寝室に戻ってきたハーマイオニーは、待ってましたと言わんばかりにベッドから飛び上がったジニーに団員たちから聞いたことを話して聞かせた。は布団を被って狸寝入りを決め込んでいたが、きっと眠っていないことはふたりとも分かっているだろう。かと言って話を聞きたいという強い気持ちがあったわけでもないが。
みんなが寝静まったかどうか確認に上がってきたらしいウィーズリーおばさん(だろうと思う)が階下へ下りていくまでの間は息を押し殺していたが、ハーマイオニーとジニーはすぐにまた熱っぽく話し始めた。
「ファッジはダンブルドアが自分の失脚を企んでいると思っているの」
「え! まさか、そんなこと」
はふたりのヒソヒソ声を聞きながら、厨房での先ほどの会話を思い返していた。
(息子も同然です。他に誰がいるっていうの?)
(わたしがいる!)
ブラックはみんなの前で
わたしの前で堂々と、ハリーには自分がいると言ってのけた。
実の娘には自分が父親だなどと一度も口にしたことがないくせに。
話もしようとしないくせに。
が眠りについたのは、ハーマイオニーとジニーのお喋りが一段落して数十分ほど経ってからだった。翌日、朝食のあとには客間のドクシーを大量に駆除することになったが、今のにとってはこの世のあらゆることがさほど意味のないことに思えた。途中で軽く部屋に顔を出したブラックはこれまで以上にはっきりと彼女の目を避け、階下の母親の肖像がまた喚き出すと嵐のように客間を去っていった。
昼過ぎにみんなで一休みしているときには、客間にクリーチャーが現れていつものお決まりの悪態をつき始めた。は顔をしかめ、一歩前に進み出て乱暴な口調で告げた。
「黙って出て行け、このクソじじい」
後ろでハーマイオニーが憤慨したような音を出すのが聞こえたが(彼女は屋敷しもべ妖精の権利を獲得しようとかいう『反吐』という活動を去年から実施しているらしい)、クリーチャーはの前で馬鹿丁寧に頭を下げて豚の鼻を床に押し付けた。
「お嬢様の仰せのままにいたします」
そう言いつつもクリーチャーはのろのろと足を引きずるようにして、彼女の傍らを通り過ぎるときにありったけの嫌悪感を込めてを見た。そして部屋を出るまでぶつぶつ言い続けた。
「あのアズカバン帰りの、恩知らずの卑劣漢の汚らしい娘がクリーチャーに命令する。奥様が自分の息子ではないと仰せられたあの男が今さら娘などを連れて戻ってきた。ああ、奥様の守ってこられたこのお屋敷が汚されていく」
「さっさと出て行け!!」
扉を開けてからも、立ち止まり、しばらく小声で罵り続けていたクリーチャーの背を踊り場に蹴り飛ばしてが素早くドアを閉めると、カンカンになったハーマイオニーが拳を握って怒鳴った。
「! ひどすぎるわよ、しもべ妖精にだってちゃんと権利というものがあって然るべきなのよ!?」
「へえ、あんなひどい罵声を浴びせられても黙ってろって言うの!?」
眉根を寄せて言い返すと、ロンが熱っぽく言った。
「そうだぜハーマイオニー! 穢れた血なんて呼ばれてアイツを擁護することなんかないだろう!」
「だから、クリーチャーは少し……正気じゃないんだったら」
そう言いつつも、ハーマイオニーは若干しどろもどろだった。
「でもクリーチャー、わたしたちの中ではの言うことだけはちゃんと聞くわよね」
不思議そうな顔をして口を開くジニーに向けて、さも当然のようにハーマイオニーが答えた。
「そりゃそうでしょう。だってはシリウスの
」
突然ハッとして彼女が口を噤んだとき、杖の先にサンドイッチとケーキを山盛りにした大きな盆を載せたウィーズリーおばさんが戻ってきた。
WHAT'S HAPPINESS?
