そんな。
が語ったことを、飲み下すには多少の時間が必要だった。いや、多少とはとても言えないかもしれないが。優に数分は頭を抱えて黙り込んでから、リリーは慎重に慎重を重ねてゆっくりと口を開いた。
「……つまり? その……あなたがスリザリンの子孫で、それから予知夢の能力があって。だからスリザリンを崇拝する『あの人』が、あなたを狙ってるっていうの?」
「突拍子もない話だって分かってるよ。信じてもらえなくても……しょうがないって」
「誰が信じないなんて言ったの。ごめんなさい……少し、驚いただけ。あなたがそんな嘘つくなんて思わないわよ。本当に、ダンブルドア先生がそう言ったの?」
「……うん。同じ理由で母さんも狙われて……だから母さんは、わたしたち家族を守るために敢えて『あの人』のところに行ったんだって。母さんが逃げたら、わたしが狙われるから。もちろん、守ってくれたとは思うけど……いつまでも、二十四時間ずっと一緒ってわけにいかないもんね。だから、しばらくはおとなしく『あの人』の言うこと聞いて、信用してもらって、それから改心させようって思ってた。でもその途中……事故で」
そう言ったが沈痛な面持ちで下を向く。リリーはその背をぎゅっと抱き寄せながら、次に何を言えばいいのか考えあぐねていた。
が、それまで黙って聞き役に徹していたニースがぽつりと言葉を発する。
「まさか、
お母さんと同じことをしようなんて、考えてないわよね」
リリーはパッと顔を上げ、ニースを見やってからまた腕の中のに向きなおる。は惚けたようにポカンと口を開けてニースを見ていたが、それでも否定はしなかったのでリリーは目を白黒させながら慌しく捲くし立てた。
「まさか……まさか、自分から進んで『あの人』の懐に飛び込もうっていうの? そんなこと! ねえ、、まさかそんな馬鹿なこと考えてないでしょう? ねえ」
「……わ、わたし。そんな……考えたことも、ないよ。いくらなんでも……『あの人』の下で働くなんて」
「そう、そうよね! そんなことあるわけないわよね……」
そうは言ったものの、まだどこかで暗い影が落ちる。眉間に力を込めたリリーの腕の中で、俯いたは絞り出すような小さな声を出した。
「……でも」
「でも?」
「……シリウス、とは。終わりにしなきゃいけないって、思ってる」
何を言い出すのだ、この子は。リリーは傍らのニースと目を合わせ、彼女の背を撫でながら優しく問いかけた。
「どうして終わりにしなきゃいけないの? 好きなんでしょう、シリウスのこと。わたしたちがどれだけやめときなさいって言ったって、あなたちっとも聞かなかったじゃない」
「……好き、だからだよ。好きで好きでしょうがないよ、大好きだよ。だから……だからもう、一緒にはいられない」
「どうして? あなたがどんな血筋だって、どんな力を持ってたって。生まれなんて気にするような人じゃないでしょう? 彼はあなたのことが好きなのよ。あなたのことすごく心配して、何も話してもらえないのは……自分が頼りないからだとか、あなたがもう自分のこと好きじゃなくなったからかもしれないとか不安になって」
潤んだ瞳で顔を上げ、ふるふると頭を振ったがこちらの肩に縋りついてしゃくり上げる。ときどき声を詰まらせながらも、彼女は懸命に言葉を繋げようとした。
「違う、そうじゃない。でも……だってわたし、『あの人』に狙われてるんだよ。ただでさえシリウス、オーラーなんて危ない仕事に就こうとしてるのに、なのにその上、わたしのせいで危険な目に遭うことにでもなったら……それこそわたし、耐えられないよ。そんなことに、なるくらいだったら……もっと普通の子と一緒になって、普通の生活ができるならシリウスだってそっちのほうがいいに決まってる」
