「ほんとにもういいのか?」
「うん、大丈夫、ありがとう。わたし、ちょっと温かいものでも飲んでから帰る」
「だったら、俺も付き合う」
「ううん、いいの。ジェームズのおじさんたち、待ってるでしょ。わたしのことなら心配しないで。あとは日本に帰るだけだから、ひとりで漏れ鍋の外に出たりしないし」
フィディアスの見舞いから戻ったあと、閑散とした漏れ鍋の一階ではシリウスの申し出をやんわりと断った。彼が疑わしい目をして覗き込んできたので、安心させるように微笑みながらその唇に背伸びしてキスをする。
「ほんとだよ、約束する」
「ほんとか? ちょっと買い忘れ、とかでホロホロ出かけるのも禁止だぞ」
「分かってるよ、シリウスが怒るもん。それに
もうあんまり、開いてるお店自体少ないでしょ?」
それはまったくもって正論だったので、シリウスはそれ以上反論しなかったものの、その顔付きはどこかまだ不服そうだった。ひとりにすればどこに行ってしまうか分からない五つ、六つの子供でもあるまいし。だが自分がこれからしようとしていることが後ろめたいことであると分かりきっていたので、はさり気なくシリウスの視線を避けて彼の胸に身体をすり寄せた。
「大丈夫。漏れ鍋から一歩も出ないでおとなしく日本に帰る。約束します」
「……分かった。それじゃ、気をつけてな」
「うん、ありがとう。シリウスもね。ジェームズとかおばさんたちにもよろしく」
帰国前にシリウスと一度フィディアスの様子を見に行ってくると言うと、ジェームズは気を遣ってかおばさんと一緒に一足先に『アジト』へ帰った。暖炉からシリウスがエメラルドの炎に吸い込まれ消えていくのを見送ったあと、カウンターのトムがこちらに背を向けている隙に急いで客室へと続く階段を駆け上がる。誰にも見られたくなかった。ロジエールの誘いに乗って
自分でも馬鹿げていると思う。けれどもある種の誘惑に負けて、彼の仕掛けた罠に自ら飛び込もうとしていた。
組み分けのこと、ホガートのこと。そして『大人』たちが頑なに隠そうとする『何か』
フィディアスはそれを、わたしに明かそうとしてくれていた。けれども今や、そのことは叶わない。わたしがこの手で、彼にかけられた呪いを解かない限りは。それをあのロジエールが、どうやって説明付けるというの? それを知りたかった。なぜ、どうして彼が。そこまでしてわたしに、関わろうとするのか。あなたが母の、何を知っているというの。数年来、わたしに会いたがっていた人物とは
一体?
階段を上がる途中、凍える指先でコートの胸元を握り締めた。その下には去年の誕生日にシリウスからプレゼントされたネックレスがかかっている。何年も身に着けた母の十字を外し、新たにこの首の住人になった宝物。母のネックレスも財布の中に丁寧に仕舞ってあったが、は胸のネックレスに祈りを捧げた。
「ようこそ、お待ち申し上げておりました。ミス・・」
目的の部屋に到着し、震える拳を握り思い切ってドアをノックすると、顔を覗かせたのは満足げに微笑んだエバン・ロジエールだった。
AT DEATH'S DOOR
死の告白
漏れ鍋の客室はどれもそう大差ない。よく知った配置の椅子にゆったりと腰掛けた中年男は、にっこりと人当たりの良い顔で微笑み、気楽に右手を振ってみせた。
「ご苦労だったな、エバン。やあ、。初めまして
ではないのだが、覚えてくれているかな?」
その声は、思ったよりも低い。軽薄そうな顔付きに見えるのはその暗い瞳があまりにも芝居じみた気配を帯びているからか。少し伸ばした黒髪は後ろに適当に流し、曖昧にはさみを入れたらしい長い前髪を掻き上げながら、男はにベッドへ掛けるよう促した。
しかしは、探るような目付きで男の風貌を上から下まで遠目に眺め、同時に背後のロジエールからも距離をとりつつ頭を振った。知らない。こんな男は、見たこともない。
