124.顔合わせ


 そろそろゲンマの誕生日だなって頃に、護衛部と一緒に仕事をする機会があった。火影の護衛小隊といっても全部で三小隊あるし、いつも四代目の護衛というわけじゃない。
 今回は、国の北西部に位置する街に潜むとされる反乱勢力の動向を探り、必要に応じて現地の治安維持を行うこと。

 護衛部と情報部が連携する任務は珍しくないらしいけど、私が情報部に配属されてからは私の知る限り初めてだ。しかも、アオバ以外は全員この春から本部配属の、いわば新人。
 そう。私はゲンマたちの護衛小隊と組むことになった。

 私と一緒に火影執務室に向かうようにいのいちさんから指示されたアオバは、その場ではおとなしく頷いたものの、執務室に向かう途中のその嫌そうな顔といったら。
 そして執務室に入る瞬間にまた殊勝な顔に戻ったアオバを見て、こいつは絶対結婚したら家の中で奥さんにデカい態度をとるタイプだなと思った。

「君たちにこの仕事を頼むのには理由がある。先日、ゲンマたちに同行してもらった視察先で不穏な勢力の話を耳にした。今回はその詳細な情報を探り、可能ならその場で対処を頼みたい。アオバ、君なら情報収集も分析も並行して任せられる。俺はのことも信頼しているから、彼女をしっかり引っ張って進めてほしい」
「了解しました」

 アオバは淡々と答えたけど、この四か月、こいつと一緒にいてもう嫌と言うほど分かってきた。絶対、内心嫌がってる。

 四代目は続けてゲンマたちを見渡し、落ち着いたあの笑顔を見せた。

「俺は君たちを信頼している。何も心配はしてない。でも無理だけはしないように。危険だと判断すればすぐに退いて帰還してくれ。アオバ、ゲンマ、みんな、頼んだよ」


***


 まぁ、予想通りだけど。執務室を出た途端、アオバがすごい顔で私の耳元で凄んだ。

「お前、これは仕事だぞ。男と一緒だからと浮かれるなよ」
「………ねぇ、本気で言ってる? 何なの? 女に恨みでもあるの?」
「お前、それが先輩に対する口の利き方か?」

 めんどくさ。呆れて息をつく私の後ろから、不意に大きな影がひょいと覗き込んできた。私たちのすぐ後ろから執務室を出てきたゲンマだ。やっぱりアオバより、ゲンマのほうがちょっと背が高い。
 ゲンマは正直、目つきが悪いし身体が大きい上、口に千本を咥えるという謎スタイルだから、アオバは一瞬たじろいだようだった。

 ゲンマ、気づかないうちにほんとに大きくなったな。他の長身の男の人と並んだって目立つ。ライドウほどじゃないけど、体格もしっかりしてるし、知らない間に男の人になったんだな。
 そっか、もうすぐ十八歳だったな。

「打ち合わせしてぇんだけど、このあといいか?」

 ゲンマは、私というよりアオバに聞いたみたいだった。アオバがこの中で一番経験があるってゲンマも分かってるんだろう。でもアオバはちょっとムッとした様子でサングラスを押し上げた。

「それは構わないが、口の利き方がなってないな。それで要人の護衛が務まるのか?」

 え、いかにも内弁慶なくせに初対面のゲンマにそういうこと言うの? 私はびっくりしたけど、もしかしたら私の噂の相手だから絡んでるだけかも。ほんとにめんどくさいな。

「アオバ、うざ絡みやめなよ。部署違うんだから」
「お前、うざ絡みとは何だ。俺は先輩としてだな……」
「ん? なんだ?」

 私とアオバが言い合っていると、ゲンマの後ろから出てきたライドウが私たちの前まで進み出た。
 顔をしかめたゲンマとライドウに一斉に見下ろされ、アオバは完全に毒気を抜かれたようだった。何しろもう、一目見てガタイが違う。喧嘩を売る相手を間違えたなと思った。

「…………何でもない」

 今にも消え入りそうな声で、アオバはそう囁いた。


***


 が年上の相方にいびられている、という噂は聞いたことがあった。だがは無用な争いは好まないものの、決しておとなしいほうではない。理不尽なことにははっきり意見するし、年上だからと怯むこともない。そうおとなしくやられっぱなしというのは想像できなかった。

 と同じ任務というのは、四代目の執務室に呼ばれて初めて知った。俺たちの後に姿を見せたを見て、俺は一瞬どきりとした。
 だがすぐに、先日の屋台でが言っていたことを思い出して冷静になった。恋愛がどうだとか、幸せがどうだとか、は一切眼中にない。ただ目の前の仕事を確実にこなして、平和を実現するために私を滅して働くだけ。そう言っているように見えた。

 俺がふわふわしていて、どうするんだ。

「アオバ、ゲンマ、みんな、頼んだよ」

 四代目がそう締め括ったあと、俺たちは執務室をあとにした。俺たちの小隊は俺が隊長ということになっているし、はアオバの後輩に当たるから、一応アオバがリーダーということになるんだろう。
 打ち合わせを提案するため、通路に出てから声をかけようとすると、二人は声を潜めて口論しているようだった。

「お前、これは仕事だぞ。男と一緒だからと浮かれるなよ」
「………ねぇ、本気で言ってる? 何なの? 女に恨みでもあるの?」
「お前、それが先輩に対する口の利き方か?」

 一瞬、カッと頭に血が上った。俺との噂のせいで、が相方から絡まれている。はさほど相手にしていないようだったが、よりによっての相方がこんな噂を盾に彼女を軽視するような素振りに腹が立った。
 だが俺は、房中術の講義を思い出してすぐに気持ちを切り替えた。房中術は何もベッドの中だけの技術じゃない。それらの根幹をなす、精神的・戦術的技術の総称だ。

 俺が回り込んで、千本の先を少し上げながら覗き込むと、の相方――山城アオバは少し怯んだようだった。ライドウと揃ってひっそり圧をかけてやると、決定的に小さくなった。
 この手のタイプは相手を選ぶ。一緒に仕事をする以上、問題を起こすつもりはないし、が仕事しづらくなるような真似はしたくない。

 だが、仕事をやりづらくしているのはそっちのほうだろ?

 空いている会議室で打ち合わせをすることにして、俺たちは移動を開始した。はあえて俺から距離を取るように下がり、最後尾のイワシと話し始めた。