疑っていたわけではないけれど、シリウスがわたしを幸せにするとすでに父さんに約束していたというのは本当に本当だったらしい。と結婚して一緒に住むつもりですとシリウスが畏まって言うと、父は
これは娘を持つほとんどすべての父親に言えることなのだろうが
少し寂しげな顔をしたものの、穏やかに笑って「をよろしく」と答えただけだった。他に何を聞くこともない。自分が卒業後間もない母さんと結婚したということもあるのか、こちらが拍子抜けしてしまうほどにあっけなく終わった挨拶のあとは、三人で静かに夕食の席に着いた。静かに、というのは、父はもともと口数の多い人ではないし、シリウスはシリウスでまだ少し緊張しているようだったので、ときどきが話題を振る程度だったからだ。
その日は父が仕事から帰ってくるまで、はシリウスとふたりでキッチンに立っていた。ホグワーツに入学して以来、夏休みはが食事を作ることも少なくなかったので、レパートリーはさほど多くないがそれなりに慣れてはいる。今夜は父の好きな肉じゃがに味噌汁、胡瓜とわかめの酢の物という完全なる日本食だった。肉じゃがは去年シリウスも気に入っていたので、今日は嫌いな人参を避けて多めに装ってあげる。酢の物はシリウスが作ったんだよと教えると、父は笑って美味しいよと褒めた。シリウスは嬉しそうだった。
「
ありがとな」
パジャマ姿のシリウスはの部屋にいた。時刻は夜の十一時を回った頃。さすがに同じ部屋……というのは、ないよね、と風呂上りのが恐る恐る父の顔色を窺っていると、父はあっけらかんと「シリウスはの部屋でいいだろう?」と言ってのけたのだ。堅いところのある人だと思っていたが、思いのほか前衛的だったらしい。それはそうか、今から十年以上前に、マグルでありながら遠い彼の地イギリスへ留学していた人である。そして向こうの、しかも魔女と結婚してそのまま居着いてしまうような人である。よくよく考えるとものすごく進んだ人なのか、それともただの馬鹿か。今さらながら父親に対する認識を改めなければならないだろうとは感慨深く思った。
「なにが?」
ドライヤーで乾かした髪に、シリウスも好きなトリートメントをつけていたは机の上に置いたスタンドミラー越しに彼を見た。ベッドの縁に腰かけていたシリウスは徐に立ち上がり、歩み寄って後ろからぎゅうと抱き締める。
やはりトリートメントの匂いが気に入っているのか、しばらくの髪に鼻先を押し付けてから、シリウスは噛み締めるように言った。
「家族って、いいなーって思って」
「なーに、改まって。家族だったらジェームズのパパとママがいるでしょー」
シリウスが『家族』って言ってくれて、とても嬉しかった。でも気恥ずかしさが勝って、何でもない振りをする。ジェームズの家にはロンドンに戻ってから改めてふたりで顔を出すことになっていた。
鏡越しに拗ねた顔をしてみせたシリウスが、後ろから覗き込んでの耳に少し強引にキスをする。
「それはそうだけど。ジェームズんちとはまた違うの」
「だってシリウス、父さんに会うの緊張してたじゃない」
「そりゃするだろ。結婚の挨拶にきたんだから」
そして今度は包み込むように、の肩をゆったりと優しく抱き締めた。
「三人で一緒に飯食ってるときにさ。あー、家族になったんだなって思ってすげえ嬉しかったんだよ」
「……シリウス」
そうだよね。『家族』って、きっと一番求めていたのはシリウスだから。
は肩に添えられた彼の両手をぎゅっと握り、首を反らして後ろのシリウスに若干体重を凭せかけた。
「うん。わたしのお父さんは、シリウスのお父さん。だからシリウスも、ここにはいつでも帰ってきていいんだよ」
LINDBERG
『リンドベルイ』の記憶
「ジェネローサス、進路、決まったか?」