「……お会いするのは、これが初めてだと思いますけど」
「そうか、それは残念」
まったく残念そうな素振りも見せず、男は軽く肩をすくめてみせた。
「まあ仕方がない。ずいぶんと昔の話だからね。五分ですませられる話ではない。まずは掛けないか、」
「……あなたは、誰ですか。わたしの出生の秘密を話してくれると聞きましたが、一体どういうことです? マグルの父が知らない
魔法界での母のことを、聞かせてもらえるということですか? あなたは一体、誰なんです」
「そう急かさないでくれ。物事には順序というものがある。あの方がここまで君を放任されていたのも、その順序というものがあるからだ」
「……あえて思わせ振りな言い方をされてるんでしたら、お付き合いしている時間はありません。煙突飛行の接続の問題で、わたしはそこまでゆっくりはしていられないんです」
「ああ、分かっているよ。君の家は七時までしかネットワークに組み込まれないんだろう。いいだろう、率直に言おう。我々と組まないか」
意味が分からない。さすが、ロジエールの紹介だけはある。待て、わたしはまだ、紹介すらされていないじゃないか。脇のロジエールをじとりと横目で睨み、は鈍い痛みの走るこめかみを押さえつけた。
「……分かるように説明してください。新興宗教かなにか?」
「宗教? ああ、なるほど……ある種の宗教と言えなくもないな。だが我々が目指すものはそんな曖昧なものではない。いま魔法界において何が起こっているか、噂くらいは聞いたことがあるのではないかな」
この男、さっきから胸をムカムカさせるようなことばかり
だがとうとう歯を剥いてロジエールに噛み付こうとしたその瞬間、はハッと閃いて、男の不愉快な訳知り顔を見た。
「まさか……あなたは」
男は満足げに口角を上げ、芝居がかった仕草で両手を広げて語りだす。
「革命が行われつつある。穢れた血の粛清、力のある者こそが頂点を収めるべき時代への転換。我々は今、まさにその途上に立っている」
「まさか……まさかあなたは、れ……『例のあの人』、の、」
震える唇でなんとか声を絞り出すと、男はそれがこれ以上ないほどの美しい言葉だと言わんばかりに、うっとりした面持ちで
だがそれすらもまるで芝居のように大袈裟な口振りで言った。
「聡明なお嬢さんで安心したよ。その通り、我々は世間が『名前を言ってはいけなあの人』と呼ぶお方を支持している。『死喰い人』
この呼称は、たとえでも何でもない。我々は他者を、そして自身の死をも喰らう」
「……そんな! あなたたちは、間違ってる。生まれなんて、何の意味があるの? 血は穢れたりなんかしない。魔法使いもマグルも、同じ人間じゃないの!」
これまでとはまったく違う種の震えがの全身を駆け巡り、自分の足で立っていられなくなる。傍らの壁に手をついてなんとか支えながら、は表情ひとつ崩さないロジエールを貫くような眼差しで睨み付けた。
「あなたも仲間なの? 死喰い人……あなたもそんな馬鹿げた思想を掲げて、この人たちの殺戮を容認してるわけ? そんなこと、許されるとでも思ってるの!」
「同じ人間、と。そうだな、マグル育ちの君にすんなり分かってもらえるとは思っていないよ」
答えたのは漆黒のローブに身を包んだ黒髪の男で、が再び向きなおると僅かに目を細めてみせた。
「だがこれは君にとって、出自がどうだとか血統がどうだとか、そういったことよりもずっと現実に逼迫した問題なんだよ。真実を知れば、君は我々と組まざるを得ないだろう」
「言っている意味が……分かりません。『真実』とは、何ですか。どうしてわたしなんですか。もうご存知のようですけど、わたしはマグル育ちですよ。父は列記としたマグルです。あなたがたの言うところの、『粛清』すべき存在なのではありませんか」
