65.予選
予想通り、一次試験はチームの内ひとりでも合格点未満ならば全員失格という判定だった。ゲンマもそれに気づいて長楊枝にメモをつけて飛ばすつもりだったらしいけど、私の肩にサクが乗っているのを見て、様子見していたらしい。
あとでサクにたんまりお礼すると、当然、兄弟であるアイも寄越せとしつこくねだる。ここでアイにも恩を売っておけば後々助けてくれるかもしれないという打算が一瞬働いたけど、信頼って多分、そういうことじゃない。アイのおやつはいつもより少しだけ多めにして、しっかりサクとの差をつけておいた。もちろんアイには殴られた。
無事に一次試験を突破し、二次試験まではチーム戦。情報収集、潜伏、敵の巻物の奪取、戦闘――敵対したチームはゲンマの元チームメイトだったから、手の内を知っているゲンマの作戦勝ちで、私たちはさほど苦もなく巻物を手に入れた。
因みにゲンマはアカデミーでは手を抜いていたし、火遁は在学中は一切やっていなかったから、不意打ちの策がかなり上手く効いた。
大変だったのはゴールまでの道中で、待ち伏せや追跡に遭うのをいかに切り抜けるかだった。何度もあわやというところで追いつかれそうになったけど、ガイの瞬発力に助けられた。私は二人の援護で手一杯だった。
「それがお前の役割だ。大丈夫だ、俺たちは上手くやれてる」
ゲンマはそう言ってくれたし、実際、今の私にやれることを全力でやるしかない。訓練した連携技も上手く機能している。大丈夫、やれる。自分にそう言い聞かせて、今は進むしかなかった。
私たちは何とか二次試験も突破し、受験者は半数ほどに絞られた。それでも数を減らすために、本選の前に予選が開催される。ここで私たちは初めて個人戦となった。
全部で二十人くらいいるのに、なんと私の対戦相手はアスマだった。
「マジかよ」
「そんなの、こっちの台詞だよ」
なんか、こんなのばっかりだな。チーム編成だってまさか同期のガイ、幼なじみのゲンマと組むなんて夢にも思わないし、中忍試験の個人戦で、個人的に半年も修行に付き合ってくれたアスマと戦わなきゃいけないなんて。偶然なのか意図的なのか、どちらにせよやりにくいことに変わりない。ある程度、手の内を知られている。
「手加減はしねぇからな」
「当然でしょ。正々堂々、恨みっこなしよ」
そうは言ったものの。
遁術だって体術だって私より遥か上を行くアスマに、真っ向勝負で勝てるはずがない。私はアスマの動きを一瞬でも止めるために、距離を保ちながらクナイを何度か投げたけど、力不足でアスマの握る武器にあっさり弾き飛ばされた。四本の指をそれぞれ入れて深く握り込める形状の武器だ。一緒に修行したときにも見たことがない。あれで殴られたら軽傷じゃ済まないなと思った。
「いつまでも鬼ごっこか?」
「そう思う?」
会場を走り回って煙玉で巻いている間に、光沢の有無が異なるワイヤーでいくつか罠を仕掛けた。ゲンマがよく使うやり方で、私も最近真似するようになった。
アスマが艶消しのワイヤーにかかって足を掬われた隙に、烈風掌に乗せて手裏剣を複数降らせる。でもアスマは倒れたままでも素早く印を結び、私の術とは比べ物にならない広範囲の風遁ですべてを吹き飛ばした。
(遠距離、中距離もダメ、近距離で食らったら一発アウト……武器も残り少ない……)
こんな戦い方をしている時点で、中忍になる資格はないと思う。手持ちの武器の数、味方の能力、体力、チャクラ量、すべて総合的に判断して戦術を組み立てながら戦うのが小隊長だ。目の前の対応にいっぱいいっぱいで、後先を考えないで持ち駒を使うようでは味方の命は守れない。
そんなこと、分かっているのに。
(カカシ、あんたはどうなの。味方のこと、ちゃんと見てんの?)
仲間を足手まといと言い切ったカカシが脳裏に蘇り、私は忍具ポーチを探る手に力を込める。内側にはゲンマのおばさんがくれたお守りを縫い付けてあった。
足手まといなんかじゃない。味方の心強さも、頼もしさも、絶対に戦場で必要になるはずのものだ。
「ボサッとすんな! 上!」
突然ゲンマの声が聞こえて、私は後ろに飛び退きながらかわした。会場の周りに巡らされた足場で他の受験者たちが観覧する形になっているので、ガイの喚き声はずっと聞こえていた。
ちょうど私のいた場所に、例の武器を握りしめたアスマの拳が突き刺さって地面が広く抉られる。チャクラを込めたその一撃を、一度でも食らえば再起不能になるだろうことは一目瞭然だった。
(やっぱり近づくのは危険……罠はあと二箇所、クナイ一本、手裏剣三枚……)
そしてポーチの中で指先に触れる、あの感触。
一か八かでも、やるしかない。
私は会場内を走り回りながら、ポーチから武器を取り出して投擲した。素早く印を結んで烈風掌に乗せ、威力を上げる。
「そんなもん、いくらやっても――」
難なく手裏剣を弾き返したアスマの顔色が変わった。急に肩口を押さえたアスマの動きが一瞬止まり、私はそのうちにもう一度烈風掌で押し込む。すぐ後ろにあったワイヤーに足を取られてアスマが体勢を崩すのを見逃さず、その隙に飛びかかって彼の喉元に最後のクナイをかざした。
――はずだった。
「そこまで。勝者、猿飛アスマ」
試験官の声が聞こえたとき、私は逆にアスマに組み敷かれて喉にクナイを突きつけられていた。
「正直、危なかったわ」
周囲で歓声が響く中、アスマは苦笑いしながら私に手を伸ばした。その手を握り返して、私は痛む身体を引きずって立ち上がる。どうやら倒れたアスマに一瞬で身体を反転されて上下が逆転してしまったらしい。最後は結局体術だったなと肩を落としながら、私はアスマの肩口を見やった。
彼が自分に刺さった千本を軽く引き抜き、それを私に差し出しながら言ってくる。
「これがお前の隠し武器ってわけか」
「……さぁね」
「まだありそうだな。次またお前と戦えるのが楽しみだ」
「勝者の余裕、ムカつく」
「強がりだよ。分かれよ」
息を切らせながらも、最後は互いに握手を交わして一礼する。周囲から拍手が送られる中、私は首を捻ってチームメイトの姿を探した。
ガイは泣いていたものの、チョウザ先生とゲンマは微笑みながら拍手してくれていた。やれることは全てやった。これが今の私の実力だ。
掲げた私の右手に握られているのは、もう何か月も私のポーチの中で眠っていた、ヒルゼン様から贈られた千本だった。