はようやく、この屋敷に来て良かったかもしれないと思い始めていた。屋敷の掃除で慌しく、次第に意識からセドリックのことが離れる時間が増えていったのだ。だが同時に、もしこのまま彼のことを忘れてしまったらと思うとひどく恐ろしくもなった。
ハリーがやって来て数日後の夕食のとき、ウィーズリーおばさんが低い声で彼の方を向いて言った。
「ハリー、明日の朝のために、あなたの一番良い服にアイロンをかけておきましたよ。今夜は髪を洗ってちょうだいね。第一印象がいいとずいぶん違うものよ」
たちは一斉に話をやめてハリーを見やった。彼は目の前の肉料理を震える手で口に運び、それを飲み下すより前に装いきれていない平静さを伴って口を開いた。
「ど、どうやって行くんですか?」
「アーサーが仕事に行く時に連れて行くわ」
優しくおばさんが答えてから、ウィーズリーおじさんがハリーに顔を向けて励ますように微笑んだ。
「尋問の時間まで、わたしの部屋で待つといい」
やっと口の中の物を飲み込んだらしいハリーがソワソワしながらブラックの方を向いたが、彼が口を開こうとするとそれを遮るようにおばさんが若干強い口調で言った。
「ダンブルドア先生は、シリウスがあなたと一緒に行くのは良くないとお考えですよ。それに、わたしも
」
「ダンブルドアが『正しいと思いますよ』」
ブラックが席に着いたまま、食いしばった歯の間から声を絞り出す。おばさんは唇をきゅっと引き結んだ。
「ダンブルドアはいつそう言ったの?」
怪訝そうな顔をしたハリーに、おじさんが告げた。
「昨夜、君が寝ているときにお見えになった」
はそちらから目を逸らして手元のポテトをフォークで突いた。他の団員たちは屋敷で何度も見かけたが(知らない団員もいるかもしれないが)、ダンブルドアは彼女が初めてここにやって来た晩以来見たことがなかった。もしかすると夜中に何度か来ているのかもしれない。
翌朝、早いうちにハリーは尋問のためにウィーズリーおじさんと魔法省へ出かけていった。大人たちは、ハリーは何ら法を犯してはいないので心配は要らないと言っていたが、やはりたちは尋問という響きにかなり不安を覚えていた。故におじさんとハリーが戻ってきて「無罪放免だ」と言うと、みんな諸手を挙げて喜んだ。
けれど、ハリーがホグワーツに戻ることを心底喜んではいない人間がいることにはすぐに気が付いた。シリウス・ブラックだ。彼女はハリーがブラックに、もし退学になったらここに戻ってきておじさんと暮らしてもいいかと訊ねているのをたまたま耳にしてしまった。ブラックは小さく「考えてみよう」と言っただけだったが。
ブラックはどこまでも子供っぽい。すぐに感情を剥き出しにするし、いじけやすい。は彼を見る度に奇妙な嫌悪感に襲われるようになった。母さんは一体あの男のどこに惚れたというのだろうか。
そして夏休み最後の日、ようやくみんなのもとに教科書リストが送られてきた。今年からは新しい選択科目が始まるし、ホグズミードの許可書が同封されている。あとでサインをもらわないと。
はふと顔を上げた。ご両親もしくは保護者。わたしは誰にサインをもらえばいいんだろう。
寝室のベッドの上で、彼女は小さく苦笑した。決まっている、リーマスじゃないか。何を馬鹿なことを考えているんだろう。
教科書リストを持って階下へ下りようとジニーが立ち上がったとき、ハーマイオニーが奇声をあげベッドの上で飛び上がった。
「ハ、ハーマイオニー、どうしたの?」
「わ、わたし! やったわ!」
ハーマイオニーは頬を紅潮させ、封筒から取り出した何やら小さなものを掲げてみせた。それを覗き込んだジニーがパッと顔を輝かせる。
「ハーマイオニー、監督生になったのね! あなたしかいないって思ってた、おめでとう!」