「とんでもない! 我々はずっと、君のことを探していたのだよ。初めて君の姿を見つけたとき、わたしがどれほど興奮したか君には決して分からないだろう」
気味が悪い。だが確かに、そう語る男の目にはこれまでにないような好奇な色がにじんでいた。
男がなにやらテーブルの下に手を伸ばしたので、不意に危機感を覚えてポケットの杖を握り締める。
本当に危険な敵に遭った場合
考えろ。一体、どんな呪文が使える。
「オーク樽熟成の蜂蜜酒だ。腹を割って話すにはこれが一番いい」
そう言って男が取り出したのは三本の箒で何度も見たことがある褐色の瓶で、妨害呪文のシュミレーションを繰り返していたはその構想が頭の中であっという間に霧散していくのを感じた。
「一杯どうかな。なに、毒など入っちゃいないよ。わたしは君と話し合いがしたいんだ」
男が蜂蜜酒を注いだグラスがふわふわと浮遊してのところまで漂ってきたが、はそれに手も触れずただ黙って男を睨んでいた。
「用心深い、まるでマッドアイさながら……いや、失礼。こちらの話だ。では、我らが秘宝、・に」
男は肩をすくめながら、蜂蜜酒のグラスを掲げて乾杯の仕草をした。ロジエールもそれに倣い、飛んできたグラスを持ち上げて「に」とつぶやく。なぜこんなにも担がれるのか。は優雅に蜂蜜酒を味わう中年男とロジエールとを交互に見やり、顔の周りをふらふら漂う自分のグラスを蝿でも払うように押し退けた。
「いや、実に……ああ、、そんなにも恐ろしい目で見ないでくれ」
「帰ります」
「分かった、分かった。焦らしているわけじゃない。まったく、その怒った顔付きなど実にお母さんにそっくりだ」
その一言で。自分の心臓がどきりと跳ねるのを知った。その怒った顔
拗ねた顔付きが、にそっくり。
「……母を
あなたはわたしの母を、知ってるんですか」
「ああ、よく知っているよ。わたしは彼女と同時期にホグワーツにいたからね。・、実に興味深い少女だった」
男はグラスの蜂蜜酒を一気に飲み干すと、楽しげな手付きでそれをテーブルに戻しながら、ゆっくりとに向きなおった。まさかほんの一杯に酔ったわけでもあるまいに。
「わたしはリンドバーグ。ジェネローサス・リンドバーグ。弟のことは知っているはずだね」
ぽっかりと。胸の奥深くに、音もなく大穴でも開けられた気分だった。リンドバーグ。まさか、そんな……なにを言ってるの、この男。まるで似ていない
いや。その皮肉めいた眼差しは、ほんとうは。
「……馬鹿げてる! そんな、まさか……あなたがフィディアスのお兄さんなら、何で、どうしてそんな人たちのために動いてるの? フィディアスは
死喰い人にやられたんでしょう! いくら、信じるものが同じでも……弟をあんな目に遭わせた人たちと、どうして今も一緒にいるんですか? 何で、何でなんですか!」
絞り出した声は悲痛な音をはらんであっさりと消えた。男
フィディアスの兄と名乗ったその男は、自分のグラスに二杯目のアルコールを注ぎながら目元にかかった前髪を払いのける。
「わたしは嘘は嫌いだ。正直に言おう。フィディアスを襲ったのはこのわたしだ」
「……な、なにをいって」
「わたしがフィディアスを襲った。この杖で。闇の印を打ち上げたのもこのわたし」
男は取り出した杖をまるで指揮棒かなにかのようにさっと振るい、再び目にかかった黒髪の隙間から射抜くようにを見た。それはもはや、先ほどまでの軽薄な眼差しではない。
うそ……うそだ。そんな、どうして。
「……何で。そんな、馬鹿な……弟、なんでしょう。あなたは
フィディアスの、お兄さんなんでしょう? まさか、悪い冗談を」
ああ、分かった。その暗い眼が、だがどこか奇妙な感覚を思い起こさせたのはきっと。
はポケットの杖をしっかりと握り締めたが、その指先がひどく震えて、咄嗟の状況に身体がついていくか自信がなかった。