「『普通』って何なの、。確かにあなたはちょっと有名な魔法使いの子孫で、ちょっと不思議な力を持ってるかもしれないけど。でも他は至って普通の女の子でしょう? 泣きもするし笑いもする、わたしたちと同じように恋だってする。何も変わらないじゃない。たまたまそのちょっと不思議な力のせいで、たまたま『例のあの人』っていう魔法使いに狙われてるだけ。でも事情なんて人それぞれ、みんなそれぞれその人なりの事情を抱えてるのよ。『普通』じゃない人なんてどこにもいないの。自分が『普通』じゃないから好きな人とも一緒にいられないなんて、そんなの卑怯だわ。ただ逃げてるだけよ」
「ニ、ニース!」
リリーは真っ青になってニースを見た。淡々と語った彼女は、ショックを受けて動けなくなったらしいをじっと見据えたあと、小さく息をついて視線を外す。そして肩の力を抜きながら重くならないように言葉を続けた。
「……病気なのよ、あの人。『普通』に生活する分にはほとんど支障はないし、仕事だって『普通』にできる。でも、いざ結婚ってなったら、一生付き合っていかなきゃいけないことじゃない? だから、一度別れ話になったときも……あ、去年の夏休みの話じゃなくてその前ね
まあ、別れようかって話になったのも、やっぱり病気のことが原因で。わたしは大丈夫って言ったんだけど……あの人はすごく気にしてたし、大丈夫なんて言えるのも今はまだ病気のことも、結婚だって実感できないからだって。それで大喧嘩になったこともあったしね。でもね、。お前には、もっと健康で『普通』の結婚生活を築けるようなそういう男のほうがいいんだって言われたときに、わたし、この人は怖いんだろうなって。いざ結婚したときに、わたしを傷付けることも……自分が傷付くことも。臆病になってるんだなって。でも同時に、ずるいなって思ったの。好きで付き合ってきたのに、こんなに好きにさせておいたくせに、いざってなると傷付くのが怖いの。やってみなきゃ分からないのに、やってみたあとで傷付くのが怖いからって自分が『普通』でないことに託けて諦めようとする。わたしの気持ちはどうなるの、あなたの気持ちは? お互い、好きなことが分かってるのに……何で別れなきゃいけないの。傷付いてもいいじゃない、やってみないと分からないんだから。それだけ痛みは増すかもしれない、でも大丈夫。わたしはあなたを、傷付けさせないからって」
「……そ、そんな話してたのに、去年の夏は別れ話になってたの?」
賞賛と落胆とが入り混じった面持ちで聞くと、ニースはばつの悪い様子でそっぽを向いた。
「あっ、あれはだってブルーノが……それに、わたしだって不安になってたの。結果オーライでしょ。わたしが卒業したら、わたしたち結婚するの! どのみちあの人はわたしじゃなきゃダメって分かったから」
駄々っ子のように声をあげてから、今度は怯えるのほうを見やる。そして涙に濡れた目を見開いた彼女の頭を撫でながら、ニースは静かに言い聞かせた。
「きついこと言ってごめんね、。でも……思い合ってるのに別れるなんて、わたしはナンセンスだと思う。もちろん、いろいろあるわよ、誰だって。でも、そんなに脆い関係じゃないでしょ、あなたたち。話してみてそれで怯むような男だったらから捨ててやればいいけど、でも、どうかな。オーラーを目指そうなんて奇人なんでしょう、シリウスって。『あの人』と戦う気がなかったら、そもそもそんな仕事やりたいとは思わないんじゃない。丸ごと守ってくれるわよ、シリウスだったら。目に入れても痛くないくらいのこと溺愛してるんだから。あなたがいなくなることのほうが彼にとってはむしろ問題なんじゃないの?」
「それはわたしも同感。『あの人』なんて大した障害じゃないわよ、。一度シリウスとじっくり話してみたら」
「そんな……シリウスには言わないって約束でしょう?」
「約束したのはリリーだけよね。わたしはそんなこと言ってないわよ」
「な、ニース……」
