159.復興
最優先は、生存者の救出と瓦礫の撤去、仮設住宅の建設。
私たち情報部は戦争回避のため、里の内外を行き来して情報収集の上、里の混乱を他国に知られないための情報操作に奔走した。だから物理的な作業には参加できなかったけど、他の本部のメンバーたちは連日、復興作業に明け暮れていた。ゲンマたち護衛部も然りだ。
火影護衛小隊のメンバーは見るからに落ち込んでいた。彼らの仕事は、火影の護衛だ。そのことに誇りを持って戦ってきたはずだし、非常事態だったとはいえ、その非常事態にこそ責務を果たしたいと考えるのが普通だろう。
でも、四代目は命を落とした。里を守るため、自らの命を懸けた。
「お前ら、情けねぇツラしてんじゃねぇ。さっさと運べ、ホラホラ」
里を離れる前、作業中のゲンマたちを見かけた。ゲンマが率先して動き回り、他のメンバーに指示を出しているようだった。暗い顔をしているイワシの背中を平手で叩き、何か声をかけている。
遠目に見ただけだし、私には私の仕事がある。だから声はかけられなかったけど、私の頭にはそのあともゲンマの顔が浮かんだ。
ゲンマ、なんか、変だ。
***
ようやく少し落ち着いたのは、九尾襲来から二か月が経とうという頃だった。季節は年の瀬。ばあちゃんが死んで、もうすぐ一年だ。
ばあちゃんや母さん、への思いは自分の中でまだうまく整理ができていない。ただ、これだけは言える。これ以上、悲しみの連鎖は生まない。私は絶対に、結婚なんかしない。
サクは少しずつ、アイのお墓から離れる時間が増えているみたいだった。と言っても、私は留守にしていることが多いから、全部レイから聞かされたことだ。あれからサクは、口寄せしても一度も姿を見せてくれない。両肩の重みが一度に消えて、時折ひどく、物悲しい気持ちになる。
でも、決めるのはサクだ。サクが私を助ける義理なんて、本来はないんだから。
情報操作は概ね上手くいった。九尾襲来という噂は、本当は大規模な災害であったこと。復興はすでに進み、インフラは整ったこと。四代目火影の死は事実だが、三代目がすぐに復職したこと。木の葉の戦力は、ほとんど現状を維持していること。
当然、一部を除いてそれらは事実ではない。多くの忍びが命を落とし、木の葉の戦力は大きく低下した。一閃さんも殉職した。それでも、民間人の犠牲はほとんど出なかった。
もちろん、少なければいいという問題じゃない。リンのおじさんが死んだとき、忍びという存在への疑念がまた積み重なった。
それでも今、忍びを辞めることはできない。
里はようやく、仮設住宅が整ったところだ。イクチの家も全壊したため、今はゲンマの実家で暮らしている。仮設住宅に住めるようになれば出ていくと当初からイクチは話していたそうだが、もちろんおばさんたちが止めたらしい。まだ一歳の赤ん坊がいて、仮設住まいも大変だろうからと。家族なんだから、遠慮は要らないと。
本当に、おばさんらしいな。
四代目の子どもは、表向きは死んだものとされている。クシナさんの大きなお腹を見かけた人たちも多いから、もうすぐ子どもが生まれると人々は期待していた。でも、四代目もクシナさんもあの混乱の中で命を落とした。クシナさんと一緒に、お腹の子どもも死んだものとされた。
でも真実は、違う。二人の子どもは生きている。九尾の器となり、たった一人生き残った。
その行方は、私にも分からない。四代目の息子で、半身とはいえその身に九尾を宿している。極秘裏に育てられることだけがヒルゼン様から伝えられ、私はそれ以上追及できなかった。
コトネさんたちは、ネネコちゃんに弟分ができると喜んでいた。それなのに、親しい友人夫婦を一度に失い、その望みも絶たれた。あんなに明るいイクチ夫妻の顔にも、暗い影が差すことが増えた。
ゲンマは普段通りだった。千本を口に咥えて、額当てをバンダナみたいに頭に巻き付けて、いつもはポケットに入れている手を傷だらけにしながら、里の東側の家々の再建を手伝っていた。
ガイの家も全壊した。アオバも、イワシも。当たり前のように住み慣れた家に帰れるということが、本当に有り難いということを知った。
でもやっぱり、私の頭に何度も思い浮かぶのはゲンマの顔だった。二か月前からずっと引っかかっている、あの表情。
「ゲンマ、いる?」
お鍋を手にした私がアパートを訪ねると、玄関先に現れたゲンマはひどく疲れた顔をしているように見えた。
でも、気のせいだったかも。ゲンマは私の顔を見て、いつもみたいに軽い調子で口を開いた。
「、どうした」
「よかった、いて。今日貰い物もあったからお鍋にしたんだ。よかったら一緒に食べよ。もう食べちゃった?」
「いや、まだだけど」
「よかった! 一緒に食べたい。入っていい?」
「ん……まぁ、いいぞ」
「お邪魔しまーす」
ゲンマがドアを肘で押さえてくれている間に、中に入る。ここに来るのは二回目。あれは確か夏だったから、もう四か月くらい経つかな。
部屋に入ると、あのときは全然しなかったゲンマの匂いが、ほんの少しだけ香ったような気がした。