もそちらに飛んでいって彼女の手の中のバッジを見つめた。グリフィンドールのシンボルであるライオンの上に、大きく『P』と書かれている。シンボルは違うがこれにとてもよく似たバッジが彼の胸元で輝いていたのを思い出し、は一瞬息が詰まりそうになったが、ようやくニッコリ微笑んだ。
「すごい、ハーマイオニー! おめでとう!」
「ありがとう!」
ハーマイオニーは興奮しながらベッドから立ち上がった。
「ねえ、もうひとりの監督生ってハリーだと思う?」
「そうね、きっとハリーだわ」
ジニーも上機嫌で答える。するとハーマイオニーは「ハリーのところに行ってくるわね!」と封筒を掴んだまま寝室を飛び出していった。
「、封筒貸して。ママに渡してくるから」
ありがとう、とがリストを手渡すと、ジニーはそのままハーマイオニーに続いて部屋を出て行った。はベッドに倒れ込み、ハッフルパフの監督生が誰になったのかをぼんやりと考える。
二年前。バッジを受け取った彼はきっと、照れ臭そうにしながらもすごく喜んだんだろうな。お父さんはいつものように豪快に笑って
「セド! お前しかいないと思ってたぞ!」。
途端に喉の奥から涙が込み上げてきて、は両手で顔を覆った。彼の胸元ではいつも、『P』の文字を頂いたアナグマが輝いていた。
わたしも二年後には。彼と同じあのバッジを胸に。
そんなことを考えている自分に気付き、は自嘲気味に小さく笑った。
ハーマイオニーやジニーの予想は物の見事に外れ、グリフィンドールのもうひとりの新監督生はロンだった。これにはグリモールド・プレイス十二番地を訪れた人々も少なからず驚いていたようだったが(ハリーだと予測した魔法使いが多かった)、ふたりの新監督生祝いを兼ねた夕食の席では誰もが朗らかだった。ご馳走がぎっしり並んだテーブルの上には、ウィーズリーおばさんが掲げた真紅の横断幕がある。『おめでとう ロン、ハーマイオニー 新しい監督生』。
厨房にいたのはおばさんの他にリーマス、トンクス、キングズリーにブラックで、少し遅れてムーディ、それにウィーズリーおじさんやビル、マンダンガスもやって来た。
「さて、そろそろ乾杯しようか」
みんなが飲み物を持ったところでおじさんが切り出す。彼はゴブレットを掲げて微笑みながら言った。
「新しいグリフィンドール監督生、ロンとハーマイオニーに」
ロンとハーマイオニーがニッコリした。みんなが杯を上げて大きな拍手を送った。
は父にホグズミードのサインのことを頼みに行こうと顔を上げたが、リーマスはブラックと一緒だったので断念した。寝る前に行こう。彼女は代わりにおばさんとビルの髪型口論を聞きながらポテトを突いていた。
「ねえ、あなたはとってもハンサムなのよ? 短い髪の方がずっと素敵に見えるわ」
「俺は長髪の方が似合うってフラーも言ってくれてるぜ? なあ、もそう思うだろ?」
「そうかなぁ。短くてさっぱりしてる方がカッコいいかもしれないよ?」
「えっ、そ、そうか?!」
明らかに衝撃を受けた顔をするビルに、は声をあげて笑った。
お腹もかなり膨れてが隅の方でバタービールの入ったゴブレットを手に取ったとき、突然背後からポンと肩を叩かれて彼女は飛び上がった。振り向くと、そこにはニッコリと屈託のない明るい笑みを浮かべたトンクスが立っている。その手には何やら小さな紙が握られていた。
「、お腹いっぱい食べた?」
「あ、うん」
頷くと、彼女は、そっか、と満足そうに言って手中の紙をこちらに見えるように持ち直した。それは古いボロボロの写真だった。
「さっきムーディから引っ手繰ってきたの。が面白がるんじゃないかと思って」
はゴブレットをテーブルに下ろしてその写真を手に取った。小さな集団がこちらを見つめ返している。何人かは手を振り、また何人かは乾杯した。
「騎士団創立メンバーですって。もちろんわたしはいないんだけど」
写真を覗き込んでいる間に、中の人々は大騒ぎしてあっちへこっちへ走り回っている集団もあった。けれどみんな、とても嬉しそうで。