高学年にもさしかかると、自然とそうした将来的な話題が時折ながらも顔を覗かせるようになる。アーチ型の窓を戴いた円形の談話室、大理石のレイブンクロー像に見守られる形で並ぶソファのひとつに寝転がって、ジェネローサスはため息が出そうなほど高い天井を見ていた。実際はそれほどでもなく、大広間のようにそうした魔法がかけられているに過ぎないのだが。不意にその間に割り込んできた友人を寝返りをうつことでかわし、ちょうどいいタイミングで込み上げてきた欠伸を見せ付けるように漏らす。
「決まっててもお前には教えねー」
「いーだろ、減るもんじゃなし。あー、困った! 面談、明日なんだよ」
「せいぜい絞られてこいよ。『レルヒくん、君にはやる気があるのですか?』」
「ああ……やべえ。先週絞られたばっかなのに。どうしよう、なあ、どうすればいい? 俺って何が向いてるかな」
「さあ。このへんで手でも打っとくか?」
言いながら、傍らのテーブルに散らばっている職業パンフレットのひとつを適当に取り出して手渡す。向かいのソファに腰かけたティモテは一瞥するだけでそれを受け取りもせずに声を荒げた。因みにトロールの訓練師だった。
「俺は真剣に悩んでるのに! なー、ジェレミアは植物園に就職したいんだってさー。好きだよなぁ、あいつ。さっきもドレークの手伝いに行くんだって」
「そーだな。あいつの手は女より植物に優しいから」
「なー、お前もう面談終わったんだろ? な、な、なに話してきた? フリットウィック、なんか言ってたか?」
「教えねーって言っただろ。いーじゃん、どうでも。お前もうルーン語とらないって言ってたし」
「はっ、腹いせか! 何だよ、しょうがないだろ……あんなの本気でやってたら俺ほかの科目全部落とす!」
「落とせよハッタリ天パ」
「天パ!! ……この、このこの、人が一番気にしてること!!」
「うるせえお前のせいで昨日俺はいつもの倍以上訳さなきゃなんなかったんだぞ分かってんのかオイ」
「そのことは謝っただろー。小さいこと気にしてるとモテないぞー」
「あーら、お生憎さま。ジェニーが誰にも相手されなくなったら、わたしがもらってあげるわよ」
陽気な女の声と、同時に後ろから回された細いふたつの腕。身体を起こしたジェネローサスは、それを払うことはせずにただ淡々と眼前の男に向けて言い放った。
「だとさ。残念だったな、ティモテ。でもマルタ、生憎だけど次のホグズミード、俺は先約済みなんだ」
「知ってるわよ。わたしだって約束があるし。だから、あなたが誰にも相手されなくなったら、そのときは可哀相だから拾ってあげるって言ってるの」
「ありがたいな。でも例えば俺とフィディーとどっちも道端に捨てられてたとしたら、どっちを拾う?」
ちらりと巡らせた視線の端でたまたま談話室に戻ってきた弟を捉えたので、何とはなしに聞いてみた。するとマルタはほとんど間を置かずにやはり明るく即答する。
「弟くんに決まってるじゃない。あの子、可愛いもの」
弟がこの寮にやってきてからというもの、周囲のそうした反応にはとっくの昔に慣れていた。むしろそのことを楽しんですらいる、そう思うようにしている。ジェネローサスは概して静かなその談話室で、いつものように高らかに声をあげてみせた。
「だってさ、フィディー! マルタがお前のこと好きだってよ」
「やだジェニー、照れるじゃない」
マルタがわざとらしい声で笑うと、フィディアスはあからさまに顔をしかめてこちらを見た。呆れているというよりは、はっきりと嫌悪といったほうがいい。こういった類の冗談を弟が嫌っていることは彼もよく知っていた。
クラレンスと一緒にそのまま寮に上がっていこうとする後ろ姿に、ティモテが慌てて声をかける。
「なあフィディー、俺、明日フリットウィックの面談でさあ。進路希望どうするか迷ってて、兄ちゃんに聞いても教えてくれないんだけど。ジェネローサスの希望とか知ってる?」
