ベッドを運び、はハーマイオニーとジニーの部屋に移ることになった。ハーマイオニーは「シリウスとのことは気にしないでいいわよ」と言ったし、他のみんなも彼女とシリウスの関係については一切触れなかった。
騎士団のメンバーは想像よりもずいぶん多く、彼らは入れ替わり立ち替わりこの屋敷に来ては去っていった。
「何で僕たちは入れてもらえないのさ!」
地下への石の階段をひとりで下りていったは、厨房の入り口でフレッドとジョージが声を荒げているのを見た。ふたりと向かい合ったウィーズリー夫人が不機嫌そうに告げる。
「何度も言わせるんじゃありません! 会議は騎士団のメンバーだけの
」
「何で僕らは入れないの!?」
「あなたたちはまだ子供だからよ!」
「僕たちもう大人だ!!」
「そんなことを言っている間は当分大人にはなれないようね。あら、」
こちらに気付いたおばさんが顔を上げ、目を瞬かせた。
「、どうしかしたの?」
「あー……その」
彼女はゆっくりと三人のもとに歩み寄りながら口を開いた。
「隣の部屋で何か変な音がするので……少し、気になって」
するとおばさんはしかめっ面を愛想のいい笑顔に変え、早口に言った。
「ええ、分かったわ、あとで見に行くわね。今からすぐ会議が始まるから、三人とも自分たちの部屋に戻りなさい」
「ママ! 僕たちもう子供じゃない!!」
喚き散らすフレッドを睨み付けたおばさんは「しつこいわよ!」と叫ぶと、彼らの鼻先でぴしゃりと厨房のドアを閉めてしまった。憤慨しているふたりを何とか宥め、一緒に玄関ホールを突っ切って階段を上る。寝室の前で彼らと別れるとき、ジョージがポツリと言った。
「……このまま引き下がれるもんか」
振り返ると、ふたりは顔を見合わせて悪戯っぽく笑んでみせた。
He's NOT your son
「『伸び耳』?」
眉をひそめる彼女に、ふたりは「そう」と誇らしげに笑った。彼らの手には薄橙色の紐が握られている。
、ハーマイオニー、ジニーがロンの寝室で寛いでいるところに、パシッと音を立ててフレッドとジョージが現れた。彼らは騎士団の会議を盗聴する素晴らしい道具を発明したのだという。
紐の端を軽く掲げながら、フレッドが説明した。
「こいつが下の厨房までこっそり伸びていって、こっち側から会議の内容がすべて聞こえてくるってわけさ」
「うまくいくかしら?」
疑わしいと言わんばかりにハーマイオニーが唸った。ジョージが、心外だ、と大袈裟に目を見開く。
「さっきこの部屋で実験した。、君が六歳のときに海で大タコに何をされたか
僕の口から言おうか?」
「……ううん、あんまり嬉しい話じゃないからもういいよ」
げんなりして呟くと、フレッドとジョージは顔を見合わせてニヤリと笑った。
『伸び耳』の効果は上々だった。分かったことと言えば、騎士団が面の割れている『死喰い人』を追跡して様子を探っているということ。騎士団への勧誘活動も行っていること。そして、誰かの護衛をしているということ。
会議終了間際に慌ててフレッドが『伸び耳』を回収すると、しばらくしてギシギシと階段を上がってくる音がした。そしてロンの寝室のドアが音を立てて開く。ウィーズリーおばさんは中にいるメンバーを見て、一瞬きょとんとしながら言った。
「あら、みんなここにいたの? もうじき夕食ですからみんな下りてきて手伝ってちょうだい」
「はーい」
何事もなかったかのように愛想よく答えるジニーを見て、おばさんはそのまま部屋を出て行った。
「ジニーのお陰でずいぶん助かってる」
みんなで揃って厨房へと下りていく途中、ジョージがにそっと耳打ちした。
「何で?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、今度はフレッドがニヤッと笑う。
「僕らは楽しいことを楽しむことだけを覚えた。だが
あの子を見ろ。ちゃんとうまく取り繕うことまで覚えてる」
「頭が上がらないぜ」
こちらの会話には気付きもせずハーマイオニーとお喋りしながら階段を下りていくジニーを見て、は苦笑した。
