「では、卒業後の進路は聖マンゴ付属の養成学校へ進学、ということで宜しいですね?」
「あ……はい」
ほんの少し、些細な合間にも意識は他のところへ飛んでしまう。慌てて目の前の寮監に焦点を戻したを見て、マクゴナガルは聞こえよがしにため息をついた。
「いけませんね、。癒者という仕事は人の命を預かるものです。どの仕事だから手を抜いてもいいというものではありませんが、癒者を目指す以上はもっと気を引き締めなければ」
「……はい。気をつけ、ます」
いけない。本当に、もっとしゃんとしないと。NEWT試験の結果を受け取り、最後の面談に臨んだは浅く腰かけた椅子の上で情けなさのあまり身を縮ませた。
養成学校のパンフレットを広げたまま、さらにもうひとつ吐息を漏らして、マクゴナガル。
「……お母様のこと、お祖父様のこと。聞いたのでしょう」
は俯いた顔をぱっと上げ、速まる動悸の中でこちらを見据える寮監と向き合う。マクゴナガルは苦しげに眉をひそめ、だが決して目を逸らしはしなかった。
「先生も……ご存知だったんですか」
「ええ、そうです。彼女の
の不思議な能力について、相談を受けていたのは寮監のわたしです。奇妙な夢の話、蛇の言葉が分かること……ダンブルドア先生に助言を請い、彼女のことを委ねたのはこのわたしでした。あなたたちに本当のことを隠し続けたことについては……わたしも、共犯です。あまりに残酷な真実が、あなたたち親子を壊してしまうことを危惧しました」
『共犯』。ううん、でも、それでも。はきつく目を閉じて俯き、膝の上で握り締めた拳を震わせる。
「フィディアスは……そのことを、わたしに話すつもりだったんでしょうか。どうして……あの夏までに、話してくれなかったんでしょう。何で
フィディアスも先生方と同じように、わたしたち親子が『真実』に耐えられないと?」
「……いいえ。それは違います、。彼は
フィディアスは最後の最後まで、あなたのお父様に『真実』を伝えるつもりでいました。それを、わたしたちが……危険な賭けだと判断したのです。フィディアスは、あなたのお父様を信じていた。ですが……わたしたちが、偽りを押し通したのです。省もダンブルドアの判断を受け入れ、『真実』は隠されました。そしてあなたたちをより確実に保護するために……お父様に偽りの記憶を植え付け、我々の魔力が乱されるほど強い力を持つ日本の土地へと移ってもらった。それで『あの人』の手から逃れることができると思ったのです。当時のわたしたちは
そうすることであなたたちを守ることができると、信じていた」
は涙のにじんだ目を見開いて正面のマクゴナガルを見つめる。マクゴナガルは一瞬怯んだものの、それでも逃げることはしなかった。その潤んだ瞳を睨みつけて、告げる。
「……傲慢な、『魔法使い』の身勝手な理屈ですね。何も知らないマグルだからどうせ耐えられないだろう、何も知らないままでいることのほうが幸せだ
マグルを見下げるという点においては、先生方も『あの人』と変わらないじゃないですか。そんなことが罷り通ったのも、省だって似たような考え方だからでしょう? でも……記憶を勝手に弄られて、それでわたしたちが幸せにやっていけるとでも思ってたんですか。それとも、ただ『あの人』から逃れられればそれだけでいいと? ホグワーツから入学許可書が届くまで、わたしは『幸せ』なんかじゃありませんでした。死んだ、母が戻らないのは……同じことです。でも歪められた記憶の中で、父もわたしもいつも苛立っていた。でも許可書がきて、初めて母の記憶を共有して……やっと少し、向き合えるようになったんです。その母との思い出を、先生方はわたしたちからごっそり奪っていったんですよ。そんなの
許せるわけないじゃありませんか。返してくださいよ……母を
わたしたち家族の思い出を、返してください!」