すると、振り向いたフィディアスは見つめる兄の視線など飛び越えてティモテだけを見返し、素っ気なく言った。
「知らない。興味もないし」
もともとひっそりとしていた談話室が、さらに温度を下げたような気がした。フィディアスはその後さっさと男子寮に消えたが、マルタはつまらなさそうに唇を尖らせていつまでもそちらを見つめている。ティモテはぎこちなく天然パーマの頭を掻きながら声量を落とした。
「なあ、最近お前ますます嫌われてねーか?」
「そーか? そんなに変わってないと思うけど。ま、あいつ天邪鬼だから。好きって素直に言えないタイプ」
「それは損するタイプねー。あ、でもこの前フィディーが女の子と一緒に歩いてるの見たわよ? 黒髪の可愛い子」
「へーえ……子供子供って思ってたけど、あいつもとうとう恋なんかする年頃にでもなったのかね」
「あ、そういえば女の子で思い出したけど、今朝ね……」
そのあとも、しばらくマルタの他愛ないゴシップは続いた。それを右から左へと聞き流しながら、ジェネローサスは考える。本当は分かっていた。距離のひらいていくこと。自分たちの抱えているものを思えば、いつまでも目を逸らし続けるわけにはいかない。やがてはフィディアスも。いつまでも、名前のない兄弟ではいられない。我々は、『リンドバーグ』の名の下に生まれたのだから。
始まりは古く、スウェーデンの王族に仕えた魔法使いだったらしい。『リンドベルイ』という名前を授かり、時代が下るにつれて場所を移し、中世の末期にはイギリスへ入って『リンドバーグ』となった。
純血、といってもいいのだろう。ただ一般的に『純血』とされる家系と少し異なる点は、脈々と続く魔法族のみの血というよりは、あくまでも『リンドバーグ』であるということに誇りを持ってきたということだ。広く知られる純血一族といえど、マグルやスクイブがまったく交わったことのない家系などもはやどこにも存在しないだろう。『純血』であることを誇っても、それ自体にはさほど意味がない。根底にあるのは、自分が『リンドバーグ』であるという意識、ただそれだけだった。
純血主義、とは少し違う。この世にはマグルも必要だ。実際、先祖が仕えていた王家はマグルの一族だった。マグルに奉仕していたことを誇っているのではない、けれども確かに自分たちの使命に高いプライドを持っていたのだろうと思う。だからこそ『王』から授かった『リンドベルイ』を守り抜いてきたのだ。そして魔法使いとして、少しでも優れた子孫を残そうとした、結果として『純血』を保つことになったに過ぎない。自分たちはただその血を驕るだけの愚昧な純血とは、ちがう。我々には、王族に認められたことへの強い矜持がある。
「大昔の話じゃないか」
「だから何だ? 昔のことはただそれだけで忘れてもいいっていうのか」
「そんなこと、言ってない。でもやたらとしがみ付いててもかっこ悪いって言ってるんだ。リンドベルイが仕えた王家はもうない、俺たちが参謀だった時代はとっくに終わったんだ。今は……ただのしがないイギリス人だろ。いつまでも過去の栄光にしがみついて、そんなの時代錯誤だ。かっこ悪いよ、俺は嫌だ」
同じことを父に言ったとき、父は弟を殴った。厳しい人だった。母は泣きながらも黙ってそれを見守るだけだった。俺は母を抱いて、何も言わずにただ頑なに目を伏せていた。
父のことは尊敬していた。同時に恐れてもいた。嫡男として父の期待に応えること、俺の行動基準はそれだけだ。違っていたのはホグワーツだけ。あの箱庭の中だけでは、しばし家の名前を忘れて戯れることができた。『リンドバーグ』の重みを解さない弟と、『普通』の兄弟でいられる貴重な空間。
