スプラウト先生のダンブルドアへの控訴により、ハッフルパフのクィディッチ・チーム再編成の許可がおりた。その夜の談話室はまるで試合にでも勝ったかのような大賑わいだった。
「、これ美味しいよ!」
テーブルに散らばったチョコレートを示してエラが告げる。はありがとうと笑んでそのうちの数個を手に取った。
「いやー、それにしても、良かった!
ほんとに良かった! もうプレーできないかと思うと俺は不安で不安で……」
ハースがカボチャジュースを注いだゴブレットを掲げて情けない声をあげる。その傍らのザカリアスは、いつものように友人とチェス盤を挟んでフンと鼻で笑ってみせた。
「俺は絶対許可が出るって思ってたぜ」
「よく言うぜ。のせいにして文句たらたら言ってたくせによ」
いつの間にやらの隣に腰掛けたアレフがザカリアスをからかうような眼差しで見やる。ザカリアスは口を尖らせながら眉根を寄せた。
「うっせーよ。古い話持ち出してくんな」
「はいはい」
軽くあしらってアレフは小さく笑った。
がチョコレートの包みを開けているとき、こちらの耳元に顔を寄せてきたアレフは小声で囁いた。
「ほんとはみんな、お前とまた仲良くするきっかけが掴めなかっただけなんだよ」
は顔を上げて目を瞬かせた。
「え、いきなり何?」
ニヤリと笑って彼はテーブルの上のヌガーをぽいと口腔に放り込んだ。モグモグと口を動かしながら、声量を落とし、続ける。
「だからさ、ほんとはみんな、お前とまた仲良くするきっかけが掴めなかっただけなんだよ。もう誰もお前を狂ってるなんて思っちゃいねえ。現に俺を見ろ。俺がダンブルドアを信じてるなんてみんな知ってるけど、俺はハミられてねえぞ。アーニーだって一緒だ。ただお前は……最初にちょっとな、どーんとデカイのをやらかしちまったからな。それがほんのちょっと、まずかった。そんだけのことだ」
はしばらく黙ってアレフの顔を見つめていたが、やがてフッと笑んで手の中で柔らかくなったチョコを口に入れた。
昨日の晩談話室でのあの騒動があって、今朝起きてみると同室のケイトもエラもほぼ一月ぶりに挨拶してくれた。かなり驚いたがは寝惚け眼を擦りながら、おはようと笑顔で返した。フランシスだけは固く口を閉ざし、いつものように黙って寝室を出て行ったが。談話室に下りても、この数週間は彼女をまるで小石のように扱っていた寮生たちの多くも笑って「おはよう」と言ってきた。
顔を上げ、呟く。
「ザカリアスが教えてくれたんだよ」
ん? とアレフが首を傾げた。は彼を見返して口角を軽くつり上げた。
「時には自分から歩み寄ることも大事だ、って。だから」
それを聞いたアレフはちらりと横目でチェスに興じるザカリアスを見て、ニヤリと笑った。
は先ほど開けたチョコの包みのしわを丁寧に伸ばしながら、寝室でひとり横になっているであろう親友のことを考えた。
(『親友』って呼んでいいのか…今は自信ないけどね)
自嘲気味に独りごちる。
普段は絶対に自分から謝ったりしないザカリアスが、昨日は私に頭を下げてくれた。だから私は、今までずっと私を遠ざけてきたハッフルパフのみんなに声をかけることができたんだ。そしてこうしてまた
みんなと笑い合える日が、やって来た。
今も彼女に心を閉ざし続けているのは、フランシスだけで。
時には自分から歩み寄ることも大切
。
もう一度。
親友と呼びたいあの少女に、近付くことができるだろうか。
FIRST D.A. MEETING
近頃の天候はアンブリッジへの恨みつらみを忘れてしまうほどにひどかった。クィディッチの練習が中止になることもしばしばだ。十月の半ばに『数占い』の授業からベラと一緒に寮に戻る途中、は廊下の向こうから駆けてきたジニーに気付いて足を止めた。
「、ちょっと話があるの!」
ジニーがちらりとベラを見ると、ベラはこちらに顔を向けて「じゃあ先に帰るわね」と言って去っていった。
ベラの姿が階段の下に消えてから、ジニーが辺りを見回し、小声で言った。
「ハリーから伝言よ。場所が見つかったから、最初の会合は今夜八時。八階の『バカのバーナバス』がトロールに棍棒で打たれてる壁掛けの向かい側に来て。他のハッフルパフ生みんなにも伝えてもらえる?」