竦ませた身体は椅子の上で激しくうち震え、咄嗟に荒げた声さえも掠れる。はきつく瞼を閉じたが、それでも溢れ出す涙を止めることはできなかった。だから言葉を失ったマクゴナガルが愕然と目を見開き、惚けたように動かなくなる様を見ることもなかった。俯き、痛みを覚えるほど強く拳を握り締めたまま、絞り出す。
「ごめんなさい、言葉が過ぎました。こんな……こんなこと、先生に言っても仕方ないのに。だって、そんなこと……マクゴナガル先生が言い出したことじゃ、ないでしょう?」
「……それは」
マクゴナガルはそこで言葉を切り、しばし押し黙る。それでも次に口にしたのは、自分ではなくあくまであの男を庇い立てる発言だった。そのことに失望しなかったと、嘘を吐くつもりはない。
「あなたたちには、本当にひどいことをしました。心から謝ります。フィディアスは……『真実』を隠すことで、我々がの築いた家庭を壊そうとしているのだと。それでもわたしたちは、口を閉ざすことを選びました。でもこれだけは信じてください、。ダンブルドア先生は、あなたたち親子のことを考えてそうしたのです。お父様がマグルだからどうだと、そういった理由ではありません。ただあなた方のことを真剣に考えた結果なのです。確かに……正しくはなかったかもしれません。ですが
欺いたダンブルドアも、ずっと苦しみ続けてきたのです。そして今この瞬間も、『あの人』が狙っているであろうあなたをどうすれば守ることができるかを常に考えています」
「……結構です、そんなの。守ってもらおうとは思っていません。ダンブルドア先生も仰いました。自分を守れるのは自分しかいないのだと。わたしはもう子供ではないんです。自分の道は、自分の意思で選びます」
「ですが
敵は手段を選ばない、狡猾で冷酷な闇の魔法使いです。分かっているでしょう、彼らはフィディアスをあのような……そんな輩が、あなたを狙っているのですよ?」
「分かっています! それでも……あの人に守ってもらおうなんて思いません。フィディアスの言う通りです、あの人は……わたしたち家族を、こわした。そんな人に、守ってもらいたいとは思いません」
そこでようやく顔を上げて、目の前の寮監を見た。その小さな瞳にあるのは、ただ不意にすべてを失った絶望の色。もしかしてあのとき、自分も同じような目をしていたのかもしれない。
は受け取った養成学校の資料を手に立ち上がり、慇懃に頭を下げる。
「ありがとうございました、先生。次のウィットウェルさんを呼んできます」
「……そうですね。お願いします」
何か言おうとしたのだろうが、思いつかなかったらしい。前に乗り出しかけた上半身を椅子の上に戻し、マクゴナガルが静かに言った。はそのまま扉へと向かい
背中を向けたまま、ひっそりと口をひらく。
「先生。マクゴナガル先生には、本当に感謝しています。七年間、お世話になりました」
「……いえ、わたしは何も。立派なヒーラーになってください、」
ヒーラー。ああ、そうだった。わたしをここまで導いてくれたのは、そして、これからも慕いたいと思えるのはきっと。
ゆっくりと振り返り、穏やかに微笑んだはもう一度深く一礼して告げる。
「ありがとうございました、先生。失礼します」
そして七年間通った、寮監のオフィスをそっとあとにした。
EX-GIRLFRIEND
はなれてからみえること
グリフィンドールの談話室まで、角をもうひとつ曲がるだけ。その少し手前で、そちらから出てきた黒髪の青年とぶつかりそうになっては慌てて後ろに引いた。ぎょっと目を開いたラルフはしばらくその場に立ち尽くしたあと、腫れ物に触るように恐る恐る顔を近づけてきて、尋ねる。
「……お前、泣いてたのか?」
「えっ! あ、え……べつに」
