将棋盤に向かった。もちろんDランクばかりで報酬はまだ大したことないので、子ども用のおもちゃみたいな盤だ。でも、ひとりで時々使うくらいならこれで充分。たまにアイたちがひっくり返して遊んでるけど。
今日も任務と修行を終えて帰宅すると、縁側に散らばった駒と、その脇で丸くなって眠っているアイとサク。近頃はまったくついてこないけど、ばあちゃんとの約束はちゃんと果たしているんだろうか。
忍猫との契約を結んですぐ、私のそばにいるのはばあちゃんに頼まれたからだと二人に告げられ、ショックを受けた私は彼らから距離を取った。でも今なら、あの頃より落ち着いてまたアイたちと話せる気がする。私は未熟だ。彼らと信頼関係なんて、築けるはずがない。
「ただいま」
小さくつぶやいて、アイの頭を撫でる。アイは眠ったまま気持ちよさそうに喉を鳴らし、軽く伸びをして舌を出した。なんだか懐かしくなって、私は思わず笑みをこぼす。
時間はかかるかもしれないけど、いつか、彼らとまた昔みたいに気兼ねなく笑い合えるといいな。
***
任務も呼び出しもない久しぶりの休日、私はアカデミー帰りのリン、オビトと一緒に甘味屋に寄った。四年生に上がった二人は前より自信に満ちていて、前より親密そうに見えた。二人での修行も続けているらしい。もちろん、リンは特別授業があるからいつもというわけにはいかないけど。
「はどう? チームとか任務とか」
「やっとちょっとずつ慣れてきたって感じかな。ガイとも何だかんだ上手くやれてるよ」
「あの、ガイと……」
オビトが信じられないものでも見るような目でこちらを見やる。分かる、分かるよ。私も最初はそう思ってたもんね。演習でオビトとガイと組んだ日のことがもう遠い記憶だ。
私のアカデミー在学中からばあちゃんが次第に忙しくなって、オビトに惣菜を渡すこともなくなった。オビトは自分でも料理を頑張るようになり、時々リンと一緒に食事を作るらしい。こっそり「付き合ってるの?」と聞いたら、オビトは「そんなわけないだろ!」と真っ赤になって怒った。はたから見てるとすごく仲良しに見えるけど、リンからすればオビトは弟みたいなものかもしれない。それも分かる。私もそうだったもん。
オビトは不器用で天邪鬼だし、その上うちはとの狭間で複雑な立ち位置にいる。の私が余計な世話を焼けばオビトをさらに面倒に巻き込む気がして、在学中はあくまで『リンの友達』という立ち位置から接することが多かったけど、もうあまり心配しなくていいかもしれない。オビトも強くなろうとしている。リンの存在が、彼を孤独なうちはから変えようとしているかのようだった。
「ゲンマとは相変わらず仲良く修行してるの?」
リンに聞かれて、私は曖昧に笑う。
「仲良くというか、チームメイトだからね。みんなで修行することが多いかな。今は各自で鍛錬することがほとんどだし」
「は風遁の修行してるんだよね? すごいね、かっこいい!」
「まだ全然だよ……葉っぱを切るにも手こずってる……でもアスマはすごくてさ!」
私が勢いよく話し続けるのを、リンはニコニコと楽しそうに聞いてくれる。久しぶりに会った親友は昔と変わらず、私に無条件の安心感を与えてくれた。オビトもまた、団子をつまみながら黙って私の話を聞いてくれていた。やっぱり、二人といると落ち着く。
リンとオビトは、このあとリンの家で一緒に食事を作るらしい。私もリンから誘われたけど、今日は遠慮しておいた。風遁の修行を始めて三か月だが、まだ木の葉は半分も切れない。単純計算で、このペースだと間に合わない。焦りは禁物だが、できることは確実にしていこうと思った。いつかリンが言ってくれた言葉を思い出す。
『、いつも私の前をしっかり走っててよ。約束だよ?』
本当は、憧れているのは私のほうだ。そのリンの期待にも応えたいし、ゲンマに安心して、いつかは頼ってもらえるようになりたいし、遥か先を行くカカシに追いつきたい。目標がたくさんあるのはきっと、幸せなことだ。
二人に別れを告げて、私は家路を急いだ。木の葉の修行であれば家で充分できる。料理は相変わらず得意とは言えないけど、いくつか定番料理はマスターした。急いでご飯を作って、あとは庭で修行に取りかかろう。
ゲンマは今日何してたかな。ガイは絶対に演習場で修行だけど。
昔の私なら、暇さえあれば修行付き合ってってゲンマの家に行ってただろうけど、同じチームで毎日顔を合わせる今、ゲンマは休みの日まで私の顔見たくないかもなっていう気持ちが湧くようになった。やっぱり昔とは、何かが変わっちゃったな。そんなの当たり前だけど。
家まで五分というところで、私は元気な声に呼び止められた。振り向くと、つい先ほど思い浮かべていたゲンマ――ではなく、ゲンマのおばさんがこちらに歩いてくるところだった。