はうんと頷き、そこでジニーと別れた。急いで談話室に戻る。彼女はハンナとスーザンに会合の時刻と場所を伝え、アレフには他の男子生徒のメンバーにもと頼んでおいた。
七時半を過ぎた頃、七人も固まって動いていれば目立つかもしれないというアレフの懸念で、先にハンナ、スーザン、アーニー、ジャスティンが談話室を出た。それから数分ほど経過して、はアレフ、ザカリアスと揃ってハッフルパフ塔を抜け出した。
俯き加減に歩いているザカリアスを見て、アレフが軽い口調で問いかける。
「後悔してんのか?」
ザカリアスは少しだけ頬を膨らませてアレフを睨んでから、ぶっきらぼうに「してねえよ」と言い捨てた。
ジニーが教えてくれた八階の廊下に着くと、その石壁には見たこともない扉がついていた。
ザカリアスは不審げな顔をしてそのドアをしばらく見つめていたが、アレフが真鍮の取っ手をこちらに引くと、松明に照らし出された広々した部屋が三人を待っていた。
中にはすでにほとんどのメンバーが来ているようだった。先に出たハッフルパフ寮の四人も、床のクッションの上に座っている。
その部屋にはいろいろな物が置かれていた。壁際には木の本棚が並び、一番奥の棚には奇妙な道具が並んでいる。はハッとした。去年、ムーディの研究室にあったものと同じ道具がいくつか置かれている。
「これで全員よ、ハリー」
ホッグズ・ヘッドでみんなが名前を書いた羊皮紙を眺めてハーマイオニーがそう言うと、ハリーが扉に近付いて鍵を閉めた。
「えーと」
少し緊張した様子のハリーが口を開いた。
「ここが練習用に僕たちが見つけた場所です。それで、みんなは、えー……ここでいいと思ったみたいだし」
「素敵だわ!」
チャンが顔を輝かせて叫んだ。他の何人も、そうだそうだと呟き、ザカリアスも満更ではない様子だ。アレフはかなり感心したようだった。
「変だなぁ」
フレッドがしかめっ面で部屋を眺め回した。
「僕たち、一度ここでフィルチから隠れたことがあるぜ。ジョージ、覚えてるか? でもそのときは単なる箒置き場だった」
「おい、ハリー、これは何だ?」
グリフィンドール生が部屋の奥の方で、ムーディの持っていた闇の道具を指差していた。
「闇の検知器だよ。基本的には闇の魔法使いや敵が近付くとそれが示してくれるんだけど、あんまり頼っちゃいけない。道具が騙されることがあるからね」
ハリーはその鏡に背を向け、みんなを見回しながら言った。
「えーと、僕、最初に僕たちがやらなければならないのは何だろうって、ずっと考えていたんだけど、それで
あ……何だい、ハーマイオニー?」
ハーマイオニーの手が挙がっていることに気付いたハリーが言葉を切って彼女に顔を向ける。ハーマイオニーは手を膝の上に下ろすと同時に口を開いた。
「リーダーを選出すべきだと思います」
「ハリーがリーダーよ」
チャンがすかさず答えた。ハーマイオニーを、どうかしているんじゃないの?と言わんばかりの目で見ている。は顔をしかめてチャンを見やった。
ハーマイオニーが怯まず続ける。
「そうよ。でも、ちゃんと投票すべきだと思うの。それで正式になるし、ハリーに権限が与えられるもの。そうでしょう?」
「その通りね」
ハーマイオニーに顔を向けてはさらりとそう告げる。だが決してチャンの方は見なかった。
ハーマイオニーが小さく微笑んで「じゃあ、ハリーがリーダーになるべきだと思う人?」と訊ねると、全員が挙手した。ザカリアスも不承不承だったが黙って手を挙げた。
「えー……うん、ありがとう。それじゃ
なんだよ、ハーマイオニー」
手を挙げたままのハーマイオニーを少しだけ不機嫌そうに見てハリーが言った。ハーマイオニーは生き生きと答えた。
「それと、名前をつけるべきだと思います。そうすればチームの団結精神も揚がるし、一体感が高まると思わない?」
「反アンブリッジ連盟ってつけられない?」
ジョンソンが期待を込めて言った。フレッドがニヤリと笑んで口を開く。
「じゃなきゃ、『魔法省はみんな間抜け』、MMMはどうだ?」
するとハーマイオニーはフレッドをジロリと睨みながら言った。