玄関ホールから厨房へと続く石の階段を下りているとき、ちょうど見慣れた黒髪の男と鉢合わせした。あちらはたちを冷えた眼差しでちらりと一瞥すると、すぐに目線を外し、何も言わずに階段を上がっていった。
「けっ。嫌な野郎」
顔をしかめてフレッドがぼやく。は慌てて言った。
「ねえ、スネイプの任務のこと、何か聞けたんじゃない?」
すると物憂げにかぶりを振ってジョージが口を開いた。
「いや、『伸び耳』を忍び込ませたときにはもうアイツの報告は終わってたみたいで」
「惜しかった」
フレッドが心底悔しそうに吐き捨てる。たちが厨房に入ると、キッチンからウィーズリーおばさんが言った。
「みんな、手伝って」
リーマスがよく屋敷を留守にすることにはすぐ気付いた。他の団員たちも任務や仕事で行ったり来たりだ。屋敷にいつも残っている大人と言えばウィーズリーおばさんとブラックくらいだった。ハリーはダンブルドアの意向でまだしばらくは親戚のマグルの家にいるという。
ブラックは何も言ってはこなかった。それどころか彼女をできる限り避けようとしているのがバレバレだ。は心底どうすればいいのか分からなかった。
そうこうしているうちに一月が過ぎ、八月に入ったとある晩、遂にハリーが何人もの護衛に付き添われて屋敷にやって来た。彼はこの一ヶ月魔法界のことを何も知らされず放置されたことにひどく腹を立てており、はハリーたちが口論しているロンの寝室の前を素通りしてひとり階下へと下りていった。は彼がそこまで何に立腹しているのか理解し兼ねた。わたしなら、一月くらいは魔法界から完全に切り離されていたかった。
シャツの下から首に下がった小笛を取り出して、軽く吹き口に息を流し込む。それは音にもならずに空しく笛の中を通り抜けていっただけだった。
『例のあの人』が戻ってきたのだという実感に包まれて生活してきたこの一ヶ月は地獄のようだった。『あの人』が復活したということよりは
そのことによって、彼が命を落としたのだという事実を。何度も何度も目の前に突きつけられるようで。おまけに同じ屋敷に実の父親であるブラックがいる。激しい痛みと困惑とを同時に強く押し付けられて、今にも破裂してしまいそうだった。
すべて、『例のあの人』がいなければ。何もかも、すべて『あの人』が。
しもべ妖精の首がずらりと並ぶ壁の手前まで来たところで、彼女は玄関の方から聞こえてくるヒソヒソ声に気付いた。
「……ああ、分かっている」
スネイプだ。は足を止めて神経を尖らせた。先日双子がウィーズリーおばさんに取り上げられてしまった『伸び耳』を用いても聞き出せなかった彼の任務の話が聞けるかもしれない(『伸び耳』の予備はまだあるのだが)。もうひとりはかなり急いで来たのか、ひどく息切れしているようだった。
「そうか、それは良かった、セブルス。助かるよ。それで、先週頼んでいた件なんだが、塩梅はどうだ?」
「アップルガース、我輩も善処しているが
」
スネイプは突然そこで言葉を切った。「どうしたんだ?」と怪訝そうな声をあげる相手を無視し、彼はゆっくりと猫撫で声を出す。
「立ち聞きとは無作法ですな、ルーピン。父親に礼儀というものを教わらなかったのかね?」
はギョッとして身を強張らせたが、ブラックの母親の肖像を起こさないようにと静かに玄関ホールまで進み、冷ややかな眼差しのスネイプを見た。彼と話していたのは初めて見る魔法使いで、スネイプより若干若いくらいだった。けれどその鼻筋や瞳はどこかで見たことがある気がする。
「す、すみませんでした」
彼女はスネイプと、そして唖然とした表情でこちらを見つめている魔法使いの双方に頭を下げて、慌てて地下への階段を駆け下りた。厨房からはちょうどウィーズリーおばさんが顔を出したところだった。
「あら、、ちょうど良かったわ。これから夕食にしますよ。みんなを呼んできてもらえる?」
「あ……はい」
が玄関ホールに戻ったときには、すでに先ほどのふたりの姿はなかった。
ロンの寝室に上がった頃にはハリーの剣幕は治まっていた。みんなを連れて厨房に戻ると、ここ最近にしてはかなり多くの団員が残っていた。ウィーズリーおじさんやビルがハリーに声をかけている間に、はさり気なくリーマスのそばに歩み寄った。