の目を一番に引いたのは、前の方に映っている青年ふたりだった。すぐに分かった。これは。
「やっぱり分かった? これが、シリウスよ」
驚いた。これほど自分に似ているとは。
二年前、初めて本当の父親と叫びの屋敷で対面したときもひどく仰天したのを覚えている。それなのに、今こうして写真の中で手を振っている青年はまるで現在の自分の生き写しのような。そして彼の隣で髪の毛をくしゃくしゃにしている眼鏡の青年も見覚えがある。いや、知っている青年に、とてもよく似ている。
「そう、それでこれが、ハリーのお父さん。その隣が、ハリーのお母さん」
とすれば。
は目線を、若き日のシリウス・ブラックの隣に移した。もしかして、これが。
トンクスはその黒髪の女性を指し示して言った。
「これがあなたのお母さん、よ」
は食い入るように母の姿を見つめた。生まれて初めて見た、母の顔。よく見ると、その黒い瞳だけは確かに自分の目だ。二年前のスネイプの言葉が蘇る。
(母親譲りのその生意気な黒い目以外は、君は本当に不気味なほどあの男にそっくりだな)
小さく息をついたトンクスが、どこか悲しそうに呟いた。
「……その様子じゃ、の写真見たことないんだね」
答えずに、黙って写真の中の両親を見つめる。ふたりの傍らにはリーマスの姿もあった。
「まあ、仕方ないか。の写真なんてシリウスと一緒に写ってるのしかなかったろうしね。リーマスが見せるはずもないか」
トンクスはが飲むつもりだったバタービールを遠慮なしにグイグイ飲んでから、そっと彼女の耳元で囁いた。
「あなたがシリウスを許せないのも分かる。わたしだってを放って飛び出したアイツを許すつもりなんかない」
僅かに目を細める。トンクスは小声で続けた。
「でも、今度ノースウェストに帰ったら、リーマスに頼んでたちの写真見せてもらいなさい。はアイツといて、幸せだったのよ。だから、あなたの代わりにわたしがシリウスを許さないでいるから、だからね」
トンクスはゴブレットをテーブルに置き、の前に回り込んで言った。
「あなたは、シリウスと幸せになったっていいと思う」
は目を瞬かせて顔を上げた。トンクスは少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。
「シリウスは不器用なだけなのよ。ほんとはあなたとやり直したいって思ってる。だからあなたがシリウスと幸せになりたいなら、きっと、絶対になれる。だってあなたたちがお互いを遠ざけ合ってるなんて知ったら絶対に悲しむわ」
何も言えないでいるの頭を軽く撫で、トンクスは彼女の手から写真を取ってみんなのところへと戻っていった。もう宴も終焉に差しかかっているようで、厨房はだいぶ静かになってはいたが、誰も先ほどのこちらのやり取りには気付いていないようだった。
子供たちみんなに寝るようにとおじさんが告げたあと、どこへ行っていたのか厨房に戻ってきたリーマスがゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。彼と一緒に戻ってきたブラックはテーブルの片付けを手伝っている。
「、ホグワーツに戻る前に少し話をしないかい?」
は驚いてしばらくの間彼の顔を見返していただけだったが、やがて小さく、うん、と頷いた。
彼女はリーマスについて厨房を出て、玄関ホールの奥の小部屋に入った。先月ドクシーを駆除したり黴を取ったりでだいぶましになった部屋のうちのひとつだ。
父と一緒に傍らの椅子に腰かけると、はアッと声をあげて言った。
「リーマス、あとでホグズミードの許可書にサインしてもらえる?」
もちろん、と言って彼は穏やかに笑う。だがリーマスはすぐに、微笑みながらもどこか真剣な眼差しをもって口を開いた。
「、以前アップルガースのことを訊いてきたね」
は無意識のうちに膝の上で拳を握り締めていた。
