64.挑戦
「もちろん、ボクは受験する!!」
ガイは予想通り、いの一番に手を挙げた。これは恐らく、ゲンマも想定内。
私たちは申請用紙を囲んで演習場の隅に丸くなって座っていた。意気込むガイに向けて、ゲンマは淡々と問いかける。
「中忍試験は三人一組の申請が必要だ。もし俺が辞退するって言ったらお前はどうする?」
「ケ゚、ゲンマは辞退するのか?」
「もしって言ってんだろ。俺はどっちとも言ってない」
ゲンマこそ、現時点で一番中忍に近いだろうに。中忍は実力だけあればいいわけじゃない。小隊を率いるリーダーシップの他、色んな資質が必要なはずだ。
ガイは腕を組んでしばらく難しい顔をしていたけど、次に口を開いたときには自信満々にこう言った。
「ボクたちは力をつけた! 三人とも一年前より確実に強くなってる! ゲンマが辞退すると言うなら、君がうんと言うまで君を説得するだけだ!」
「期限までに俺がうんと言わなかったら?」
「言わなかったら……言わなかったら、何とかして、言わせてみせる!」
「言わなかったらっつってんだろ。現実見ろ」
「そ、そのときは……そのとき考えるっ!」
やれやれと息を吐いて、ゲンマが今度は私を見る。
「はどうする?」
「……ゲンマは?」
「俺は最後に言う」
ゲンマは多分、私がどっちでも言いやすいようにそう言ってくれてるんだと思う。目を閉じて、何度か深呼吸する。命を落とすかもしれない過酷な試験だ。でもそんなの――戦場に行けば、誰にだって降りかかるもの。
カカシは、もう何年も前に潜り抜けた道。
「私は……挑戦、してみたい。前に行けるなら、どんどん前に行きたい。準備が完璧に整うの待ってたら、多分、ずっと動けないままだから」
「っ! その通りだと思う! ボクたちは常に青春ど真ん中! 走り続けてこそいつか見える景色があるはずだっ!!」
「うるさい」
私がぴしゃりと撥ねつけると、ガイはしゅんと小さくなった。ゲンマが無表情に私を見て、淡々と聞いてくる。
「挑戦と無鉄砲は違う。分かってるか?」
「……う、うん」
「やると決めたらまず何をする?」
「……も、目標設定と、計画立てて、その準備……」
「やれるか?」
ゲンマの目は厳しい。私はすごく緊張したけど、カカシや――ばあちゃんの顔を思い浮かべたら、こんなところで踏みとどまっていられないと思った。
「やれる。一緒にやってほしい」
「もちろんだ! 三人でやろう!」
「ゲンマの返事がまだでしょう!」
即座に口を挟んでくるガイを怒鳴りつけて、私はゲンマの顔を見返した。ゲンマはしばらくじっと私を見つめたあと、小さく笑って口元の長楊枝を揺らした。
「分かった。三人で出るぞ、中忍試験」
「そうこなくっちゃな!」
意気揚々と膝を打つガイがとても眩しい。いつもまっすぐ突き進むガイがいてくれるから、惑いやすい私も俯かないでいられる。そしてゲンマが、そんなちぐはぐな私たちを繋いで引っ張ってくれる。
でも、甘えすぎないように。私たちは支え合って、チームを作っているんだから。
それから中忍試験までの一か月は、チョウザ先生を相手にした私たち全員の連携プレーを磨く他、私とゲンマの連携技対ガイの体術という主に二パターンの修行をひたすらこなして過ごした。ガイは、体術はずば抜けているが忍術は弱い。私とゲンマの基本忍術と遁術の連携技を相手にいかに敵を素早く出し抜けるか、敵の連携を崩せるかの訓練。私たちはその逆で、いかに二人の波長を合わせてペースを乱されないように味方に合わせられるか。
そしていよいよ迎えた中忍試験当日。ゲンマの元同級生のチームもちらほらいたけど、基本的にはもっと下忍歴の長いチームが多かった。どのチームも緊張で強張っていて、ガイのように目をキラキラさせているのは一握りだ。もちろん受験者の中には、アスマたちシカク班もいる。
アスマは私たちが受験すると聞いたときは驚いていたけど、すぐに不敵に笑って「手加減しねぇからな」って息巻いていた。
第一試験はペーパーテストだった。これ……ガイ、解けるやつ? 私とゲンマは、多分問題ない。
前方のガイを見やると、すでに大げさなくらい頭を抱えていた。
(これ、ガイが落ちたら私たち全員失格なんだろうなぁ……)
さっきの試験官の話を素直に聞くならば、このペーパーテストは個人の能力や知識を問う個人戦。でもそれ以上に、最適な方法を導き出す力が重要だという発言を深読みするならば、この試験だってチームワークを問われている可能性は高い。
(そもそも、単純なペーパーテストなんてアカデミーで充分でしょ)
そんなものが中忍試験で問われるとは思えない。問題は、どうやって座席の離れたガイに答えを教えるかだ。
不正行為は三回以上で退場。つまり、二回までは堂々とやっていい。
二回に分けて、何とか伝えないと。
ゲンマの心が読めて、ゲンマと半分ずつガイに答えを教えられたらいいのに。
するとそのとき、突然肩にずっしりした重みが乗った。頬に当たる毛並み。これは――。
「……サク。こんなときに何の用?」
周りに聞こえないように小声で問いかけると、サクは尻尾で私の頬をペチペチ叩きながら囁いた。
「お腹ペコペコにゃ」
「……どう見てもそれどころじゃないでしょ。帰ってからにして」
「手伝ってやってもいいにゃあ」
「……どういう風の吹き回し? ばあちゃんに頼まれたの?」
「澪は関係ないにゃー。おやつ弾んでほしいにゃー」
「……分かったわよ。じゃあゲンマはいいから、ガイにメモ二回渡して。準備するから待ってて」
「え〜。あいつうるさくて嫌いにゃあ」
「おやつはどうすんのよ」
「分かったにゃ〜」
ここ最近、アイとサクが姿を見せることは前よりさらに増えた。修行中に気ままに絡んでくることはあっても、手伝いを申し出てくるのは初めてだ。半信半疑だったものの、他に頼れる手段はないのだから頼るしかない。
信頼は、積み重ねていくもの――。
ひとまず前半部分の回答をすべてメモに書き写し、サクの口に運ぶ。肩の重みが一瞬で消え、次の瞬間には前方からガイの悲鳴が聞こえてきた。