133.捜索
リミットは、四年。
いや、があと半年もすれば十五歳になると思えば、実質は三年半だ。
それまでに、が俺を結婚相手として選ばなければ、は他の男と結婚することになる。
胃が痛い。十年、俺を幼なじみとしか見てこなかったが、三年半で俺を男として見るようになる? どうやって?
当たって砕ける未来しか見えない。
もし、当たって砕けたら? はもう、俺のそばから離れていく?
そう考えたら、怖くてたまらなくなった。
「あ、ゲンマ! お疲れさま」
こういうときに限って、鉢合わせをする。高鳴った鼓動を覆い隠すように息を吐いてから、俺は静かに振り向いた。本部の廊下をこちらに向かって歩いてくるは、今ひとりだった。
は俺の前まで来て止まったが、俺が黙っているのを見て不思議そうに首を傾げた。俺のほうが二十センチ近く背が高いから、はどうしても上目遣いに見上げる形になる。
それだけのことでドキドキと動悸がする俺の脳裏に、あの日の澪様の言葉が蘇った。
絶対に幸せにすると約束した男と結婚しても、の母親は幸せにはなれなかった。
が、同じ道をたどらない保証があるか?
が幸せになるならそれでいい。だが、もしそうならなかったとき、俺は自分を納得させられるのか? 俺自身が、ぶつかることもせずに、への気持ちから逃げたとしたら。
「ゲンマ? どうかした?」
が心配そうな顔で覗き込んできたとき、ハッとして息を呑んだ。こんなことをしていたら、駄目だ。また、迷惑をかける。
今、が俺のことを男だと知らなくてもいい。他の男を好きになるならそれでもいい。四代目でなければ、俺だって応援したい。が幸せに笑って過ごせるなら、俺は彼女の幸せを遠くから見守るだけだ。
だが今は、こんなところで迷惑をかけるようなみっともない真似しかできない。俺との噂が収まらなければ、は他の男とまともに恋愛なんてできないだろう。
「……悪い、何でもない」
そのときひょっこり現れたアイとサクが、の肩から顔を覗かせてニヤニヤと笑った。思わず声が裏返った。
「ニヤニヤしてんじゃねぇ!!」
「え、何? どうしたの?」
「お前じゃねぇよ!!」
そのときにはもう、忍猫たちは煙のように姿を消していた。
煙のように、とは言っても、忍猫の使用できる時空間忍術には一定のインターバルが存在し、頻度が高まればそれだけ負荷もかかるらしい。本当に消えているのか、それとも消えたように見えるほど素早く移動したのか、それは俺には分からない。
今、俺たち火影護衛小隊は四代目から直々に時空間忍術を教わっている最中だが、難易度はSランクの中でも最上級。三人がかりでもかなりの技術が必要となるため、今のところ俺たちの小隊しか成功したことはない。
あの高度な術を欠伸しながら発動できる時点で、口寄せ動物の次元の違いを実感する。
何にせよ、ぽかんとしているを見下ろして、俺は素っ気なく告げた。
「何でもない。さっさと戻らねぇとまたアオバに嫌味言われんじゃねぇか?」
「あっ! そうだね! うん、ありがと。またね」
俺の好きな笑顔を見せて軽やかに去っていくの後ろ姿を、見送る。そうやっていつも、笑っていてほしいのに。
が他の男と幸せになるのを見届けるか、俺がその役を引き受けるか。
いずれにせよ、俺がこの気持ちを持て余しているようでは話にならない。
まずは例の噂が忘れ去られるくらい、俺が冷静にならなければ。
話は、それからだ。
***
アオバがひとりで火影室に呼ばれたと思ったら、事務室に戻ってくるなり顎で外を示しながら、「次、お前だ」と相変わらずぞんざいに言い放った。ムカつく。
火影室に入ると、懐かしい顔が目を輝かせて振り返った。
「! 会いたかったぞ!」
ガイだ。私が情報部で朝から晩まで缶詰になったり、アオバと里の外に出る任務が多いせいか、本当に半年ぶりの再会だった。
そしてガイの隣には、アオバとはまた違った雰囲気のサングラスの男の人が立っていた。私たちより、ちょっと年上くらいかな。口元はへの字で、表情はいまいち読めない。
私が扉を閉めてガイの隣に並ぶと、四代目は静かに話し始めた。
「揃ったね。とエビスは初めてかな。エビス、情報部のだ。偵察、分析共に優れているから、二人で協力して捜索に当たってくれ」
「捜索……ですか?」
エビスが全く友好的には見えない動きで私を一瞥する中、私が思わず口を挟むと、四代目は小さく頷いて私たち三人を見渡した。
「今回君たちに頼みたいのは、下忍の捜索だ。本来であれば担当上忍が行うところだが、彼は今別の重要任務で里を離れている。、エビスは正規部隊だが頭脳明晰で分析力もある。二人で協力して任務に当たってくれ。ガイはもしものときのための君たちの護衛役。宜しく頼んだよ」
ちらりと横目で見ると、意気揚々と拳を握るガイの向こうに、エビスの冷たい眼差しが見えた。一瞬だけ目が合って、彼はすぐさま視線を逸らす。
サングラス、嫌いになりそう。
声には出さずに呟いて、私は小さく息をついた。