影に陽は差し
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「それでも、祈ることをやめない」
チョウザ班に配属されて約三ヶ月。少しずつガイの扱いに慣れ、ゲンマとの連携も取れるようになり、里内のDランク任務はやっと成功率八割ほどになった。体を張る任務は大体ガイが率先してやってくれるので、彼の身体は生傷が絶えない。アカデミーの頃から厳しい修行を続けていつも全身ボロボロだったから、さらにひどい有り様というわけだ。ゲンマは作戦の立案と状況に応じた指示出し、私は二人のサポートという役割が板についてきた。
つまりチョウザ先生は、ほとんど見ているだけ。
「班編成はアカデミーの成績で振り分けられている。成績だけで見れば、チーム内で最も評価が低いのはゲンマだ」
チョウザ先生はそう言ったけど、どう見てもゲンマの実力が私たちの中ではトップだ。そこでチョウザ先生はゲンマに適切なポジションを与えると言い、私たちの指揮を執らせることを決めた。
結果、これがハマった。ゲンマは人をよく観察する。状況判断も得意だ。ガラじゃないなんて本人は言うけど、リーダーとしての素質は充分だと私も思った。やはりゲンマは、誰から見ても頼りになる。
すでに五回目となる猫探しの任務を終えて火影邸を出たとき、ちょうど見覚えのある顔を見かけて私たちは足を止めた。ガイの父親だ。アカデミーの頃にも何度か見かけたことがある。恐らくガイにこの熱血さを叩き込んだ人だ。
しかし今は、自分よりかなり若い忍びに向けて一生懸命頭を下げていた。
「お願いします! この通りです、次こそ……」
「そんなこと言われても。あんたがいると困るんだよね、何回言っても変わらないでしょう? 悪いけど外れてもらうよ」
「お願いします! 何でもやります、だからお願いします! お願いします!」
実は以前にも、こんな光景を見かけたことがある。ガイの父親は私の母さんやゲンマの両親に比べても年上だろうと思うが、まだ下忍のままらしい。三年以内の合格率はさほど高くないが、中忍試験は戦時中でも毎年行われているため、いつかは合格する者がほとんどだ。あの年で下忍というだけでも珍しいのに、どうやらガイを遥かに上回る不器用さのようだ。どのチームからもたらい回しにされていると聞いた。
チラリと横目でガイを見ると、彼は悔しそうな顔で唇を噛んでいた。
「行こう」
小さく吐き捨てて、ガイが大股で歩き出す。彼の普段の一歩でさえ私の一.五倍くらいあるので、私はほとんど走りながらガイのあとを追いかけた。ゲンマもその後ろを早足でついてくる。
ガイは火影邸からかなり離れたあと、ようやく足を止めて大きく息を吐いた。
「……カッコ悪い」
絞り出すようにして、ささやく。いつもポジティブで明るいガイのそんな姿は初めて見た。
でも私はアカデミー時代の、ガイと父親の姿を何度も見かけている。思わず口から、こぼれてしまった。
「でも私は、ガイが羨ましいよ」
私の言葉を聞いて、ガイが弾けたように振り返った。信じられないものでも見るように目を丸くして、穴が空きそうなくらい私を凝視する。そしてようやく、疑わしげに口を開いた。
「……そんなわけないだろう。のおばあちゃんは三代目の右腕で里の人たちから信頼されてる。だってボクと違ってアカデミーの頃から優秀だ。ボクのどこに、が羨むものなんかあるっていうんだ」
「ガイ」
口を挟んだのはゲンマだった。ゲンマは私の苦しみを知ってくれている。私が話せないことも、無理に聞かないでずっとそばにいてくれた。だから大丈夫だよ。私は軽く片手を挙げて、ゲンマの言葉を遮った。
ガイもこんな風に弱音を吐くことがあるんだな。私は力なく笑いながら、照れ隠しに頭を掻く。
「お互いきっと、無い物ねだりだね。ガイはアカデミーの頃よくお父さんと一緒に修行してたでしょ。お父さんが全力でガイにぶつかってく姿も何回も見かけた。私はすごく、羨ましかった。カカシのところだって……」
言いかけて、心臓が潰れそうになる。サクモおじさんはもういない。任務の合間によくカカシに修行をつけていた、そして私の話もよく聞いてくれたサクモおじさんは、もうどこにもいないんだ。
涙がこぼれそうになるのを堪えて、私は話を戻した。
「そうやって全力でぶつかってくれる、自分のために時間をたくさん割いてくれる、そんな家族がいることが、私はすごく羨ましい。私はいつもひとりだったから。だから私はガイのお父さんがああやって一生懸命なのも、別にカッコ悪いなんて思わない。そんなものより大事なことがあると思うから」
ガイは呆然と目を見開き、しばらく黙って私を見ていた。こんなことを人に話すのは初めてだ。ゲンマにだって、ふんわりしたことしか言ったことない。ゲンマはきっと全部分かってると思うけど。
ガイはばつが悪そうに目を泳がせながら、言った。
「、すまない……ボクは、君のことを何も知らなくて」
「そりゃ、話してなかったんだから、知らなくて当然でしょ。気にしなくていいよ、慣れてる」
ガイのがっしりした腕を軽く叩きながら、私は歯を見せて笑った。
「お団子でも食べに行こうよ。今日は奢るよ」
「いや、ボクのほうこそに奢らなければ……」
「何でよ。たまには大人しく言うこと聞いてよ」
「こそ励ましてもらったお礼に大人しく奢られてくれないか」
「めんどくさ! やっぱ行くのやめようかなぁ」
「それはだめだ! ここはこうしよう、今日はボクが奢るからは……」
「めんどくせぇから俺は帰るわ」
私とガイのやり取りに愛想を尽かしたらしいゲンマがあっさり立ち去ろうとするのを、ガイが全力で阻止する。
「待ってくれ、ゲンマ! 君も一緒に来るべきだ! ここで退くのは青春の敗北だぞ!」
ガイが大真面目な顔で説得しようとするのを、ゲンマが呆れた様子で見やる。
「なんだそりゃ。お前はいつも大げさなんだよ」
私も嘆息しながらも、思わず笑みをこぼしてゲンマに助けを求めた。
「ね、ゲンマも一緒に行こうよ。私だけ置いてかないで」
「……仕方ねぇな。じゃあガイの奢りってことでいいか?」
するとガイは嬉しそうに頷き、こぶしを握りしめて意気込んだ。
「もちろんだ! さあ、三人で青春を堪能しよう!」
私はゲンマと顔を見合わせて、小さく笑う。少しずつではあるが、私たちは確かにチームになれているのかもしれない。これからまた一つずつ、互いを知っていけばいいと思えた。