「私、考えてたんだけど、どっちかっていうと、私たちの目的が誰にも分からないような名前よ。この集会の外でも安全に名前を呼べるように」
「名案だな」
アレフがそう言うと、ハーマイオニーは嬉しそうに笑った。
「防衛協会は?」
チャンが提案した。
「英語の頭文字を取って、DA。それなら、私たちが何を話してるか誰にも分からないでしょう?」
「うん、DAっていうのはいいわね」
ジニーが頷いた。
「でも、ダンブルドア・アーミーの頭文字もDAね。だって魔法省が一番怖いのはダンブルドア軍団でしょう?」
あちこちから、いいぞ、いいぞと呟く声や笑い声があがる。ハーマイオニーが「DAに賛成の人?」と問うと、ほとんど全員が挙手した。もザカリアスも手を挙げる。だがアレフは厳しい顔をして身じろぎひとつしなかった。
「どうしたの、アレフ?」
彼はゆっくりと顔を上げて「……いや、ちょっとな」と言ったきりまた黙り込んだ。
「大多数です。動議は可決!」
そう言ったハーマイオニーは、メンバーリストの羊皮紙を壁にピンで留め、その一番上に大きな字で『ダンブルドア軍団』と書き加えた。ハーマイオニーがクッションに腰を下ろしたとき、ようやくハリーが言った。
「それじゃ、練習しようか。僕が考えたのは、まず最初にやるべきなのは『エクスペリアームス、武器よ去れ』、そう、『武装解除術』だ。かなり基本的な呪文だっていうことは知っている。だけど、本当に役に立つ」
「おいおい、
頼むぜ?」
ザカリアスが腕組みし、呆れたように天井に目を向けた。
「『例のあの人』に対して、『武器よ去れ』が俺たちを守ってくれるとでも思うのか?」
だがハリーの声は落ち着いていた。
「僕が奴にこれを使った。六月に、この呪文が僕の命を救ったんだ」
ゾクッと背筋に悪寒が走ったのが分かる。ザカリアスはポカンと口を開けてハリーを見つめていた。
「だけど、これじゃ君には程度が低すぎるって思うなら、出て行ってくれていい」
ザカリアスも他の誰も、決して立ち上がろうとはしない。ハリーは、オーケーと言って続けた。
「それじゃ、全員ふたりずつ組になって練習しよう」
みんなさっさと立ち上がって、それぞれそばの生徒たちと組になった。ザカリアスは傍らのレイブンクロー生と組んだ。ニースとアイビスも部屋の奥の方で向かい合い、懐から杖を取り出している。落ち着かない気持ちで辺りを見回すと、後ろからアレフがポンと軽く彼女の肩を叩いた。
「おい。何で無視すんだよ。俺がいるだろが、俺が」
「え?」
振り返り、は素っ頓狂な声をあげた。
「なに言ってんの? アレフ、七年だよ? 私は三年! 組めるわけないじゃん」
「そんなの関係ねえよ。いーだろ、やろうぜ」
確かに部屋中を見渡すと、もうみんなペアを作って呪文をかけ合っていた。杖が四方八方に吹っ飛び、当たり損ねた呪文が本棚に当たっていくつもの本が宙を舞う。は諦めてアレフと向かい合った。三大魔法学校対抗試合のホグワーツ代表の呪いの練習に付き合った、七年生と。
懐から素早く杖を取り出したアレフが、その先をこちらに向けて叫んだ。
「エクスペリアームス!」
あっという間に杖はの手から離れ、クルクルと回って天井にぶつかって火花を散らした。それからちょうど本棚の上にカタカタと落ちる。アレフは「アクシオ!」と唱えて杖を回収し、の手に返した。
「次はお前な。交互に練習しようぜ」
は小さく深呼吸し、戻ってきたばかりの杖を構えた。ふと、思い出す。二年前のあの日、ハリー、ロン、ハーマイオニーと、ほぼ同時にスネイプに『武装解除呪文』を使ったっけ。
そうだ。一年生のときにできたんだから、かけられないはずがない。
は目を細めて叫んだ。
「エクスペリアームス!」
途端に、身を引いたアレフの右手から杖が吹き飛んだ。アレフがニヤリと笑んだとき、すぐ後ろから声がした。
「、今の良かったよ」
みんなを見回っているらしいハリーが、ふたりのところにも来ていた。
「じゃあ『呼び寄せ呪文』で杖を回収しようか。、確かアクシオ呪文使えるんだよね?」
「へえ、あれって確か四年の呪文集に載ってるやつだろ?」