『あの人』のことが大した障害ではない、などとは思わないが。それでも、とシリウスの仲を考えればやはりそんなことは大した問題ではないように思えた。もちろん驚くだろう、ショックも受けるだろう。それでも、シリウスならばそういったことも含めてを全部守ってくれるだろうとリリーは思った。この七年、いろいろなことがあった。彼の人間性を疑ったことも一度や二度ではない。どうしようもない男だとも思うが、それでも魔法の腕とへの愛情だけは本物だ。それを思えばむしろ心強いし、彼以外の男には守れないだろうとさえ思った。
の頭から手を離したニースが、腕を組んで再び口をひらく。
「自分から話す? それともわたしに任せる? どっちでもいいわよ、どっちにする?」
「えっ、え、え……で、でもわたし……」
「ただ、シリウスはわたしのこと苦手みたいだから、わたしが話したいって言ったら多分身構えると思うけど。だからやっぱりできれば自分の口から話してほしいわね。できる、?」
「えぇっ! ちょ、ちょっと待ってよ」
慌てふためいてがニースに泣きつく。だがニースは取り付く島もないとばかりに首を振ってそれをかわした。
「だめよ、。せっかく話せる距離にいるのに、黙って離れるなんてきっと後悔すると思う。わたしも、ブルーノとちゃんと向き合って良かったと思ってるわ。長い人生、彼がちょっとしたハンデを持ってることで何かしら不自由があるかもしれないけど。でも病気も含めてあの人だって分かったから。どんなに考え足らずなところがあったって、もシリウスのことが好きなんでしょう? 卒業してもずっと一緒にいたいって思ってるでしょ、好き好んで離れたいなんて思ってないでしょう? 大事なのはあなた自身の気持ちよ、それを相手にぶつけなきゃ」
リリーはきびきびと喋り続けるニースを見て舌を巻いた。ほんとに強くなったわね、ニース。これもすべて、ブルーノとの彼是を経て培った強靭さかもしれない。これが家庭を持って子供でもできた暁には一体どれほどの女性に生まれ変わるのだろうと考えただけでも楽しくなってきた。だがはどうやらそれどころではないらしい。ぽろぽろと涙をこぼしながらニースの肩に縋りついた。
「シリウスのこと、好き?」
「……すき。だいすき。ずっと一緒にいたい、離れたくなんかない」
「それをわたしたちじゃなくてご本人に言ってあげてくださいな。彼、最近目に見えて落ち込んでるじゃない。がもう俺のこと好きじゃないかもって。そうなんでしょう、リリー?」
「え? え、そう……ジェームズが言ってたわ。だからわたしからもお願い、。お互いそんなに好きって傍から見ててよく分かるのに、それなのに距離を置いてるって悲しすぎるわ。『あの人』なんかに負けちゃダメ、。そんなの乗り越えて、幸せにならなきゃ」
すると顔を上げたは虚を衝かれたように目を丸くしたあと、慌てて目元を拭いながら涙声でつぶやいた。
「……ごめんね、心配かけて。ふたりとも、ほんとにありがとう……ごめんなさい」
「いいのよ、そんなこと。あなたも
苦しかったでしょう、」
言って、リリーは再び泣き出したの肩を抱き寄せて宥める。ニースは軽くの頭をぽんと叩いたあと、跳ねるようにベッドから下りて自分の布団にそそくさと戻っていった。
「もうひと寝入りできるわよね。わたし、もう少し寝るわ……おやすみ」
この状況でよく二度寝できるわね、さすがはニース。と感心していると、布団に潜った彼女はふらふらと右手だけを出して振りながら、すでに欠伸混じりの声で言ってきた。
「忘れないで、。あなたにはシリウスがいるし、それにわたしたちだって。卒業してもそれは変わらない、わたしたちはいつもあなたの味方よ。おやすみ」
「お……おやすみ」
なんとかそう絞り出したの瞳から止め処なく涙が溢れてくる。その背中をそっと抱きなおして、リリーは静かに繰り返した。
「そう、ニースの言うとおりよ。わたしたちがいる、あなたはひとりじゃないの。だからひとりで溜め込まないで、シリウスだってそんなこと望んでないわ」
