プロローグ


「みんな、ご苦労さま。あ、ちょっとネネコ、残ってくれる?」

 戦争が終わって六年。先月、私は二十二歳になった。元チームメイトのミカゲとナオが結婚してから、お前は浮いた話の一つや二つないのかって先輩から聞かれたりするけど、ほっといてほしい。仕事はうまくいっているし、友達も家族も大好きだし、去年生まれた親戚の赤ちゃんはすっごく可愛い。男の人からたまに告白されたりもするけれど、恋愛なんか、無理にしなくていいんだから。

 Bランク任務の報告を終えた私は、仲間たちと火影室をあとにしようとしたところで、ニコニコ上機嫌の火影様に呼び止められた。

 二人が出ていったあと、私は隠しもせずに大きくため息をつく。

「何ですか? 私、急いでるんですけど」
「陽のとこに行くんでしょ? これ、ゲンマに渡してくれる?」

 いつの間にか右手に提げた小さな紙袋を、火影様がこちらに差し出している。やっぱり、と私はまた息を吐く。この一年、火影様に対する私の見方は大きく変わった。

「えーーー自分で行ってくださいよ」
「こう見えても暇じゃないのよ。それに、俺が渡すよりお前のほうが受け取ってもらえるから」
「公私混同しないでください。火影様に問題があるんじゃないんですか?」
「ネネコ……最近、に似てきたな」
「ありがとうございます」

 褒めてないよ、とぼやいたあと、火影様は一転して胡散臭い笑顔でニッコリと笑いかけてきた。

「ね、お願い。陽が可愛くて仕方ないのは俺も同じなんだから」
「公私混同ですってば」

 断るのも面倒になってきたので、私は仕方なく紙袋を受け取った。


***


 私は不知火ネネコ。火の国木の葉隠れの里の中忍だ。父は第四次大戦で亡くなったけど、父は私たち家族にたくさんのものを残してくれた。私は今も父を尊敬しているし、母もよく楽しそうに父の思い出話をする。九歳年下の弟はまだ下忍で、特別上忍である叔父のほうがスゴイと思ってるみたいだけど、まぁ、あいつにもそのうち父の真価というのが分かってくるだろう。

 叔父は戦後しばらく経って、同じく特別上忍の幼なじみと結婚した。父によると、子どもの頃から大好きだった人らしい。相手のことは私も小さい頃から知っているけど、それこそ、最初は叔父の奥さんだと思って接していたくらい、親密に見えた。付き合ってもいないと聞かされたときは、顎が外れそうになった。父も母も、そんな二人を長らく呆れた様子で見ていた。もちろん、私だってそうだ。まぁ、色々あったらしい。

 そんな二人が、三十歳を超えてやっと結ばれた。そんな二人を見てきたから、周りがどんどん結婚していくからって、焦って何かしなくてもいいかなって思うようになったのかもしれない。人の生き方は、それこそ十人十色だ。

 任務でしばらく里を離れたあとは、いつも真っ先に叔父の家を訪ねる。

「あ、サクちゃん。ちゃんいる?」

 塀の上で日向ぼっこしている猫に話しかけると、めんどくさそうに尻尾を振られただけで、返事はなかった。まぁ、これが猫の返事なんだと思うけど。
 ありがとうと伝えて、私は家の門をくぐった。

ちゃん、来たよ〜!」
「ネネコちゃん、いらっしゃい。庭にいるよ」

 玄関前から声をかけると、返事は縁側のほうから聞こえてきた。
 同時に、どこか鼻にかかった子猫のような甲高い泣き声が聞こえてきて、思わず笑みをこぼす。

 駆け足で庭を覗くと、縁側に腰掛けた叔父の奥さんと、その腕に抱っこされて泣きわめく赤ん坊。二人から少し離れたところで丸くなっている、一匹の猫が目に入った。