アレフが僅かに目を見開いて、ヒューっと口笛を吹いた。
はアレフの杖が飛んでいった方向を見やり、杖先をそちらに向けて「アクシオ!」と唱えた。すると杖がすぐに手の中に飛び込んできた。
「おー、すげえ!」
アレフが素っ頓狂な声をあげた。
「お前って実はできるやつなんだな!」
「
実は?」
眉をピクリと上げて鸚鵡返しに訊ねると、アレフはゲラゲラと笑った。
「そんなに怒るなよ! こんだけ学年が違えばお前の成績なんか知らなくても当然だろ!」
「……まあ、『呪文学』の成績は、
決して良くはありませんが?」
「拗ねるなよ」
ハリーは苦笑しながら「それじゃあふたりとも何度か練習してみて」と告げ、今度はスーザンとハンナのもとへ歩いていった。
と、突然アレフが彼女の真横に移動してきて、耳元で囁いた。
「お前、ポッターとどういう関係?」
「はぁ?」
思い切り、顔をしかめてみせる。
「何でそういう疑問が出てくるの? うん?」
「だってよ」
アレフはニヤニヤしながら杖先で軽くの肩を叩いた。
「お前がアクシオ呪文使えるなんて、俺だって知らねえのに、何で寮も学年も違うポッターが知ってんだ? うん?」
そういえば、何でだろう。
あ、そういえば。一年前の夏、『隠れ穴』にいたときハリーの前でアクシオ呪文を使ったことがあったっけ。
クィディッチ・ワールドカップ後の夏休みは、家の中にいると気が滅入ってしまいそうで。
『闇の印』の影を横顔に映したセドリックを
私は、絶対に放したくなかった……。
あの夜、気が付くとテントのフレッドのベッドに横になっていた。気が動転していた彼女をセドリックが運んできてくれたのだとフレッドとジョージが教えてくれた。
絶対に……放したくないと思ったのに。
もしかしたら。
もう、あの晩すでに彼の運命は決まってしまっていたのだろうか。
まさか。
涙は出なかった。けれど。急に自分の手のひらが脆く思えてきて。は無意識のうちにポロリと杖を取り落とした。
この手のひらは、大切なものを何にも掴めやしなかった。
不安げに表情を歪めたアレフがこちらの顔を覗き込んできたとき、部屋の向こうの方でハリーが強くホイッスルを鳴らした。
「なかなか良かった」
ハリーが小さく苦笑しながら言った。
「でも、間違いなく改善の余地があるね。もう一度やろう」
ハリーがまたみんなの周りを歩き出すと、床に落ちた彼女の杖を拾ってアレフが、大丈夫か、と訊ねてきた。
「あ……うん、ごめん、ボーっとしちゃって」
「いいけどさ。気分でも悪いのか?」
「違うよ、大丈夫。もう一回やろ」
ぎこちなく笑み、は杖を構えてアレフと向き直った。彼が呪文を唱えると、先ほどと同じように彼女の杖はスポッと手から抜けて飛んでいった。アレフが『呼び寄せ呪文』でそれを回収するのをぼんやり眺めながら、胸中で独りごちる。
『憂い』は、あの篩に落としてきたのに。
それなのに、この空虚感は一体何なんだろう。
最近は毎日のように考えている。一年の頃からずっと、嫌いで嫌いでたまらなかったはずのスネイプのことを。大広間に行っても、どうしても教職員テーブルをちらちらと盗み見てしまう自分に気付かざるを得なかった。無論目が合うことなど一度もなかったが。『魔法薬学』の授業中だって、彼が視界に入ったりそばを通り過ぎたりするだけで、試験管を持つ指先が震えた。
あの日、顎に触れられてしまって以来、頭からスネイプのことが離れない。なんて単純なんだとどれだけ自分を叱咤してみたところで、高鳴る胸を抑えることなんてできない。それでも。
セドリックのこともまた、思い出してしまう。落としてきたはずの『憂い』の感情がなくなっても、それでも胸の奥底にセドリックの影がちらつく。とてつもなくもどかしい。もしもあの『憂い』をこの頭の中に戻せば
私は、どうなってしまうんだろう。
アレフに手渡された杖を構えて『武装解除』の呪文を唱えると、また彼の手から杖が吹っ飛んだ。それをアクシオ呪文で回収したところで、二度目のホイッスルが鳴った。
「うん、とっても良かった」
ハリーがみんなを見回して言った。
「でも時間オーバーだ。もうこの辺でやめた方がいい。来週、同じ時間に同じ場所でいいかな?」