そんな心配は不要と言いたいのだろう。男は呆気ないほどにすんなりと杖を下ろし、蜂蜜酒の脇に横たえた。
「生憎、冗談ではないのだよ、お嬢さん。わたしとしても断腸の思いだった。最後の最後に、血を分けた兄弟のよしみで我々と組むことを提案したのだ。だがあいつは、首を縦に振らなかった」
「そんな……そんな、ことで? フィディアスが、そっちにつくはずなんかない。正しい人だった、自分の道は自分で拓けと教えてくれた人だった」
彼が何を語ろうとしていたのか、今となっては分からない。分からないけれど、あのとき彼は確かにこう言ってくれた。誰のためでもない、自分のために学びなさいと。自分の進む道は自分の力で、自分の意思で選びなさいと。溢れ出た涙を拭おうにも、杖を握った右手は怒りと恐怖に戦いて動かない。
ゆったりと組んだ足を徐に組み替えながら、男が微笑む。
「時にお嬢さん、正しいとは一体何なのだろうね」
「……は?」
「誰もが自分は正しいと信じて生きているのだろう。そうでなければ日々を歩む意味などない。そうは思わないか? 我々には我々の信念がある。誰もが己の正義を信じている」
「そんな……だからって!」
「奴は君を裏切るつもりだったのだよ」
冷ややかな声音にのせて伝えられたのは、が予想だにしない言葉だった。裏切る。わたしを
フィディアスが一体、わたしの何を裏切るというの。首を捻り、ドアの前を塞ぐように立つロジエールを睨み、吐き捨てる。
「……馬鹿馬鹿しい。こんな妄言を聞かせるために、わたしをここに呼んだの? 母の知り合いだと知れば、わたしがあなたたちの側につくとでも思った? だとすればお笑い種だわ。何のためにこんな小娘を仲間に引き入れようとしたの。ここでわたしは今すぐ、下の主人を呼べる。ここがどこだか分かって、こんな馬鹿げた勧誘をしてるわけ?」
「呼べるか
本当に? すべての客室に防音の呪文がかかってることは常連のあんたなら知ってるだろう、。それに生憎ここは三階だ」
「誤解を生むような物言いをするな、エバン。、君はまだ何も知らない。知らされていないんだ。大人という生き物は、まだ子供だからという理由に託けて自分に都合の悪いことは覆い隠そうとする。それを感じたことはないか、。周りの大人はみな正直者だと思うか?」
それは
だがしかし、ずっと感じてきた疑念をこの男に対して打ち明けることだけは避けたかった。純血主義を振りかざし、『例のあの人』の下で殺戮を繰り返す死喰い人
そして目の前のこの男が、実の弟であるフィディアスを襲った!
「そんなことはどうでもいい。彼を……フィディアスを元に戻して。もう一年以上目を覚まさない、あの人の呪いを解いて、今すぐ!」
「残念だがそれはできない」
あっさりと言ってのけた男の心臓めがけて突き出した杖が、バチンと弾けた音を立てての右手から飛んだ。それは大きな螺旋を描いて虚空を舞い、離れたベッドの上に軽い調子で落下する。
「ああ、失敬。君の呪文があまりに素早かったのでね……こちらもきれいに対処できなかった。許してほしい」
男は気楽に詫びながら、自分の杖を振ってすぐさまの杖を持ち主の手に戻した。そして自分は再びそれをテーブルの端に置き、敵意のないことを示すかのように広げた両手を上げてみせる。
「さすがは、あの方の血を引くお嬢さんだ。実戦経験なくしてあれだけの動きがとれるというのは。鍛えればそれこそ素晴らしい術の使い手になるだろう」
「さっきから、わけの分からないことを……いい加減に、して。どういうこと。フィディアスの呪いを解けないって、一体どういうこと! あなたがしたことでしょう……それとも、自分で自分が何をしたか覚えていないとでも?」
「それもあながち間違ってはいない。本当は、殺すつもりで杖を振るった。だが、殺せなかった」
コ、ロ、ス