涙はちゃんと、拭いてきたはずなのに。まだ目の充血は引いていなかったのかもしれない。は急いでごしごしと目尻を擦ったが、潔く諦めて眼前のラルフに頼み込んだ。
「あのね、談話室にスーザンいた? よかったら、その……呼んできてほしいんだけど。面談だって、わたし終わったからすぐ行ってって」
「あ? ああ、まあそれくらいいいけど。どーしたんだよ、マクゴナガルに泣かされたのか?」
「な、何でもないよ。わたしだっていろいろあるの」
激しい口調で言い返してから、しまったと思い慌てて口を噤む。意外そうに瞬きするラルフに、目線を逸らしながらぼそぼそと詫びた。
「ご、ごめんね……その、ほんとに何でもないから。スーザンに伝言、お願い」
「……ああ、分かった」
ラルフとはすっかり、同じ寮のいい同級生、に戻っていた。いや、付き合う前と同じにはきっと戻れないし、それがどんなものだったかさえもはや覚えてはいない。それでも、確かに築けた別の関係が。だがときどきは思い出す。同じ時間を共に過ごし、触れ合い、そして唇を重ねたことも。初めてそれを教えてくれたのは、紛れもなく彼だった。
「あ……ねえ、ラルフ」
「うん?」
「あ、その……噂、聞いたんだけど。ジュディアと……結婚、するの?」
すでに踵を返し談話室に向かいかけていたラルフが、ぴたりと歩みを止める。なぜか後ろめたいことを聞いたような気持ちになって、は彼が振り向かなければいいと思った。だが彼はあっさりと振り返り、小さく肩を竦める。
「ま、そのつもりだけど。でもなー、聞いてるとどうもあいつの親父さんがお堅い人らしくてさ。これは死ぬ気で挨拶に行かなきゃならんだろーなと悩んでる。いざとなったら駆け落ちでいいってあいつは言うんだけどな、俺としてはそんな大それた……いや、どーでもいいだろそんな話」
「なによ、細かいとこまで勝手に喋りだしたの自分じゃない」
「勝手にってお前」
即座に切り返したラルフはと目を合わせるとそんなことはどうでもいいとばかりに声をあげて笑い出した。何がそんなにおかしいのか優に十秒は笑い続けたあと、腹を抱えたまま軽い調子で言ってくる。
「そっちはどうなんだよ。あいつは家族と縁切ってるからいいとして、お前の親は認めてるのか?」
わたし? シリウスと……結婚。ずいぶん長い間、失念していたような気がする。はぼんやりと目を見開いたあと、表情を強張らせるラルフの顔を見て、ぽつりとつぶやいた。
「……わたし、シリウスと。結婚……するのかな。なんか……あれ、おかしいな、なんか……分かんないや」
「はっ? え、おい……マジか、それ。おいおい……勘弁してくれよ。俺、すげー重大なこと聞いちまったんじゃ」
「あ……わたし、なに言ってるんだろ。ごめんね、ラルフ、こんなはなし」
「おせーよ、聞いちまったもんは仕方ねーだろ。まあ、心配すんな、誰彼言い触らそうなんて思ってな……」
「そんなの……心配して、ないよ」
わたし、何が言いたいんだ。なんで
こんなところで泣いて、どうするの。傷付けて、彼のほうに終止符を打たせたわたしが。今になって彼に縋ろうとするなんて、なんて虫のいい女なんだろう! そうだ、結局はラルフだってとても優しい人だった。あの頃のわたしは、そのことに気付けるほどまだ成長していなかっただけで。好きだった、ラルフ。確かにあの頃はとても……好きだったんだ。
何気なく伸ばされたラルフの手は、軽くの肩を叩いただけであっけなく離された。その拍子にはたと我に返り、は慌てて濡れた頬を拭う。困ったように苦笑し、ラルフはに触れた右手でそのまま頭を掻いた。
「ま、今はそういう時期なんだろ。マリッジブルーなんて言葉もあるくらいだ。ジュディアもああ見えていろいろ落ち込むこともあるみたいだし、俺だって結婚とか考えるとさ……イヤじゃねーぞ、もちろん? 俺が守ってやりたいって思うし、こんな時代だから……早く一緒になって少しでも安心させてやりたいって思う。でもそういうの全部、かえって重荷に感じてつらくなるときだってあるしな。でも