「ねえ、リーマス」
彼は顔を上げて少しだけ驚いた顔をした。
「やあ、。どうかしたかい?」
「ねえ、さっきアップルガースって人が来てた?」
リーマスはしばし目を瞬かせてから、ああ、と納得したように頷いた。
「ああ、団員のひとりだよ」
「ひょっとして……フランシーの?」
眉をひそめて訊ねると、彼はそっと彼女の背に手を添えて柔らかく笑んだ。
「話はあとにしよう。モリーの手伝いをしておいで」
は顔をしかめたが、おとなしく父の言うことに従った。大まかに人数を数えて食器棚から皿を取り出し、テーブルに運ぶ。フレッドとジョージはシチューの大鍋、バタービールの鉄製広口ジャー、木製のパン切り板ナイフ付きを一気にテーブルめがけて飛ばしてみせ、今日もまたおばさんにこっぴどく叱られていた。その際うっかりパーシーのことを引き合いに出してしまったおばさんは途端に言葉を切って、急に無表情になったおじさんの顔色を恐々と窺っていた。
席に着くときにリーマスがわざと自分から離れた場所を選んだことには気付いたが、彼女は何も言わずに静かにジニーとフレッドの間に腰かけ、シチューを口に運んだ。双子やロンはマンダンガスの商売の話に大笑いだったが、とても笑う気になれず黙ってスプーンだけを動かす。テーブルの向こうのブラックは、時折ハリーには話しかけているようだった。
がごちそうさまでした、と手を合わせてあまり間を置かないうちに、ウィーズリーおばさんが欠伸しながら言った。
「もうお休みの時間ね」
すると「いや、モリー、まだだ」、空になった自分の皿を押し退けてハリーの方を向きながら、ブラックがもったいぶったように口を開いた。
「君には驚いたよ、ハリー。ここに着いたとき、君は真っ先にヴォルデモートのことを聞くだろうと思っていたんだが」
は口をつけていたゴブレットの中にバタービールを噴き出した。一瞬にして部屋の雰囲気がサーっと変わった。誰もが警戒し、張り詰めた表情をしている。リーマスは緊張した面持ちでワインの入ったゴブレットを静かにテーブルに置いた。
「聞いたよ!」
ハリーが途端に憤慨した。
「ロンとハーマイオニーに聞いたよ! でもふたりが言ったんだ、僕らは騎士団に入れてもらえない。だから
」
「ふたりの言う通りよ」
ウィーズリーおばさんが厳しい顔で口を挟んだ。おばさんは背筋をぴんと伸ばして椅子に腰かけており、眠気などもはや欠片も残っていないようだった。
「あなたたちはまだ若すぎるわ」
「騎士団に入っていなければ質問してはいけないと、いつからそう決まったんだ」
ブラックが怒気のこもった声で言った。
「ハリーはあのマグルの家に一ヶ月も閉じ込められていたんだ。何が起こったのかを知る権利がある」
「ちょっと待てよ!」
ジョージが拳でテーブルを叩きつけながら叫んだ。フレッドが続ける。
「何でハリーだけが質問に答えてもらえるんだ!」
「僕らだってこの一ヶ月、みんなから聞きだそうとしてきた! なのに誰も何ひとつ教えてくれなかったじゃないか!」
「『あなたたちはまだ若すぎます。騎士団には入っていません』」
「ハリーはまだ成人にもなってないんだぜ!?」
「騎士団が何をしているのか君たちが教えてもらえなかったのは、わたしの責任じゃない」
ブラックが静かに言った。
「それは君たちのご両親が決めたことだ。だがハリーの方は……」
「ハリーにとって何がいいのかを決めるのは、
あなたじゃないわ!!」
ウィーズリーおばさんがひどく険しい顔で叫んだ。フレッドとジョージを叱り付けているときの何倍も凄まじい。こんなに強く何かを訴えているブラックを見るのもは初めてだった。
『ハリーの方は』。ブラックは、一体何を言うつもりだったんだろう。
「ダンブルドアが仰ったことを、よもやお忘れじゃないでしょうね?」
「どのお言葉でしょうね?」
ブラックは礼儀正しい口調だったが、その顔にはひねくれた子供のような色が浮かんでいるように思えた。
「ハリーが知る必要があること以外は話してはならない、と仰った言葉です!」