だが、そう思っていたのは自分だけだったのかもしれない。弟の父への反発は年々強くなり、家族との衝突が増えた。リンドバーグ家の中にあって、当主の権限は絶対だ。俺も母も、決して口を挟まない。それがリンドバーグのルールだからだ。弟はホグワーツにおいても俺を避けるようになった。素直ではないフィディアスのこと、もともと向こうから進んで近寄ってくることなど滅多になかったが。それでも、こちらが構ってやれば大真面目に切り返す程度には関係は良好だった。良好だった、はずだった。
「お前、グリフィンドールのジェーンって子と付き合ってるんだってな」
図書館の隅で机にかじりついて勉強している弟の正面に座りながら、聞いた。フィディアスは一瞬羽根ペンを握る手を止めたものの、何事もなかったかのようにそのまま羊皮紙に薬学の式を書き連ねていく。ジェネローサスはそれをぼんやりと見つめて浅い背もたれにやや体重を移した。
「お前のことだから、ひょっとして指の一本でも触れてないんじゃねーの? ゴムが必要ならいつでも言えよ、いくらでも融通してやる」
「間に合ってます……!!」
分かりやすいほどに赤くなったところを見ると、思った通りまだそこまではいっていないらしい。羊皮紙を滑っていた羽根ペンの先が歪に揺らぎ、フィディアスは急いで間違えた箇所を訂正した。
ジェネローサスはさり気なく周囲に視線を巡らせ、誰もいないことを確認してからそれとなく声を落とす。
「それにしても意外だったな。お前はあのって子に惚れてるとばっかり思ってたんだが」
「レポートの邪魔なんですけど。お帰りいただけませんか、ミスターリンドバーグ」
「俺ならそんなもん十分で終わるね、ミスターリンドバーグ」
「そっちは七年、こっちは五年なんですけど同じ頭だったらおかしいじゃないですか」
いよいよ、怒り心頭に発するといったところか。握る羽根ペンがわなわなと震えるのを見て、ジェネローサスは防衛策に椅子を若干後ろに引いた。
「あの子、マグルボーンなんだってな」
さらり、と。さり気なく。だが案の定、フィディアスはその瞳に一瞬にして激しい炎を燃やして射るようにこちらを見た。緩いネットで受け止めるような心地で、ジェネローサスは正面から見返す。
弟の眼差しは、敵を威嚇するそれに他ならなかった。
「だったら何だっていうんだ」
「別に。ただ生まれを聞いただけだよ。何をそんなに過敏に反応するんだ?」
すると、ぐっと息を呑んだフィディアスは無理に視線を外して再び課題に取り組みはじめた。どのみち集中などできやしまい。僅かに身を乗り出して、ジェネローサスは囁く。
「結婚したいのか、と?」
「ばっ! 冗談も休み休み言え!」
突然声を荒げた弟に、突き出した人差し指を立てて「静かに」とたしなめる。真っ赤になったフィディアスは慌てて周囲を見回したが、すぐさま歯を剥いてこちらに噛みついてきた。
「ふざけんな。俺はジェーンと付き合ってるって言っただろ、あいつだってレナードって彼氏がいるの。何でそんな話になるんだ、バカ、ジェ、が……!」
「ふーん。最近やたらと父さんに突っかかるから、てっきりマグルボーンと結婚したいとかそんなことかと思ってた」
告げると、フィディアスは徹底的に軽蔑しきった目で膿でも見るように顔をしかめた。確かに、触れてはいけないところに触れてしまった感はあった。だが。
「そんな単純なことじゃない。あんたたちには分からないよ
俺の気持ちなんか、分かるもんか」
そして乱暴に荷物をまとめ、足早に去っていく。ジェネローサスはひとり残された窓際の席で、明るい日差しの下を箒で飛び回る選手たちを何か異国のものでも見るような心地で眺めていた。
(分かろうとしなかったって……そう言ったよな、)
でも本当に分かろうとしなかったのは、フィディアスのほうなんだぞ? あいつは何でもひとりで決め付ける。決め付けて、思い込みで勝手に離れていった。それでも俺は、あいつをただひとりの弟だと