「……うん。玄関でスネイプ先生がアップルガースっていう人と一緒にいるのを見て」
彼は慎重に言葉を選んでいるようだったが、ゆっくりと顔を上げて言った。
「それで君は、フランシスのお父さんじゃないかと、そう言うつもりだったんだね?」
「……うん」
リーマスは微かに笑んで頷いた。
「そうだよ。彼はフランシスの父親だ。けれど、騎士団のことは一切フランシスに話すんじゃないよ」
「え、何で?」
が素っ頓狂な声をあげる。だがリーマスは静かに続けた。
「、団員のすべての家族が我々の活動に理解があるわけではない」
彼はため息混じりに言った。
「君も騎士団のことは誰かから聞いただろうと思うが、非常に危険を伴う。だからこそ卒業した成人の魔法使いだけで構成されているんだ。前回と比べれば我々の準備はかなり整っている。だがヴォルデモートと対立するのだと聞くだけで震え上がる人々は多い」
父はそこで一旦言葉を切った。
「バーナードの
ああ、フランシスのお父さんの名前だが
彼の夫人はマグルだ。だがバーナードのご両親がヴォルデモートとの戦いで命を落としたと知っているから……前回はバーナードのご両親も騎士団のメンバーだったんだ。だから彼女は彼が騎士団に参加するのを、強く反対している。彼は今、家族の反対を押し切って騎士団のために働いているんだよ」
「……フランシーのおじいさんとおばあさんが、『あの人』と戦って……?」
呆然と呟く彼女に、リーマスは諭すような口調で告げた。
「、君は奴の名を聞いても動転しないのだから、奴のことはヴォルデモートと呼びなさい」
小さく頷くと、彼は「いい子だ」と小さく笑んだ。
「彼のご両親は勇敢に戦った。だが死の呪いを受ければ
助かる道は、ない」
そのとき彼女はハッと思い出した。去年のムーディの一回目の授業のあと、フランシスはひどく気分が悪そうだった。あの日みんなの目の前で、ムーディは禁じられた呪文を実践してみせた。その日、彼女は涙を流しながら眠っていた。
「……わたし、何にも知らなくて」
知らず知らずのうちに涙を流す彼女を前に、リーマスは立ち上がり、椅子に腰かけたままの彼女を優しく抱き締めた。は父の身体に思い切りしがみつき、声をあげて泣いた。
「だから、、お父さんが騎士団にいるからと言って無闇にフランシスの前で騎士団の話をするんじゃないよ。彼女を傷つけてしまうかもしれないからね」
「うん……分かった」
彼女が泣き止むまで、彼は黙って抱き締めていてくれた。ようやく涙を拭って顔を上げると、リーマスは少しだけ渋い顔をして口を開いた。
「それからもうひとつ、話しておきたいことがあるんだが」
目をぱちくりさせると、彼は言いにくそうに顔を歪めながらゆっくり言った。
「君はシリウスをどう思ってるんだい?」
は反射的に父の身体から手を放した。そして警戒するようにじりじりと視線を上げる。彼は困ったように笑いながらも、その眼差しだけは真剣だった。
「ど、どうって」
「ここに来てからずっと見ていたけど」
リーマスはもう一度先ほどの椅子に腰かけた。
「君は彼のことを遠ざけているように見えたのでね。もちろん、わたしだけではない、彼を許せないという気持ちが君にあるだろうということは分かっているつもりだ。だが実際のところ、君はこれから彼とどうしたいのかと思ってね」
は目線を下ろしてしばし口ごもったが、やがて顔を上げ、尻すぼみに答えた。
「……分かんない」
彼は僅かに眉を上げた。
「どうしたいのか、自分でもよく分からない。もちろん、リーマスとはこれからもずっと一緒にいたいって思うけど……あの人は何にも言ってこないから……どうしていいのか、自分がどうしたいのか……よく、分かんない」
彼は小さく、そうか、と言って微笑んだだけだった。
「わたしは、君が望むならずっと君のそばにいるよ」
部屋を出るとき、リーマスが後ろからそっと囁いた。