81.バランス
今年は本選も勝ち残ったけど、私は中忍にはなれなかった。理由は自分で分かってる。何とか勝てはしたけど、余力なんて全くなかった。私が隊長ならきっと全滅してる。
実際、試験官が私の名前を呼んだ瞬間、私はチャクラ切れでそのまま気を失ってしまった。
ゲンマとライドウはちょうど前日に任務から戻ってきたので、本選は見てもらえた。チョウザ先生とシカク先生は、いのいちさんと一緒に任務に出ていてまだ戻っていない。ゲンマは私とガイの本選を見てダメ出ししたあと、「ま、とりあえずお疲れさん」と労ってくれた。
数日後の結果発表を終えて、私たちチョウザ班とシカク班は馴染みの居酒屋に来ていた。
今年中忍に昇格したのは、アスマを入れて二名のみ。紅は私の肩を抱き寄せて「来年は一緒に出ましょ」と笑顔で誘ってきた。今年紅たちと組んだカザミも、トンボと同じで大分淡白だったらしい。担当上忍不在だからといって、打ち上げにも顔を出さない。
まぁ、トンボとカザミは予選落ちだったけど。
「ゲンマもお疲れさま。帰ってきたばっかだったのに、試合見に来てくれてありがとね」
「当たり前だろ」
ゲンマは中忍になってまだ一年だし、前線で敵の部隊と戦闘になることはまずない。とはいえ、上忍の下に入れば敵の小隊と小競り合いになることは珍しくないそうだ。ゲンマやライドウの顔つきは、一年前より少し険しくなった気がした。
私は真っ向から敵と対峙してもパワーもスタミナもない。パワーとスタミナを人一倍磨けないとしたら、限られた資源をどう活かすかだ。
それを克服しなければ、一年経ってもまた試験に落ちるだろう。
ゲンマは手持ちの武器を効率よく使うのが得意だ。無駄打ちしないし、しっかり距離を取って相手の動きを読み、予測を立てて検証しながら攻撃に転じる。
ゲンマにはなれなくても、ゲンマの長所を少しでも取り入れて成長したい。そしてガイの火事場の馬鹿力も、めげない明るさも。
結局、予選のあと、不知火家には一週間お世話になった。ゲンマもおじさんも途中で任務が入って里を出て行ったけど、私はおばさんの手伝いもちょっとしながら、ガイと一緒に本選のための準備を進めた。
不知火家で過ごした一週間は本当に心が安らいだ。この家の子どもだったらなって何回願ったか分からない。でもいつまでもそれを言っていてもただの逃避だ。心も身体も少し落ち着いたと自覚してから、私は自分の家に戻った。ばあちゃんとは、顔を合わせてもまた口も利かなくなった。
もう母さんは帰ってこない。二度と。
やっぱり悲しいとは思えなかった。オビトのおじさんやおばさんと、オビトと一緒に遊んでいた頃の母さんの記憶がどんどん遠ざかる。昔のアルバムをめくる気にはなれなかった。どうせ、虚しくなるだけだから。
一緒に写真を撮ったのなんて、何年前だろう。母さんが死ぬ前から、ずっと。
時々、散歩がてら母さんのお墓に足を運んだけど、一度だけ先客がいたことがある。人ではない。ばあちゃんについていたはずの忍猫のレイが、母さんの墓石の上で丸くなっていた。
母さんに従っていた忍猫は誰もいないはずだ。
「……レイ? 何してるの?」
私がおずおずと声をかけると、レイはめんどくさそうに顔を上げてアクビしたあと、大きく尻尾を振って去っていった。
それから一度も、レイの姿は見ていない。
***
本選が終わって一週間くらい経ってから、チョウザ先生が里に帰ってきた。
「お疲れさん。二人とも、惜しかったそうじゃないか。何が足りなかったか、自分なりに考えはまとまったか?」
チョウザ先生はこうしていつも、自分たちの頭で考えさせようとする。シカク先生もそうだった。アカデミーの先生は模範解答を教えようとする人が多かったから、私たちはきっと、担当教官に恵まれている。
それとも、下忍指導を担当する上忍くらいになれば、それがスタンダードなんだろうか。ミナト先生もきっと、同じようなタイプだ。
ガイは顎に手を添えて唸りながらも、まっすぐチョウザ先生を見て話し始めた。
「……やっぱりボクには、冷静さが足りない。力任せに突っ込んで、冷静な判断ができてなかった。ずっとそれが強さだと思ってたけど、情熱だけじゃダメだって……今になってやっと、実感してます……」
「そうか。お前は去年も同じようなことを言っていたからな。どうして情熱だけではダメだと思った?」
「……冷静さがないと、相手の動きを見切れません。チームワークだって、これまでは仲間が合わせてくれるっていう安心感があったけど……他のチームと組むことも増えて、やっぱりボクは、ゲンマやに頼り切りなんだって分かってきた。中忍になったら、ボクが仲間を引っ張っていかないといけないのに、ボクが自分のことだけ考えてたらダメなんです」
ガイは本選のあとにゲンマから受けたダメ出しも交えて、神妙な面持ちでそう言った。チョウザ先生は少し微笑んで頷く。
「そうだな。いつまでも同じ仲間と組むわけではないし、その時々の任務に応じて最適なチームで事に当たらなければならない。今よりもう少しだけ距離を取って、広い視野を持つことが大事だな。だが、ガイ。情熱はお前の一番の持ち味だ。大切なのはバランス。仲間を信じて、これからも精進しなさい」
「はいっ!!」
ガイはどんどん成長するな。昔は本当に落ちこぼれって感じだったのに、情熱と努力が着実に実を結んでいるという気がする。
チョウザ先生が続いてこちらを向いたので、私は少し背筋を伸ばして答えた。
「……私も、見通しが甘かったと思います。私は今回慎重になりすぎて、距離を取りながらも向こうの出方を探るための無駄打ちが多かった。ゲンマならもっと少ない数で検証しながら戦えたはず。自分の持ち駒を考えて、バランスよく使わないと最後で弾切れになります……」
「その通りだな。お前がスタミナ型ならその戦い方も悪くないが、お前もゲンマもそれについては弱点のはずだ。もっと効率を重視する必要がある。ゲンマが良い手本になるだろう」
「……はい」
項垂れる私の肩に手を添えて、チョウザ先生は穏やかに微笑んだ。
「もう一歩だ。お前は謙虚に俯瞰もできるし、目標に向けてまっすぐ突き進む強さもある。要はバランスだ。お前のその二面性が仲間を繋いでいる。もっと自信を持ちなさい」
私の二面性。それが、仲間を繋いでいる?
私たちを繋いでいるのは、ゲンマのリーダーシップだと思っていた。私の中のちぐはぐな感情は、チームワークの邪魔になると思っていた。
チョウザ先生の言葉は、私の中の矛盾を丸ごと受け止めてくれるような気がした。