そういうもんだろ、結婚って。それでも一緒になりたいかどうかじゃねえ? お前も不安かもしれねーけど、あいつだって同じくらい不安になってるはずだぜ。そんなとき、好きな女が隣で笑ってくれてたら……あいつも、安心できると、思う」
ちがう、ちがうの。わたしが不安なのは……そういう、ことじゃない。でも、それをラルフに言ってどうなる。彼にはもう、ジュディアという他に守るべき大切な人がいるというのに。わたしの身勝手さで、しがみついてはいけない。
「ラルフにとってはそれが
ジュディアなんだって、ことだよね」
「……そーだな。いい女だからな、あいつは。でも、ほんとは弱くて脆くて……俺が守ってやらねーとって、思うよ」
ジュディアはレイブンクローのモットーを体現したような利発な女の子だ。とても気位が高くて勝気、けれどもラルフの前では
弱さも脆さも、きっと。シリウスもわたしのこと、そんなふうに思ってくれているのかな。だとすれば余計に後ろ暗い気持ちになる。わたし、あなたに守ってもらうような……そんな。
ラルフは心なしか赤くなった頬を掻きながら、くるりを背中を見せて言ってくる。
「あー、小っ恥ずかしいこと話しちまった! じゃ、俺スーザン呼んでくるわ。それとも、自分で帰って伝えるか?」
「う、ううん……やっぱりお願いしても、いい?」
「ハイハイ。今その顔で帰ってもお節介なグリフィンドールの連中を心配させるだけだからな。どっかで軽く休んでこいよ、スーザンにはちゃんとマクゴナガルんとこ行くように言っとくから」
「うん……ありがとね、ラルフ」
お節介なグリフィンドール。ほんとだよね。何でもみんなで、泣いて笑って
そんなグリフィンドールのみんなが、わたしは大好きで。
軽く手を振って歩き出すラルフの背中を見送って、はもときた道を足早に引き返した。大好きだった、ラルフ。大好きな、シリウス。どちらもとても、優しくて。そういえばラルフと付き合っているときにはシリウスが話を聞いてくれたことがあって、そして今、シリウスとのことを悩んでいるときにはラルフがああやって心配してくれて。結局、一番大切な人には一番大切なことは言えないのかもしれない。だって、こんな涙……シリウスには、どうしたって見せられないもの。愛してくれていることが分かるから。優しすぎる彼に、これ以上心配なんかかけられない。
結婚。そうだ、わたし……指輪までもらって、薔薇の花束をもらって。結婚しようって、約束したんだった。忘れてたわけじゃない。でも……わたし、ほんとにこのままシリウスと結婚してもいいの? 父さんはきっと、反対なんてしない。うすうす、分かっているくらいだと思う。でも、わたし……少なくともこんな気持ちじゃ、結婚なんて。
ねえ、本当のことを聞かされたらどう思う? わたしがスリザリンの子孫で、『名前を言ってはいけないあの人』の孫だったなんて。母は家族を守るために『あの人』の下で働いた。『あの人』の信頼を得、やがては改心させようと決意して。でも半ばの戦いで命を落とした、そのことをわたしたち家族に隠し、記憶を操作して何も伝えなかったダンブルドアのことを
こんなにも、憎んでいると。
だってわたしはフィディアスを襲ったと自称するジェネローサスについて、この半年の間、沈黙を保ってきた。ロジエールのことも、マルシベールやドロホフの父親が死喰い人だということも知っているというのに。それでも口を噤んでいるのは、七年間も善人面をして何事もなかったかのように接してきたダンブルドアのことをそれ以上に憎んでいたからに他ならない。やっと打ち明けたかと思ったら往生際が悪く、未だにひた隠しにしている重大な事実があるのだと思うと。ジェネローサスやロジエールのことは、あとでもいい。ただ、ダンブルドアへのこの激しい憎悪をどうにかしなければ……わたしはどこにも、進めない。