今も。
「省に決めたのか、ジェネローサス」
「はい。八月付けで闇祓い局に配属されることになりました」
父とて、なにも息子が憎いわけではない。ホグワーツを卒業して戻ってきた長男の報告を受け、父は僅かに頬を緩ませて浅く頷いてみせた。
「そうか、立派に勤め上げるんだぞ。だがわたしにもしものことがあれば……分かっているな?」
「もちろんです、お父さん。僕はリンドバーグの人間ですから。でも、まだまだ先の話ですよ。僕はしっかり省に仕えたいと思っていますし、お父さんには長生きしていただかなければ」
「ああ、そうだな。努力するとしよう。お前の武勇伝を聞かなければならんからな」
「そうですよ。ですからどうか、大好きな煙草は少しお控えになってください」
リンドバーグ家の中にあって、当主の権限は絶対だ。俺も母も、決して口を挟まない。それがリンドバーグのルールだからだ。だがこのときばかりは、父の長年の習慣を軽く咎めた。一社会人として、今まさに最愛の息子が踏み出そうとしているのである。父も笑ってそれを受け取った。家族とは本来、こうあるべきではないか? 弟はその距離を測ることができなかったのだ。だから逃げた
『リンドバーグ』の名も、家族との接し方も持て余し、向き合うことをしなかったから。非は俺たちにあったのか? 連れ戻したとしても、また同じことが起こっただけだ。あいつは、リンドバーグの歴史を、そして家族を理解しようとはしなかった。それだけのことだった。
「脇が甘い、ジェネローサス! そんなことでは戦場から生きては戻れんぞ!」
チッとひとつ、舌打ちする一瞬さえ惜しい。打ち付けた背中を庇いながら素早く上体を起こし、迫りくる男へと渾身の思いで杖を振るった。
「明日から実戦に出るぞ。覚悟しておけ」
「……は。ですが明日は、ペピータが出るのでは? わたしは来月からだと聞いていましたが」
研修期間中の担当教官であるその闇祓いは、傷だらけの鼻先を大儀そうに掻きながら呻いた。
「奴は今、とても使い物にならん。弟が死んだそうだ。その程度で崩れ落ちるような柔な人間はここには必要ない。だから女の面倒などわしは見たくなかったんだ」
「……教官。そのような発言は時代錯誤ですよ。家族を亡くすなんてことは、人生で数えるほどしかありません。崩れてしまうことも、時には仕方のないことだと思いますが」
「たとえそれが、家を棄てた親不孝者でもか?」
それがこちらの事情を知ってのことなのか、単にペピータのことを言っているだけなのか。だがジェネローサスは教官のどこか試すような鋭い眼光を真っ直ぐに見返して、告げた。
「ええ。たとえ分かり合えなくとも
確かに血を分けた兄弟に違いはありませんから」
「そうか。せいぜいお前が使い物にならなくなる日など来ないように祈ろう。とにかく明日はお前が出ろ、いいな」
「はい、分かりました。ムーディ教官」
浅く一礼し、横柄な老人の後ろ姿を見送る。いつかその背中を追い越すことができるだろうか。振り向かなければ見えない、そうしたところに。
権力を支えることに生き甲斐を感じる一族だった。リンドバーグの当主にならんとする者は、一度は必ず力のある何かに付き従い先祖の誇りを知る。何物に仕えるかは己の自由意志に委ねられた。かつては
イギリスへ移り住んでからという意味だが
マグルの権力者に従った者もいるという。そうした中で彼は、自らの意思で魔法省に入ることを決めたのだ。
そしてあの日の、運命的な邂逅。
「わたしのもとへ来ないか、ジェネローサス」
遥か昔、忠誠を誓う主を失った『リンドベルイ』はその記憶だけを誇りに高潔な血を守ってきた。
今、ジェネローサス・リンドバーグはかつての祖先が目の当たりにしたであろう輝かしい王の姿を見た。何百年という時を経て、リンドバーグはきっとこの日を待ち侘びていたのだ。