そうだ。やはりこの連中は……人を傷付けることなんて、死なせてしまうことなんて。なんとも思わないんだ。こいつらは、人間じゃない。そんな連中と一緒にいる、このエバン・ロジエールという男も。
「わたしの中にまだ生ぬるい感情が残っていたんだ。その馬鹿げた感傷が、死の呪文に綻びを生んだ。奴は死ななかった
その綻びを生んだ『何か』が、奴の魂の一部を辛うじてこの世に繋ぎとめている。それが何なのか、わたしには分からない。誰にも分かるはずがない。その引っ掛かりを外さない限り、奴は死ぬこともできないだろう」
「ひとつ言えることは」
声を失ったが、だがしかし何かを発しようと口を開いたそのとき。ふたりのやり取りを静かに眺めていたロジエールが、不意に男の言葉を継いだ。
「リンドバーグは、今後死ぬことはあっても、決して生き返りはしない。死の呪いを受けたんだ。本来ならあの場で即死だったはず。何かがあいつの魂の一部をこの世に繋ぎとめているとしても
それが外れてしまえば自然な結果として、奴は死ぬことになるだろう」
「………」
身体の中がとつぜん、空っぽになったような。怒りだとか、悲しみだとか、そんなものすら湧き上がってはこなかった。死ぬ? フィディアスが
死ぬしかない? 正体不明の、謎の呪いだった。聖マンゴのヒーラーがどれだけ手を尽くしても、何ひとつ分からない。ただはっきりしているのは、こうした事例は過去にないというただそれだけのことだった。それならば、まだ、希望はあった。たとえヒーラーが見捨てても、わたしがいる。必死に勉強して、癒者になって、そして自分の手で彼にかけられた呪いを解くのだと。それなのに、そんな。うそだ。フィディアスがもう、二度と目を覚まさないなんて。憎まれ口を叩いて、と呼んでくれないなんて。
「あいつは我々の側につくことを拒絶した。いずれ、必ず戦わなければならなかっただろう。それならあの場で杖を交えなくとも同じこと
家族のよしみで、せめてきちんと死なせてやりたかったが」
「……ころして」
まるで自分の声ではないようだった。だが確かに声を発したのは自分のくちびるで、は血走った目を眼前の男へひたすら注ぎながら杖をまっすぐに構えた。
「だったらわたしも殺せばいい。あんたはフィディアスを殺した
わたしの大切な人の家族も殺した。そんなことまで暴露して、どうしてわたしがそっち側につくなんて思ったの。馬鹿正直もいい加減にして。たったひとりの身内さえ殺してしまえるなら、こんな小娘ひとり死なせるのは朝飯前でしょうよ」
「おっしゃるとおりだよ。君を殺したいならどうしてわたしがいちいちこんな馬鹿げた場を設けたりする? この部屋の敷居を跨いだ瞬間に『アバダケダブラ』でおしまいだ。わたしは何ひとつ包み隠さずに話しているじゃないか。君と話し合いがしたいんだよ」
「話したくない。何が目的だか知らないけど、あんたみたいな殺人鬼と話すことなんかない。十秒以内に杖を構えて
それでもどうしてもわたしと話がしたいというんなら、その間にわたしがあんたの話を聞きたいと思うようにして」
「分かった、分かった。確かに前置きが長すぎた……わたしの悪い癖だ、君が苛立つのも無理はない。だが殺人鬼というのは訂正してもらえないか、わたしはみだりに殺したりはしない」
「十秒経ったわ」
「
ダンブルドアが」
何も聞く必要はない。殺したければ、殺せばいい。だが自分にそんな度胸があったわけではなく
相手の言うとおりだ。はじめからわたしを殺す気であれば、こんな回りくどいことはしない。敵にそのつもりはないのだ。ならば、こちらから仕掛けるしかない。今のわたしにできる、最高の呪文を
。
だがしかし、制止の姿勢で男が口にした文言は、の衝動にブレーキをかけるには十分なものだった。
「あのアルバス・ダンブルドアが君の母親を死なせた張本人だと聞けば、君の気持ちも変わるのではないかな」