「もっと早く!」
グリフィンドール生がうずうずしながら言った。そうだそうだと頷く生徒も多かったが、すかさずジョンソンが叫んだ。
「クィディッチ・シーズンが近いんだ。こっちも練習が必要だよ!」
「それじゃ、今度の水曜だ。練習を増やすならそのとき決めればいい」
ハリーはそう言い、懐から羊皮紙を取り出して何やら唱えた。その中がちらりと見えたが、はそれが二年前のあの日、リーマスの研究室に置かれていた地図だと分かった。どうしてハリーが持っているんだろう。彼はその地図を慎重に見ながら、メンバーを三人から四人の組にして外に出した。
メンバーが段々少なくなっていく中で、アレフがハリーたちの方へと近付いていった。
「ちょっといいか?」
アレフはハーマイオニーに声をかけた。ハーマイオニーは少し驚いたように目を瞬かせたが、ええと頷く。その様子をロンはつまらなさそうな顔で見ていた。ふたりのやり取りは小さかったが、にも聞き取れた。
「チームの名前のことなんだけどな」
アレフは真面目な顔でそう切り出した。
「『ダンブルドア軍団』は、少し危険じゃないか?」
「危険?」
ハーマイオニーが眉をひそめる。アレフは口元に手を当て、考え込むようにして先を続けた。
「君が言ったんだぜ? アンブリッジが、ダンブルドアが私設軍隊に生徒を使おうとしているって考えてるって。もしこの羊皮紙が見つかればアンブリッジは自分の考えが正しかったって思ってダンブルドアをどうにかしちまうだろ」
顔を引き攣らせるハーマイオニーを見て、アレフは慌てて言い直した。
「あ、いや、別に今さら名前を変えようなんて言ってるわけじゃねえぜ? もう決まったしな。ただ、そういう危険性もあるってことを考えて、その羊皮紙の管理をかなり厳重にと思ってさ。ま、」
そこでアレフは口角をつり上げてニヤリと笑んだ。
「君のことだからしっかりと管理してくれるだろうと思うがな」
ハーマイオニーは一瞬頬を赤らめたが、すぐに元気に笑い「もちろん」と答えた。ロンは凄まじい目付きで頬を膨らませながらアレフを睨んでいた。
とうとうハリーたち三人と、アレフ、ザカリアスが残り、たちは獅子寮の三人に別れを告げて(ザカリアスはハリーたちを見もしなかったが)必要の部屋を出た。
ザカリアスはハッフルパフ塔に戻るまで仏頂面でほとんど口をきかなかったが、男子寮へ続く階段と女子寮への階段の前で別れるとき「おやすみ」と言った表情からすると、DAの集まりには何だかんだ言ってこの先も来るだろう。
寝室に入ると、ルームメイトの三人はケイトのベッドに座り込んで何やら必死に書いていた。顔を上げて、お帰り、と言ってきたケイトとエラは、『占い学』の課題だと言って苦笑いした。
「何では『数占い』にしたの?」
トランクを開けてネグリジェを取り出したは振り向き様にエラに言った。
「一年のときにね、トレローニー先生に変な予言されて気分害したから、絶対にとってやるもんかとずっと思ってた」
「もう、何で教えてくれなかったのよ! あのインチキばばあ、わけ分かんないことばっか言ってさ」
苛々した様子で吐き捨てるエラに、ケイトが小さく笑う。
「でも最近はちょっと可哀相よね。アンブリッジのせいでノイローゼ気味だから。知ってる? トレローニー先生、停職になったのよ」
「そうなんだ?」
はあくまで素っ気無く答えた。父親が長くないだのという下らない予言をしてくれた占い師を哀れむつもりなんて毛頭ない。アンブリッジとトレローニー先生が並んで立っているのを目の当たりにすれば少しは可哀相にという気にもなるのかもしれないが。
さっさと着替えたは「おやすみ」と告げて布団に潜り込んだ。フランシスは彼女が戻ってきてから、一度も顔すら上げない。
時には自分から歩み寄ることも大事だって。
分かっては、いるのだけれど。
どうすればいいのか
分からない。
不用意に近付いて、彼女をまた傷付けてしまったら。
それとも。
(……私自身が、傷付くのを怖がってる?)
分からない。何を言えば
どうすれば。
慌てて頭を振ると、は鼻の上まで布団を被ってギュッと固く目を閉じた。