影に陽は差し
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「それでも、祈ることをやめない」
ゲンマのおばさんは、私がゲンマと同じチームということを知らなかったし、何なら私がアカデミーを卒業したことさえ知らなかった。
おばさんは最初めちゃくちゃ驚いてたけど、ゲンマが何も言わなかった理由をすぐに察したようだった。私も今なら何となく分かるよ。ずっと妹みたいに面倒見てきた後輩が同じチームで肩を並べることになるなんて、言いにくかったと思う。一度タイミングを失えば、あとはわざわざ言うのもなってなるよね。
チーム配属後すぐなら、ゲンマがおばさんに話してないことに拗ねてたかもしれないけど、今ならそれも仕方ないなって思える。
おばさんはすぐ笑顔になって私を勢いよくハグした。
「がチームメイトだったなんて、ほんとに不思議な縁ね! ゲンマとはどう? 上手くやれてる?」
「ゲンマには助けてもらってばっかりだよ。ゲンマ、すごいんだよ! 指示が的確だし仲間のこともよく見てるし、楊枝吹もどんどん強くなってるよ。私なんか……」
言いかけて、ハッと口をつぐむ。いけない、すぐに自分のこと持ち出して下げちゃう。相手を困らせるだけだ。
でもゲンマのおばさんは気にした様子もなくニッコリと微笑んで私の肩を叩いた。
「は三年で卒業しちゃうんだもの、すごいに決まってるでしょ。ゲンマは昔からといると嬉しそうだったし、そのが同じチームにいるなんて、とっても刺激になってると思うわ」
「そ、そうかな……」
あの頃と今じゃ、もう違うんだよ。そう思ったけど、おばさんにそんなことを言う必要はないと思った。余計な心配かけたくないし、おばさんにとっては、私はあの頃のままでいい。
おばさんは買い忘れたものがあって商店に二度目の買い物に行った帰りということだった。小さめの袋を提げて、楽しそうに笑っている。私のよく知っている、明るいおばさんだった。きっと、おじさんが帰ってきてるんだな。
案の定、今日はおじさんが帰ってきているから、久しぶりにケーキを作るんだとおばさんが意気込んでいた。おばさんは本当におじさんが大好きだ。見ていてこっちが恥ずかしくなりそうなときもあるけど、そんな二人がすごく羨ましかった。
そんな夫婦のところに生まれた、ゲンマのことも。
「、今日はうちに来れる?」
「あ、今日はやめとく……家帰ってご飯つくらないと」
「そっか、残念。絶対また来てね。の卒業祝いもやってないんだから」
そういえば、おばさんはイベント好きだったな。思い出し笑いしている私の頭の中に、ふと最近の物憂げなゲンマの顔が浮かんできた。火遁の話が出てから、時々浮かない顔をするようになったゲンマのこと。
おばさんなら、何か知ってるかな。
「おばさん、その……ちょっと聞いていい? ゲンマのこと」
「うん? もちろんいいよ」
気さくに笑って聞いてくるおばさんに安堵しつつも、ゲンマに内緒でこんなことしていいのかなって思いもある。でも、どうしても気になって私はおばさんにこっそり聞くのを止められなかった。
「不知火家って火遁……ええと、火の術が得意だって先生から聞いたんだけど、ゲンマ、火遁やりたがらなくて。その話が出てからあんまり元気ないんだ。何かあったの?」
おばさんは忍者じゃないし、何も知らないかもしれない。それならそれで、おじさんまでは聞かなくていい。そう思っていたのに、おばさんは思い当たる節でもあるみたいに、表情を曇らせた。
瞬時に、まずいと思った。軽々しく聞くんじゃなかった。
「あ、その……ごめん、もちろん無理に聞かないから……」
でもおばさんは私を見てまた笑いながら、優しく私の頭を撫でた。
「ゲンマのこと、心配してくれてありがとね」
――違う。声には出さずに、否定する。ゲンマが心配なのは本当だ。でも今おばさんに聞いたのは、それよりも好奇心が勝ったから。急に恥ずかしくなって目を伏せる私のことは構わず、おばさんは穏やかな声で続けた。
「あの子、小さいときに火の術の練習してて大火傷しちゃってね。お父さんがついててくれたし、すぐに病院で診てもらったから傷跡はほとんど治ったんだけど……お腹に痕は残っちゃって、それが目につく度に怖い怖いって泣いてたの。今はどうか、分からないけどね」
私はゲンマに無断でこんな大事な話を聞いてしまったことに強い罪悪感を覚えた。小さいときに大火傷なんて、怖いに決まってる。きっとそれがトラウマか何かになって、もう火遁はやらないって決めたのかもしれない。私はいつか風遁が使えるようになったらゲンマの火遁を助けられたらなんて思っていたけど、そんなのは私の自己満足だ。
ポロポロと泣き出した私を、おばさんがそっと抱き寄せてくれる。違う、そんなことしてもらう資格ない。私は自分が恥ずかしいだけだ。
そんな私に追い打ちをかけるように、私の耳に今最も聞きたくない相手の声が届いた。
「母さん……何で、泣かしてんだ?」
驚いて顔を上げると、角の路地から現れたらしいゲンマが心配そうにこちらを見ていた。