「……うん。ほんとに、ごめんね。シリウスと……ちゃんと、話してみるから」
「ええ、分かった。怖いかもしれないけど、でも、自信持って。シリウスなら大丈夫よ、きっと」
そしてにっこりと微笑みかけてから、の身体をそっと布団の上に横たえた。黙ってそのまま目を閉じた彼女の髪を撫でながら、最後にひっそりと声をかける。
「『あの人』のことだって大丈夫。ダンブルドアがちゃんと考えてくれてるわ。ダンブルドアは『あの人』が恐れる唯一の魔法使いだもの、彼がいれば大丈夫よ。きっと、力になってくれるわ」
だが答えは、返ってこなかった。泣き疲れてすでに眠ってしまったようだ。抱えていたものを吐き出して、少しは楽になってくれたのならいいけれど。でも一番大事なのはやっぱり、最愛のシリウスと向き合うこと。
(大丈夫よ、シリウスなら)
もう一度、声には出さずにつぶやいて、リリーは自分のベッドに戻っていった。
Lily-Livered
踏み出す
卒業まで、ついに一週間を切ってしまった。試験を終えてからというもの、シリウスはジェームズやワットたちとよくホグワーツの敷地内をぶらついてはいたが、それも二週間続くといい加減にネタが尽きてくる。あとでどれだけ悔いても戻れない日がすぐにやってくるとは分かっていたものの、それでも今日のシリウスはひとりで寝室のベッドに横たわったままぼんやりと天井を見ていた。
本当は、こんなことをしている間にも少しでも長くと過ごしたい。卒業したら日本にいるお父さんに挨拶に行って、こっちで一緒に暮らそうとは言っているけれども、それも今ではすっかり自信がなくなっている。ここのところ、ははっきりと俺のことを避けていた。
試験を終えてから、何度かこの部屋に呼んだ。もちろん純粋に同じときを過ごしたいという思いもあるが、ずいぶん長くお預けだったため、久しぶりにを全身で感じたいと思ったのだ。ヒーラーを目指しているはNEWTの試験対策でこの一年寝る間も惜しんで勉強していた。そんな彼女を部屋に連れ込んで半ば強引に、なんてできるはずがないじゃないか。せいぜい抜け出して軽くホグズミードデートくらいが関の山だった。やっとそうした重責から解放されたといっても、どうせ養成学校に入ればまた地獄のような日々が始まるのだし、今ここで心も身体も自由になってほしかったのだ。もちろんそれはそのまま自分自身にも当てはまる。何も考えずに、ただ相手のことだけを思って快楽に溺れられるとすれば今しかないと。
バージンのは初めこそ痛くてそれどころではないといった様子だったが、慣れてしまえばこちらが驚かされるほど感度はよかった。調子が良くないときは唾液で濡らしても痛がって中断せざるを得ないということもあったが、大抵は中でもいけるし相性はいい。互いにこんな行為を知らない無垢な子供だった頃から知っているため、快感に悶える彼女を半歩ほど引いたところから眺めると殊更に興奮するし、のこんなあられもない姿を知っているのは自分だけだと思うと優越感が込み上げて最高の気分を味わうことができた。あのジェームズですら知らないの官能的な姿……俺だけの。もう他の女なんて要らない、がいればそれだけでいい。こんなにものめりこむとは、まさか思ってもいなかった。
だが、久しぶりに抱いたの身体は記憶にあるよりも強張っていた。もっと肩の力を抜いて、何もかもをすべて委ねてくれたはずだ。一緒に勉強していてもときどきキスしたり身体に触ったりするくらいで何ヶ月もしていなかったから、少し緊張しているのかもしれないと思って前戯にはそれなりに時間をかけたつもりだったのだが。
それでもは痛がった。続けて、と言ってきた彼女の目は涙に潤み、それはもう我慢なんぞできやしないほど色っぽかったけれど。だが俺は性欲よりも愛情を優先させてそこで終わらせた。といっても、優しいのことだからこのままでは終われないといって、いかせてはくれたのだが。