「わたしはハリーが知る必要があること以外は、この子に話してやるつもりはないよ、モリー」
あくまでも静かに、しかし強くブラックは言った。
「しかし、ハリーがヴォルデモートの復活を目撃した者である以上(その名がまたしてもテーブル中を一斉に身震いさせた。はリーマスが『例のあの人』の名を以前から口にしていたので、そのこと自体に戦慄は感じなかったが)、ハリーは大方の人間以上に
」
「この子は騎士団のメンバーではありません!!」
拳を握り、振りかざして、ウィーズリーおばさんが叫んだ。
「この子はまだ十五歳です! それに
」
「それに、ハリーは騎士団の大多数のメンバーに匹敵するほどの、いや、何人かを凌ぐほどのことをやり遂げてきた」
「誰も、この子がやり遂げたことを否定しやしません!!」
おばさんの声が高くなり、拳が椅子の肘掛けで震えていた。
「でも、この子はまだ
」
「ハリーは子供じゃない!!」
眉根を寄せ、苛々した口調でとうとうブラックが怒鳴りつける。おばさんは怒りのせいか頬が幾分も紅潮していた。
「大人でもありません! シリウス、
この子はジェームズじゃないのよ!!」
ジェームズ。は顔を上げてリーマスを見た。彼は押し黙り、真剣な面持ちでブラックを見つめていたが、その名がおばさんの口から飛び出したときには少なからず眉を上下させた。
ブラックは冷ややかな眼差しでおばさんを見据えた。
「お言葉だがモリー、わたしはこの子が誰かはっきり分かっているつもりだが?」
「わたしにはとても、そうは思えないわ! 時々あなたがハリーのことを話すとき、まるで親友が戻ってきたかのような口ぶりだったわ!!」
「それのどこが悪いの?」
ハリーが眉をひそめ、口を開く。ウィーズリーおばさんは抉るような目でブラックを睨みながら言った。
「どこが悪いかと言うとね、ハリー、あなたはお父さんとは違うからですよ! どんなにお父さんにそっくりでも!!」
ハリーが目を瞬かせるのをは見た。
「あなたはまだ学生です。あなたに責任を持つべき大人が、それを忘れてはいけないわ!」
「それはわたしが無責任な名付け親だという意味ですかね?」
ブラックは声を荒げて問い質した。
「あなたは向こう見ずな行動を取ることもあるということですよ、シリウス。だからダンブルドアがあなたに、家の中にいるようにと何度も仰るんです。それに
」
「ダンブルドアがわたしに指図することは、よろしければこの際別にしておいてもらいましょう!」
一際声を大にするブラックを睨み付け、おばさんは歯痒そうにウィーズリーおじさんを振り返った。
「アーサー、何とか言って下さいな!」
おじさんはすぐには答えなかった。眼鏡を外し、妻の方を見ずにローブでゆっくりとそれを拭く。そしてその眼鏡を慎重に鼻に載せ直してから、ようやくおじさんは口を開いた。
「モリー、ダンブルドアは立場が変化したことをご存知だ。今ハリーは本部にいるわけだし、ある程度は情報を与えるべきだと認めていらっしゃる」
「ええ、そうですわ。でもそれと、ハリーに何でも好きなことを聞くようにと促すのとは全然別です!」
「わたし個人としては」
ブラックから視線を離したリーマスが静かに言った。そちらに向き直ったおばさんは、明らかに味方ができそうだと期待しているようだった。
「ハリーは事実を知っておいた方が良いと思うね。もちろん、何もかもというわけじゃないよ、モリー。でも全体的な状況をわたしたちから話した方が良いと思う。歪曲された話を、誰か……
他の者から、聞かされるよりは」
リーマスの表情は穏やかだったが、おばさんの追放を免れた『伸び耳』があることを少なくとも父は知っている、とは思った。
「……そう」
ウィーズリーおばさんは深く息を吸い込み、支持を求めるようにテーブルをぐるりと見回したが、誰も口を開かなかった。
「そう……どうやらわたしの意見は却下されるようね。でもこれだけは言わせて頂くわ。ダンブルドアがハリーにあまり多くを知って欲しくないと仰るからにはダンブルドアなりの理由がおありのはず。それに、ハリーにとって何が一番良いことかを考えている者として
」
