295.閃光
十尾が復活し、ついに、終わりかと思った。私もサクたちも、他の尾獣たちとは比べ物にならないほどの強大な何かを感じた。尾獣たちとは全く異なる何か。何、というのは、分からないけれど。
十尾の尾獣玉のような攻撃が、近距離の私たちを狙う。八尾も九尾も、これまでの戦闘でチャクラを使い果たしたらしい。防ぐ手段は、ない。
「、飛ぶにゃ!」
「待って、カカシやガイたちが――」
「全滅するよりマシにゃ!」
仲間を置いて、飛べない。そばのカカシに思わず手を伸ばした、そのとき。
十尾の巨体が傾き、尾獣玉はそのまま明後日の方向へと勢いよく飛んでいった。
これは、一体――?
「間に合ったにゃ」
プルプルと頭を振ったあと、サクたちは百猫一魂の術を解いた。もう、限界だったんだろう。
そのとき初めて、夥しい数の気配がすぐそばまで迫ってきていることに気づいた。
「ちゃん、お待たせ!」
「さん、だ」
懐かしいやり取り。
呆然と振り向いた先には、忍連合軍の仲間たち――私のすぐ後ろに、傷だらけの顔を綻ばせたネネコちゃんと、呆れたように笑うツイさんの姿があった。
***
ネネコちゃんが、生きていてくれた。
ネネコちゃんは、第三次大戦の終戦後に生まれた。私にとって、初めてこの腕に抱いた、小さな小さな命だ。
この子は、戦争を知らない世代になってほしい――そう、心から願ったのに。
私はあのとき、ゲンマと一緒に赤ん坊のネネコちゃんを世話しながら、ゲンマとの未来を夢見てしまった。
その未来が叶わなかったとしても、私は。
ゲンマは無事だろうか。きっと、サクに頼めばすぐに探してくれる。でも、今は戦争中だ。全部終わってから――お互いに生きていたら、絶対に、自分の気持ちを伝えるんだ。
「たとえ俺が敗れたとしても、今度はそちら側の誰かがまた俺と同じことをする。戦争はなくならない。この世界に希望などないと思い知れ!」
マダラと共に十尾の頭に載ったオビトが、ナルトくんに向けて激しく言い放つ。
この戦争を乗り越えたとしてもまた、こちら側の誰かがオビトたちと同じことをする。
そうかもしれない。それが歴史だ。だからは五百年、彷徨い続けている。
それでも。
「どうだろうが、あることにする」
ナルトくんは、はっきりとそう言った。痛みを、絶望を、何度も味わってきたはずの彼が。
希望が本当にあろうがなかろうが、あることにする、と。
連合の仲間たちの強張った心が、少し解れていくのが分かった。本部のシカクさんの指示を受け、私たち連合軍は各里の強みを生かした連携攻撃を続ける。
でも十尾の計り知れない力を前に、仲間たちは次々と倒れていった。ネネコちゃんの同期のネジくんも、やがては本部――シカクさんや、いのいちさんたちも。
また、若い命が散っていく。
オビト――あんたは一体、何を証明しようとしてるの?
「仲間は絶対殺させない。その言葉も信念も、偽りじゃない。みんながそうやって、その言葉、思いと同じものを胸に、お互いに命を繋ぎ合ってる。その言葉と思いをみんなが諦めて捨ててしまったら、それこそ本当に仲間を殺すことになる」
折れかけたナルトくんの心を、今度はヒナタちゃんの言葉が掬い上げていく。
すぐそばで泣いているネネコちゃんの肩を、ツイさんがそっと叩いた。
どれだけ、痛くても、傷ついても。
私たちが、諦めるわけにはいかないから。
サクたちは続け様に百猫一魂を使用してチャクラが底をつきかけたため、また離脱させた。一足先に術から離れたトウだけが残り、今、連合はシカマルくんの指示で動いている。
一日で連合の忍の半数が死んだ。そこからさらに、半減といったところか。とはいえ、これだけの数が連携して追い詰めても、マダラにもオビトにも近づけない。
ナルトくんから渡された九尾のチャクラがなければ、とっくの昔に死んでいた。
(これだけのチャクラを……たった一人で)
かつて木の葉を滅ぼそうとした九尾と、本当の意味で和解したというナルトくん。
どれだけの、途方もない道のりを。
何度も何度も、九尾のチャクラが私たちを守ってくれた。温かく、力強い。
でも、辺り一面が消し飛ぶようなこれまで以上に強力な十尾の攻撃のあと、遂に私たちを包む九尾のチャクラが消え、ナルトくんは息も絶え絶えに膝をついた。
無理もない。あれだけのチャクラを、これだけの人数に。
サクラがナルトくんを回復させている間、私たちは連携して十尾の攻撃を防いだ。防いだというより、ギリギリのところで凌いでいる、といったほうが正しい。それでも、どんな苦境でも、互いに守り合うのが仲間だから。
オビト、あんただってそうやって――。
「十尾が最終形態になれば、俺たちの負けだ! 絶対に止めるぞ!」
八尾の声が轟く。最終形態って、アレより上があるってこと? 冗談じゃないわよ。
サクたちは、まだ戻ってこない。彼らの不在が、私の心を余計にざわつかせる。
サク。早く、帰ってきて。
「……何か来るにゃ」
頭の上で、トウがつぶやいた。十尾がまた、尾獣玉の準備を始める。初めは覚束なかった動きが、徐々に安定したものになっていく。
「見れば分かるわよ! また、攻撃が――」
「違う、そうじゃないにゃ」
トウの囁きも、今は構っている暇なんてない。
そのとき、十尾の前でとてつもない大きさに膨れ上がった尾獣玉が、忽然と消えた。
同時に、私たちの目の前に突然一人の男が現れた。
その背の衣には、四代目火影と刻まれている。
「俺は波風ミナト。衝撃に備えて」
「……えっ?」
まさか。まさかまさか――まさか。
跳ね上がる鼓動を覆い隠すように、これまでで最も強烈な衝撃波が辺りを包み込んだ。頭のトウを押さえつけながら、身を伏せてなんとか持ちこたえる。
やがて、風が落ち着いた頃、振り向いた金髪のその男は確かにこちらを見て微笑んだ。
「、か。キレイになったね」