影に陽は差し
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「それでも、祈ることをやめない」
「おい」
サクモおじさんと話をした翌朝、アカデミーに行く途中に後ろから声をかけられた。振り向くといつも以上の仏頂面をさげたカカシが突っ立っている。
「お前……父さんに何言ったんだよ」
「ん? さーあねー」
そういえば、俺から注意しとくっておじさん言ってたっけ。私は素知らぬ顔をして横目でチラリとカカシを見る。昨日おじさんと話したことを思い出すと、確かにちょっとカカシの見方が変わるような気がした。
「俺に馬鹿にされたくなかったら、もっと強くなれよ」
カカシは眉間にしわを寄せてそう言った。本当にこいつは、何様なんだろう。でもこれが言えてしまうほど強いのだとしたら、私は初めてカカシを羨ましいと思った。
思わず笑みをこぼしながら、答える。
「そうだね。いつかあんたをビックリさせてやるから、覚悟しといてね」
カカシはそんな私の顔を見て、すでにちょっとビックリしたようだった。これまですぐに喧嘩腰に反応していた相手が急に笑いながら返事してきたので驚いたのだろう。いつまでもあんたみたいに子どもじゃない。
もちろん、そんなに簡単に変われるわけじゃなかった。そのあともカカシの辛辣なセリフにイラッとすることはあったし、訓練で同じチームになってその強引なやり方に反発することもあった。まぁつまり、色々あったんだけど。
でもそれも、今日で終わり。カカシは入学から一年と経たないうちに、卒業試験に合格してしまったからだ。
さすがに歯噛みする私に向けて、カカシはいつもの自信満々の調子でこう言った。
「先に行くからな」
その一言に、一瞬私の中の時間が止まったような気がした。ひょっとして、あのときサクモおじさんが言っていたことは本当だったんじゃないか――そんなことが脳裏をよぎる。
私は、ふと笑みをこぼした。これまでの苦い思い出が消えたわけじゃないけど、今この瞬間、初めてカカシが私を認めてくれたように感じた。
無遠慮にカカシを指差して、告げる。
「待ってなさいよ、カカシ」
自分でも驚くほど、自然にその言葉が出てきた。これまでカカシの言動に悔しさや怒りをたくさん抱えてきた。でもカカシが少しでも私を見ていてくれたのなら、もうそんな子どもみたいなこと言ってる場合じゃない。私ももっと頑張らないと。もっと強くならないと。
カカシはそんな私を見て一瞬目を見開いたが、すぐにまたいつもの不遜な態度に戻った。
「待たない。俺はもっと先に行く」
ほんとに。ああ言えばこう言う。でも、今はそれでいい。カカシがどれだけ先に行ったって、私はあきらめない。いつか必ず追いついてみせる。今度こそ、カカシを本当にびっくりさせてやるんだから。
「卒業おめでと、カカシ」
馴染みの本屋の前で軽く手を振るカカシの背中を見送りながら、私は心の中で決意を新たにした。これからが本当の始まりだ。カカシに追いつくために、もっと強く、もっと速く走らないといけない。
***
それからの私はこれまで以上に気合を入れて勉強に取り組んだ。正直言って、アカデミーの座学はそれほど難しくない。以前はつまらなくて眠ってしまうこともあったけど、今はそんな暇があるなら先回りして予習していたほうがマシだ。家にはアカデミーの全学年の教本があったので、私は二年のうちにはそれらの半分以上をとっくに終わらせてしまった。ここにきてようやく、私は入学前のばあちゃんの指導を(分かりにくいなりに)ありがたく思うようになった。
定期的な修行が終わってからも、相変わらずゲンマは私が頼めば修行に付き合ってくれたし、私は時々オビトやリンとも一緒に修行するようになった。リンは一年生の後半から医療忍術の特別授業を受けていたから、私たちの最終時限が終わったあとにもよく授業がある。私とオビトが先に修行を開始して、あとからリンが合流することも多かった。
「リン、体力がやばい。特別授業のあとに何でそんなに元気あるわけ?」
スタミナが一番の課題である私が息を切らせながら尋ねると、リンは悪戯っぽくウインクしながら力こぶを作るようなポーズを見せた。
「昔から体力には自信あるんだ。最近はチャクラコントロールも練習してるから、チャクラの使い方にも気をつければもっと省エネになるよ」
「やば。鬼に金棒じゃん。リンこわ」
誇らしげに笑うリンを、赤くなったオビトがこっそり横目で見ていた。
オビトとリンは最近よく手裏剣の修行をしている。ゲンマに二か月みっちり教えてもらったおかげで多少は人に教えられるようになったので、私が時々ふたりにアドバイスをする。私はといえば手裏剣の他に、最近はクナイの投擲も始めた。クナイは手裏剣より重量があるぶん、正確に目標地点まで到達させるのが何倍も難しい。実際、ゲンマは手裏剣が先だと言ってクナイの投げ方については教えてくれなかった。
「まずは手裏剣、手裏剣がもっと自在に使えるようになんねぇとクナイなんか練習したって無駄だ」
ゲンマは私との修行にいつも不知火の訓練場を貸してくれた。定期的な修行が明けてしばらくは私が訪ねると「また来たのか」とちょっと呆れ顔だったけど、最近はゲンマも私の誘いを待ってくれてるんじゃないかと思うくらい、快く迎えてくれるようになった。五年生になったゲンマは、ふと気づけば前よりさらに大きくなった気がする。そして当然、技術も上がる。
私の放つ手裏剣はゲンマの長楊枝にいとも簡単に弾かれるようになった。
「おい、楊枝に負けてんぞ。もっと肘を引いて、もう一回」
「はい!!」
カカシだけじゃない。ゲンマだってどんどん先に行ってしまう。カカシが一年足らずで下忍になったことを思えば、もう年齢なんて何の言い訳にもならないことを思い知った。
また戦争が始まったのは、二年生も終わりに差し掛かった頃だ。