影に陽は差し
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「それでも、祈ることをやめない」
心が整理しきれていない。当然だ。試験結果が公表され、班編成が発表されるまでにほぼ一時間しか経っていない。が卒業試験を受けることは分かっていたし、受かるだろうということも見当がついた。だがこれだけ卒業者がいる以上、まさか同じチームになるとは思わなかったからだ。
これまでの約二年半、妹みたいだと思って面倒を見てきた。友人というよりむしろ、本当に妹のように接してきた。それはこれからも変わらないだろうし、卒業したあとも時間さえあれば時々は修行に付き合ってやってもいいかと思っていた。彼女がそれを望むならだが。
まさか同じチームになるのは想定外だ。チームメイトである以上、これまでと同じというわけにいかないだろう。守ってやりたいなんて、チームメイトに対して抱く感情でないことくらい分かる。守ってやるのが当然だというこの意識をどこかで変えなければ、同じチームの中で対等な関係は築けないだろう。
戸惑っている俺に唯一できる反応は、心の整理がつくまで彼女に対して知らぬ顔をすることくらいだ。実際どういう顔をすればいいか分からなくて、ついに最後までのほうを見られなかった。だがもちろん、の視線は相当感じた。何で無視するの――無言の圧がすごかった。せめて一晩、一晩だけでも考えよう。まずは明日から、どうやってと向き合うか。
だが一晩寝ても二晩寝ても二週間が経っても、俺の中で答えなんか出なかった。どうすればいいか考えつかないまま、の視線から逃げるように顔を背け続けた。このままではいけないと分かっているのに、俺は何もできずにただ時間が解決してくれるのを待っていた。
「ゲンマ、新しいチームはどう? どんな子がいるの?」
母さんが無邪気に聞いてくるのを、俺は曖昧にごまかして逃げた。のことなんか言えるはずがない。がチームメイトだなんて母さんからしてみれば喜ばしいことかもしれないが、事はそう単純じゃない。別のチームでいてくれたほうが良かった。
猫探しの任務でとガイが喧嘩(というよりが一方的にキレている)を始めると、チョウザ先生が呆れ顔でチームワークの大切さを説き始めた。俺はふと、今なら俺の疑問を解消するための何かを得られるかもしれないと思った。
チョウザ先生は俺の問いを笑って一蹴した。
「お前は少々難しく考えすぎだ。お前たちは、任務を達成するため、仲間のために自分に何ができるか常に考えて行動する。簡単だろう?」
正直、拍子抜けしてしまった。任務達成のため、仲間のために、自分にできることをする。そんなものは自明で、今さら教えられるようなことでもない。
だが確かに、その『簡単』なことが全てなのかもしれないと思った。チームメイトになったのだから、対等な関係にならなければ。俺はそう気負いすぎていたのかもしれない。
はきっと傷ついている。ほんの数日前まで普段どおり一緒に修行していたのに、チームメイトになった途端、手のひらを返したように無視されたのだからショックを受けないほうがおかしい。「何で無視するの」と問い詰められたとき、俺は逃げてしまった。今さら遅いかもしれないが、俺はこの二週間のことを素直に謝ろうと思った。
ガイに誘われた甘味屋に、も一緒についてきた。あとで一緒に帰って、ちゃんと謝ろう。これからのことは、同じ時間を過ごす中で考えていけばいい。いつかしっくりくる距離感が互いにつかめるだろう。縁あって、同じチームになったのだ。そのことを今憂いたところで何も始まらない。
甘味屋で団子をつまんでいるとき、突然アイとサクが現れての団子を奪っていった。それだけならまだしも、かなり辛辣なセリフを残して去っていった。しかもこんなに、人目がある店で。は傍目にも明らかなほど動揺していた。
「ごめん、やっぱり私、帰るわ。ガイ、ゲンマ、また明日ね」
はやっとのことでそう言い残し、ヨロヨロと帰っていった。ガイは本気で事態が分からないらしく「のやつどうしたんだ?」と首を捻っていて、と話していた紅というくノ一は心配そうに彼女の後ろ姿を見送っている。俺は串に残った最後の団子を口に放り込んで、が置いていったお代の横に自分の分を置いた。
「俺も帰るわ。ガイ、あと頼むぞ」
「なんだ、もう帰るのか。やっぱり付き合い悪いぞ、君たち」
ガイの空気の読めなさは尋常じゃないな。がキレるのも分からないではない。だがきっとガイのこの無神経さは、俺たちのチームに不可欠な何かになる気がする。それは俺にもにもないものだから。
俺はガイに軽く片手を振ってから店を出た。の姿はもう見えない。家に帰ったのであれば、急げば途中で追いつけるだろう。
足早に家路をたどりながら、何度もと帰ったアカデミーの放課後を思い返す。一緒に帰ったというより、俺が勝手についていったというほうが正確だが。
がやつれるくらい落ち込んで悩んでいたとき、放っておくことができずにかなり世話を焼いた。連日の教室まで様子を見に行くという、今思えばめちゃくちゃな行動にも出た。は恥ずかしいから辞めろと言ったが俺は聞く耳を持たず、どうやらは彼氏がいることにされたらしい。俺も以前の手を握って帰宅しているところをクラスメイトに目撃され、後輩と付き合っていると噂になった。面倒だから噂はそのままにしておいた。
そんなことさえ思い出になるくらい、時間が経過した。今の俺たちはあの頃と立場が違う。それでも急に変わる必要はないのだと気づかされた。
「」
名前を呼んで、後ろから彼女の手を掴む。はひどく驚いた様子で振り返った。二週間前とは逆の立ち位置で、俺たちは同じ場所に立っていた。