「ハリーはあなたの息子じゃない」
ブラックが噛み付くように告げる。おばさんは途端に激しく言い放った。
「息子も同然です。他に誰がいるっていうの?」
「わたしがいる!!」
強くそう叫んだブラックを見て、の中で何かが冷たく弾けた。口元をくいっと上げたおばさんが冷ややかに続ける。
「そうね。ただし、あなたがアズカバンに閉じ込められていた間は、この子はおろか
自分の実の子供の面倒を見るのも、
少し、難しかったんじゃありません?」
「モリー」
カッと顔を赤くして椅子から立ち上がりかけたブラックに覆い被せるようにして、リーマスが厳しい口調で言った。彼の瞳はしっかりとおばさんを見据えている。
「モリー、このテーブルに着いている者でハリーのことを気遣っているのは、君だけじゃない。シリウス、
座るんだ」
ウィーズリーおばさんの唇は震えていた。ブラックは顔を歪めながらもゆっくりと椅子に座り直す。はこの中でブラックを抑えられるのはリーマスだけだと確信した。
リーマスは静かに続ける。
「ハリーもこのことで意見を言うのを許されるべきだろう。もう自分で判断できる年齢だ」
「僕、知りたい。何が起こっているのか」
ハリーが即座に答えると、おばさんは愕然と項垂れた。だが諦めたように首を振ると、おばさんは掠れた声で告げた。
「……分かったわ。、ジニー、ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージ……みんな厨房から出なさい。すぐに」
途端にどよめきが上がった。フレッドとジョージが同時に喚く。
「僕たちもう成人だ!」
「ハリーが良くてどうして僕はダメなんだ!」
ロンが叫ぶ。ジニーも鼻声を出した。
「ママ、あたしも聞きたい!」
「ダメ!!」
おばさんは絶叫してとうとう立ち上がった。その目はらんらんと厳しく光っている。
「
絶対に、許しません!!」
「モリー、フレッドとジョージを止めることはできないよ」
疲れた顔をしてウィーズリーおじさんが言った。
「ふたりとも、確かに成人だ」
「でもまだ学生だわ」
「しかし、法律ではもう大人だ」
ウィーズリーおばさんは真っ赤な顔をしてため息混じりに言った。
「わたしは……ああ、仕方ないでしょう……フレッドとジョージは残って宜しい。でも、ロン
」
「どうせハリーが、僕とハーマイオニーにみんなの言うことを全部教えてくれるよ!」
ロンが熱っぽく叫んだ。
「そうだよね? ね?」
彼はハリーの目を覗き込みながら、若干不安げに問いかける。しばしの沈黙を挟んでハリーは「もちろんさ」と答えた。
「そう!」
おばさんが鼻息も荒く怒鳴った。
「それじゃあ、、ジニー、寝なさい!!」
ジニーは押さえ込もうとする母親に躍起になって抵抗していた。だがはジニーを引きずるおばさんの後ろに静かについていきながら、厨房を出る前に振り返った。部屋中のほとんどの目がこちらに向けられている。はちらとリーマスを見てから、テーブルの奥のブラックの顔を見つめた。途端に彼は困惑した表情で目線を泳がせ始めた。吐息混じりに冷ややかに告げる。
「アズカバンから出てきて親友の息子の面倒を見られるようになって、良かったですね」
厨房の反応を見るより先に、はぴしゃりと扉を閉めて玄関ホールへの階段を早足で上がった。ジニーの悲鳴で目を覚ましたらしいブラックの母親の肖像の横を通り過ぎ、何とか暴れるジニーを連れて寝室へと戻る。やがて肖像の叫び声はピタリと収まった。
「ずるい! ずるいわよね、結局仲間外れはわたしたちだけよ? ママってばひどい!」
ベッドに座り込んだジニーが苛々と怒鳴る。はネグリジェに着替えながらぼやいた。
「あとでハーマイオニーがきっと教えてくれるよ。仕方ないよ。わたしたち、子供だし」
「何で、そんなに落ち着いていられるの? なんか、わたし……わたしだけ、すごく子供みたい」
情けない声を出して俯くジニーに小さく笑いかけて、はかぶりを振った。
「そんなことないよ。わたしはただ」
ただ。
顔を上げて、独り言のように呟く。
「ただ、諦めるってことをほんの少し知ってるだけじゃないかな」