73.証明


 リンと同じ年にアカデミーを卒業できて本当に良かった。死に物狂いで勉強した甲斐があった。おまけにリンと同じチームになれるなんて最高だ。
 飛び級したが同級生のガイと同じチームになった過去があるから、もしかしてと期待はしていたけど、力のバランスを考慮した上で同級生は組まされることが多いのかもしれない。そういえばアスマと紅もチームメイトだったはずだ。

 しかし最悪なことも同時に起きた。あのカカシと同じチームになってしまったのだ。何で今さら。あいつはもうとっくに中忍なのに。
 リンはあいつのことが、好きだったのに。

 カカシと同じチームだと分かって、リンは嬉しそうだった。昔みたいに頬を染めて笑った。に聞くまでもない。リンはきっと今も、カカシのことが好きだ。
 だがカカシは、俺たちのことなんか眼中にないようだった。何で今さら、こいつらと組まされる。そう思っているのがありありと伝わってきた。リンは気まずそうだったし、俺はそんなカカシの態度に腸が煮えくり返った。

「足手まといなんだよ! 特にお前、オビト!」
「はぁ!? お前ちょっと先に中忍になったからって偉そうに! 指図してんじゃねぇ!!」
「まぁまぁ、オビト」

 リンに宥められて思わず口を噤むけど、カカシの見下したような態度に腹の虫は収まらない。担当上忍のミナト先生はまだ二十歳にもなっていないらしいけど、他国にも知られた凄腕の忍びだ。物腰はすごく穏やかなのに、どことなくオーラがあった。めちゃくちゃカッコイイ。

「カカシ。確かに君は中忍だけど、ここでは俺の指揮下でチームワークをしっかり学び直してもらうよ。君たちは上下関係じゃない。れっきとした仲間だ。それから、オビト」

 ざまあみろとばかりほくそ笑んだ俺を、ミナト先生が鋭い視線で射抜く。

「君はしっかり周りを見て行動するように。忍者が余所見していて溝に落ちるなんて、足手まといと言われても否定できないでしょ?」
「う、う……」

 俺は素直にはいと言えずにきつく唇を噛んだ。大げさにため息をつくカカシと、困ったように笑うリン。リンは大歓迎だけど、カカシとチームワークを磨くなんてまっぴらごめんだ。

 カカシと同じチームになったことは、俺に気持ちの面で負荷をかけるだけではなかった。カカシはたった半年でアカデミーを卒業し、中忍になったのも段違いに早い。幼少期から神童と呼ばれて、チームワークは論外としても、能力からすれば圧倒的に世間から評価されていた。俺がカカシと同じチームに配属されたことで、うちはからの風当たりが一段と強くなった。
 所詮、俺はうちはとの混ざり物で、落ちこぼれ。神童の引き立て役。うちはの面汚し。

 俺はどうせ、何者にもなれない。

 こんな俺が、連中を見返す方法は一つしかない。

「俺の写輪眼が開眼すれば、お前なんかいつか追い抜いてやるからな!」

 写輪眼さえ開眼すれば、連中だって俺をうちはと認めざるを得なくなる。神童と呼ばれたカカシだって、絶対に追い抜いてやる。
 そして俺の力を、みんなに認めさせてやるんだ。

「うちはって代々エリートなんだろ。だったら、そんなもんなくたって優秀なはずなんだけどな」
「うるせぇ! 俺は大器晩成型なんだよ! 見てろよ、絶対に見返してやるからな!」
「大器晩成なんて、後から分かることだろ。自己宣言なんて負け惜しみと一緒だ」
「なんだと!」
「もう、二人ともやめなよ」

 その日も任務を終えて火影邸を出る頃、カカシと言い合いになった。リンが俺たちの間に割って入ると、カカシは顔をしかめながらもそのまま口を噤む。そのとき、ちょうど外に出てきたたちのチームと一緒になった。

 のチームメイトのゲンマはもともと上級生だが、在学中からよくの世話を焼いていた。俺は両親を亡くしてから幼なじみのとは疎遠になっていたし、俺なんかよりよっぽど親しく、はすっかりゲンマに懐いたようだった。が下忍になってからも時々顔を合わせると、楽しそうにゲンマのことを話していた。
 ゲンマはさっさと中忍になり、今は臨時のチームで戦地の後方支援に回ることも増えたらしい。でも時々こうして、チョウザ班の隊長として指揮を執ることもあるそうだ。

 まともな中忍になると、まともな任務に就くんだな。誰かさんと違って。

 ミナト先生はに、凪おばさんの話をしていた。おばさんが任務で重傷を負い、さっき面会できるようになったらしい。でもは何も知らされていないようだった。

 やはり戦争が始まってから、の家は変わったみたいだ。昔の澪ばあちゃんなら、凪おばさんの身に何かあれば、に知らせたはずだ。
 は在学中から、次第に家族の話をしなくなった。

 俺は不意に、ばあちゃんの言葉を思い出していた。

『さて……はいつまで持つかね』

 はおばさんとの面会をミナト先生に促され、戸惑っていた。に、凪おばさんに、澪ばあちゃんにこの数年で何があったかなんて、俺は知らない。でも俺だって、の血を引く人間のひとりだ。たとえばあちゃんがと縁を切ったとしても、俺とは確かに血が繋がっている。

、よかったら俺も行くけど」

 だがは、小さく笑って俺の申し出を断った。ゲンマがそばにいれば、俺の助けなんてもう要らないみたいだった。
 俺のほうが、家族のことなら分かってやれるかもしれないと思ったけど、思い上がりだったな。

 がゲンマと病院に向かってから、俺はまとわりついてくるガイを振り切るのに苦労した。は以前、ガイともいいチームメイトになれそうだと言っていたが、俺にとってはやっぱり苦手なやつだ。
 何とか家の用事を盾に振り切ってリンと帰り道を歩きながら、俺はげんなりと肩を落とした。

「ガイといると、ほんとに疲れる……」
「まぁ、パワフルすぎるよね。でも、バランスの取れた三人だよね。ガイはパワフルで、ゲンマはスマートで、はその調整役って感じ。なんか、息が合ってる感じがするよ。チームになってきたんだなって思う」

 リンはしみじみそう言って、少し遠い目をした。

「……私たちもなれるといいな。たちみたいに」
「な、なれるよ! あ……カカシさえ、おとなしくしてくれれば……」
「ふふっ……でも私たちが弱いのは、事実だから。私たちも、もっと強くならないとね」

 リンはそう言って笑ったけど、俺は納得がいかなかった。チームなんだから、強い弱いなんて関係ない。足手まといと言って切り捨てようとするあの態度が気に食わない。絶対にカカシなんかより強くなって、あいつを見返してやる。リンだって絶対に、渡すもんか。

 でも俺に告白する勇気は、なかった。