ねえ、どう思う、シリウス。怯える、軽蔑する? 何よりジェネローサスのことを黙っていたことに、激怒するよね。追及すればいずれアルファードおじさんを殺した犯人だって判明するだろう。そんな人間と接触しておきながら、何も言わずに黙っていることに失望するよね。でも、ジェネローサスと話したときはわたしだってまだ半信半疑だったところがあるの。あなたはとても、優しいから。そんな段階で、そんな疑わしいこと……話せるわけ、ないじゃない。
いや、やはりそれ以上に
ダンブルドアへの疑念が、強くなっていたから。疑えば疑うほど、些細な芽でもすぐに大きくなって。もう、信じられなくなっていた。ダンブルドアがどんなに穏やかな表情で微笑んでいても、今はその裏にある暗い影を思ってしまう。ダンブルドアに守護されたこの城。一刻も早く、その監視下から飛び出したい。大好きなみんなとは、離れたくなくても。
それともこのままここにいれば、余計なことは何も考えなくていい? ダンブルドアが何を考えていたって、『あの人』がどれだけわたしを欲しようと、ジェネローサスがこの先何を企んだとしても。そんなことには構わず、ただ大切な人たちと笑いながら生きられるの?
ううん、やっぱりそれはちがう。誰かに歪めて造り出された空間の中で、一生を終えたくなんかない。わたしはわたしを取り囲むすべての悪意に抗ってやる。ジェネローサスは許せない、『あの人』のことだって憎い。でもダンブルドアは、それ以上に。ねえ、わたしのこんな気持ちを知ったらあなたはどうする。同調してくれる? それとも馬鹿なことを考えるなと諭す? もしくは軽蔑して離れていく?
分からない、分からないよそんなの。でも少なくとも
もはやそこに、滑らかな平安なんてない。
(わたし、どうすればよかったの? 漏れ鍋でジェネローサスに会ったあのときに……みんなに話してれば、よかったっていうの?)
でも、だって。言えなかったもの。壊れるのが怖くて……何も、言えなかったの。
それに、わたしと一緒にいたらシリウスの身に危険が及ぶよね。『あの人』がわたしを欲しがっているのは分かっている。スリザリンの血、夢見の能力。不死鳥を絞め殺す蛇
わたしを味方につければ、『あの人』は省にまで強い影響力を持つダンブルドアに打ち勝てると信じている。実質的にそんな力が自分にあるとは到底思えないが。それでもジェネローサスは、ダンブルドアの監視を掻い潜ってわたしに接触してきた。
(……わたしと一緒にいても、いいことないよね)
でも終わりにしようと言えるほどの、勇気はない。だからきっと、ここまでずるずるときてしまったんだよね。それにシリウスと離れ離れになるなんて……想像も、できなかったから。それとも一旦離れてしまえば、それすらも次第に慣れていくのだろうか。あんなにも好きだったはずのリーマスやラルフを、いつしか忘れてしまったように。
(終わりにしたほうが……いいんだよね)
一緒にいたとしても、隣でうまく笑っててあげられないって分かってたら。こんな醜い感情に付き合わせるわけにいかないし、わたしのせいで危険な目に遭うことになるかもしれない。そんなことは望まない。
わたしとの未来に、シリウスの渇望する『家族』の形なんてないよね。シリウスにはきっと、わたしなんかよりももっと他に、穏やかで普通の家庭を築ける女の人がきっといる。
適当な空き教室に飛び込んだは、丸めたパンフレットに額を押し付けてひとり静かに涙を流した。分かったよ、ベンサムさん。好きでも一緒にいられないことって、きっと誰にでもあることなんだね。