そのときは、調子があまりよくなかったのだろう、初めに察して止めてやるべきだったと思った。またにすればいい、何日か日を跨げばまた気持ちよくできるようになる、そのことは経験上分かっていたから。
だが、どうやらそういうわけではなさそうだった。それから何度か同じように部屋に誘い、時間をかけて慣らしてから挿れようと思ったが。受け入れられているような気がしなかった。一度は焦りのあまり無理に押し込んで泣かせてしまったこともある。何年も付き合っていながら今更そんなことになって、正直、情けない。だが調子が悪くて濡れにくいということはこれまでにも間々あったといえ、こんなに続いたことは一度もないのだから不安を覚えるのは当たり前だろう。俺はすっかり自信を失くしたし、だってさり気なく俺を避けるようになった。
いろいろ不安を抱えているのだろうとジェームズは言った。だがたとえそうだとしても何も打ち明けてくれないということは、俺にそれだけの度量がないと思っているからではないか。確かに俺は器の小さな男だ、だがを思う気持ちだけは他のどんな男にも負けるものかと思っている。その気持ちが伝わっていないのだとすれば……もしくは自身が、もう俺のことを好きではなくなっているのかもしれない。だから濡れないんじゃないか、あんなにも痛がるんじゃないか。もう俺とはしたくないから……。
ああ、情けない。女に拒まれて泣きそうになっているなんて。だが言葉のあやとはいえ、シリウスは彼女を『女』という括りにして考えてしまったことでまたさらに自己嫌悪に苛まれた。ちがう、彼女はそんな単純な存在ではない。何度かを失いそうになって、自分はボロボロになったじゃないか。もしも彼女がいなくなったら
考えただけで、ぞっとする。ホグワーツの七年で、よく分かっただろう。俺にはしかいないんだ。この七年間は、自分にとって彼女がどれほど大きな存在かを確認させるためにあったといっても決して過言ではない。
好きだった
いや、愛している。心が、からだが。が欲しいと声高に叫んでいた。
そのとき、寝室の扉が外から二回ノックされた。ルームメートならばいちいちノックなどしないはずだし、寮の男たちも大半はそんな気遣いは持ち合わせていない。もしかして、と期待したものの、今ここでそのことを確かめる術はない。忍びの地図はすでに置き土産として何日か前にフィルチに掴ませてやったからだ。せめて今日までは手元に残しておけばよかったなとシリウスは悔いた。
「ねえ、シリウス……いる?」
控えめな、声がした。やはりだ。起き上がったシリウスはごくりと唾を呑み、何拍か呼吸を挟んでからようやくベッドを下りる。静かに歩み寄ってドアを開けると、見るからに不安そうながこちらの顔色でも窺うようにおずおずと見上げながら、言ってきた。
「あの……ね。今、いいかな。ちょっと……どっかで話さない?」
「外ってこと? ここじゃダメなのか?」
「だ、だめじゃないけど……でも、やっぱりその……」
煮え切らないことを口にしながらがちらりと見たのは部屋の奥
恐らく、彼がつい今しがたまで寝転んでいたベッドだった。彼女はすぐにそちらから目を逸らしたが、それでもシリウスはやはりそうなのかと落胆した。は自分としたくないのだ。理由はどうあれ、少なくとも身体はもう自分を受け入れる状態にないということである。『やっぱり』って何なんだ、『やっぱり』って。シリウスは小さくため息をついて苛立ち紛れに頭を掻いた。
「分かった、外で話そう。今日はいい天気だしな」
「う、うん。ちょっと久しぶりじゃない、一緒に外に出るの?」
誰のせいだよ、誰の。避けてたのはお前だろ
と、声には出さずにつぶやいて、シリウスは軽くの背中を押して寝室を出た。
話、というのが果たして単なる雑談か、それともふたりの今後に関する重大な話なのか。半ば賭けのような思いでシリウスはと共にグリフィンドール塔をあとにした。