107.誇り


 戦争が始まって六年。火の国も多くの命を失った。忍びはもちろん、戦火に巻き込まれた土地の人々、住む場所を追われた人たち。偵察任務では、そういった地域を見て回ることも多かった。
 火の国だけじゃない。五大国、そしてその周辺に存在する無数の小国。自来也さんは第二次大戦の折、雨隠れに長く赴いていたらしい。戦争孤児も多く見たそうだ。

 殺し合いをする以上、私たち忍びが殺されるのはある意味で仕方のないこと。殺される覚悟のない者が、人を殺していいはずがない。私もこの一年で、岩隠れの忍びを五人手にかけた。殺さなければ、生き残れなかったからだ。
 もう、戻れない。そう思った。

 私たちが仲間を失ったり、命を取られたり。それは仕方のないこと。でも忍びでもない人たちが巻き込まれるのは、絶対に違う。
 絶対に、終わらせなければならない。

 ばあちゃんや自来也さん、いのいちさんたちの話では、各国が戦争終結に向けて水面下で動き始めたらしい。
 中でも火の国と土の国は今、平和条約の締結を画策する派閥と、それに抵抗を試みる派閥との間で駆け引きが繰り広げられているそうだ。

 木の葉隠れと岩隠れの平和条約が実現すれば、他国も表立っての戦闘を控えるようになるだろう。私はそのための下準備として、岩隠れ方面に出向くことが増えた。

は大活躍だな。すげぇよ。俺たちの自慢だ」

 忍具を補充したあと、たまたま鉢合わせたオビトと途中まで一緒に帰った。

「おだてても何も出ないよ」
「本心だよ! ミナト先生がよくお前のこと話してるぞ。こないだ一緒に任務に出たんだろ?」

 ミナト先生の名前を聞いて目線を泳がせてしまった私を見て、オビトは神妙な顔をした。

「お前、まさかまだ、ミナト先生のこと……」
「やめてよオビト……オビトこそ、いつリンに告白すんの?」
「こっ……」

 あっという間に赤くなったオビトはそのままの勢いで首を振った。

「無理無理無理、無理だ!」
「何でよ。何年片思いしてんのよ。一生片思いでいいの?」
「………」

 オビトはしばらく苦虫を噛み潰したような顔をしていたけど、小さく息を吐いて目を伏せた。

「……リンは今もカカシのことが好きだって、俺だって分かってる。フラれて気まずくなるくらいだったら……俺は今のままでいいんだ」

 気持ちは、分からなくもない。リンは今もカカシが好きだし、当たって砕けろなんて無責任なことは言えない。でも、何も言わなければ何も変わらない。そう身勝手に思ったりもするけど、私は曖昧な答えを口にした。

「……難しいね、恋愛って」
「そうだな……でもお前には、幸せになってほしいと思ってる」
「何よ。藪から棒に」

 気恥ずかしさをごまかすように私はおどけた声を出したけど、こちらを見るオビトの目は真剣だった。思わず息を呑む私に、オビトが言ってくる。

「お前は昔から優秀だし、しっかりしてるけど……時々すごく心配になる。忍猫使いになって難しい仕事も任されるようになって、どんどん進んでいくお前が誇らしいけど、本当はすごく繊細なお前だから……俺なんかに心配される筋合いないかもしれないけど、お前には絶対、幸せになってほしいから。だからミナト先生とか、そんな現実味のないこと言ってないで、お前を大事にしてくれるやつと幸せになれよ」

 びっくりした。オビトがそんなに私のことを思ってくれてるなんて、知らなかった。だからこそ胸が震えて、だからこそ、向き合おうと思えた。オビトはきっと、家の事情だって他の人たちよりずっと分かってくれてる。

「オビト……ありがとう。でも私、誰も好きにならないって決めてる。ミナト先生のことは……確かに好きだよ。すごく、憧れてる。でもそれだけ。オビトも知ってるでしょ。私は家の最後の一人。私が子どもを産まなかったら家は消滅する。ばあちゃんも母さんもみんな、決められた人と結婚して、娘を産んで、血を繋いできた。私だってそうする。平和を成すっていう使命を果たせないまま私がこの血を終わらせるわけにいかないから。恋愛なんか、してる場合じゃないの」
……お前」

 愕然と目を見開くオビトに、笑いかける。無理をしてるわけじゃない。忍猫使いとして生きると決めたとき、自然とその覚悟も決まった。

「それが私の覚悟。だからオビト、私がふらふらしないように、見守っててね」

 オビトはうんとは言わなかった。ただ苦しそうに、涙のにじむ目を細めてじっと私を見ていた。ごめんね、オビト。心配してくれてありがとう。

 私がオビトに会ったのは、それが最後だった。


***


 通常、中忍になると三か月ほどは下忍を率いてCやDランクの任務をこなすことから始める。でも疲弊した各国が戦争終結に向けて動きを加速する中、木の葉隠れの里も生き残った忍びたちを多く戦地に投入することとなり、その流れの中でオビトは昇格二か月ほどで戦場に出ることになった。

 もちろん、隊長がミナト先生だからこそ実現した配置だ。木の葉で最も秀でた忍びの一人であるミナト先生の下ならばと、オビトはミナト班の一員として、カカシやリンと共に戦地に赴くことが増えた。

 同じ頃、カカシがついに上忍に昇格した。長く単独プレイが問題視されていたものの、実力は折り紙付きの上、ここ最近は徐々に周囲と連携を取れるようになったというミナト先生からの推薦があったらしい。
 十三歳で上忍か。やっぱりカカシは、私たちとは次元が違うなと思った。

 カカシが上忍になったという話を聞いてから、二週間も経っていない。

 岩隠れ方面の偵察任務を終え、里に帰還して二日目。

 いつもの演習場で千本の修行に明け暮れる私のもとへ、アイが現れて唐突に告げた。

、オビトが死んだにゃ」