ボーバトンとダームストラングの代表団たちが大広間に入ってからの喧騒は凄まじかった。特にホグワーツの生徒たちは、ダームストラングでクィディッチのブルガリア代表シーカー、ビクトール・クラムを一目見ようと、自分たちの寮のテーブルに着きながらも身を乗り出すようにダームストラングの固まりを見つめている。彼らは手前が空いていたスリザリンのテーブルに、ボーバトン生たちはレイブンクロー席に座った。
「すごい、ねえクラムよ! あんたワールドカップで、見た? あのプレー!」
「見たに決まってるでしょう、うるさいなぁ」
興奮しきってひとり早口に捲くし立てるフランシスに向け、思い切り顔をしかめる。確かにクラムはすごい選手だと認めるし、どちらかといえば好きだけれども、黄色い声をあげるミーハーな女子生徒たちにはうんざりする。少しは口を閉じたらどうなんだ。頭が痛い。
不満でもあるのか、ボーバトンの生徒たちはむっつりした表情で大広間を見回し、ダームストラングの生徒たちは星の瞬く天井を興味深々で眺めていた。
やがて全校生が大広間に入り、それぞれの寮のテーブルに着くと、教職員が入場して上座のテーブルに着席した。列の最後はダンブルドア、カルカロフ校長、マダム・マクシームだ。ボーバトン生はマダムが入場するとパッと起立した。ホグワーツ生の何人かがそれを見て笑ったが、ボーバトン生たちは平然としており、マダム・マクシームがダンブルドアの左手に着席するまでは誰ひとりとして座らなかった。は目を丸くしてその様子を見つめていた。すごい、ホグワーツとは大違いだ。
だがダンブルドアが客人への挨拶と宴の開始を告げる間に、ボーバトンの女子生徒がひとり嫌味な笑い声をあげた。たちハッフルパフ生だけでなく、他のテーブルのホグワーツ生たちも多くがそちらを睨み付けたが、当の本人は偉そうにふんぞり返って座ったままだった。なにあれ、やなかんじ!
宴の席には、普段見ることのない料理もたくさん振る舞われた。どうやらフランス料理やロシア料理らしい。フランスのスープは味付けが好みではなく、一口飲んだだけでは脇に退けた。途中、ふと教員席に目をやると、カルカロフ校長とマダム・マクシームの隣にそれぞれバグマンとクラウチが座っている。対抗試合に深く関わった魔法省役人とはあのふたりなのだろうか。
胃袋も満たされ、目の前の金の皿がピカピカになると、ダンブルドアが徐に立ち上がった。
Halloween morning
バグマンとクラウチの紹介を済ませると、ダンブルドアは彼らふたりと代表校三校の校長が審査委員だと説明した。
「それではフィルチさん、箱をこれへ」
ダンブルドアが言うと、大広間の隅に待機していたフィルチが宝石を散りばめた大きな木箱を持って彼の方へと進み出た。広間を興奮のざわめきが駆け巡る。も前の方に座る生徒たちの陰に見え隠れするその箱を見ようと、懸命に首を伸ばした。フィルチが木箱を恭しくダンブルドアの前のテーブルに置く。ダンブルドアは続けた。
「代表選手たちが今年取り組むべき課題の内容は、すでにクラウチ氏とバグマン氏が検討を終えておる。さらにお二方はそれぞれの課題に必要な手配もして下さった。課題は三つあり、今学年一年に渡って間を置いて行われ、代表選手はあらゆる角度から試される。魔力の卓越性、果敢な勇気、論理・推理力、そして言うまでもなく、危険に対する能力などじゃ」
彼の言葉に、大広間が完璧に沈黙した。は息を潜め、同じテーブルのセドリックをちらりと見やる。彼は真剣な面持ちでじっとダンブルドアの声に耳を傾けていた。
「皆も知っての通り、試合を競うのは三人の代表選手じゃ。参加校から各ひとりずつ。選手は課題のひとつひとつをどのように巧みにこなすかで採点され、三つの課題の総合点が最も高い者が優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者、『炎のゴブレット』じゃ」
ここでダンブルドアは杖を取り出し、木箱の蓋を軽く三回叩いた。蓋が軋みながら、ゆっくりと開く。彼は中に手を差し入れ、大きな荒削りの木のゴブレットを取り出した。一見まるでぱっとしないただの杯だったが、その縁から溢れんばかりの青白い炎が踊っている。はあっと息を呑んだ。なんてきれいな色なんだろう。彼は木箱の蓋を閉め、その上にそっとゴブレットを置いた。誰もが食い入るようにしてゴブレットを見つめた。
「代表選手に名乗りをあげたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。立候補の志ある者は、これから二十四時間以内にその名を提出するよう。明日、ハロウィーンの夜に、ゴブレットは各校を代表するに最も相応しいと判断した三人の名前を返して寄越すであろう。このゴブレットは、今夜、玄関ホールに置かれる。我と思わん者は自由に近付くが良い。年齢に満たない生徒が誘惑に駆られることのないよう、『炎のゴブレット』が玄関ホールに置かれたなら、その周囲にわしが『年齢線』を引くことにする。十七歳に満たない者は、何人もその線を越えることはできぬ」
今度は首を巡らせてグリフィンドール席を見ると、なんとフレッドとジョージは顔を見合わせて勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「最後に、この試合で競おうとする者にははっきりと言っておこう。軽々しく名乗りをあげぬことじゃ。『炎のゴブレット』が一旦代表選手と選んだ者は、最後まで試合を戦い抜く義務がある。ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されるということじゃ。代表選手になったからには途中で気が変わるということは許されぬ。じゃから心底競技する用意があるのかどうか確信を持った上で、ゴブレットに名前を入れるのじゃぞ」
それでは就寝じゃ、おやすみ!と告げて、ダンブルドアは椅子に腰かけた。席を立ったは、もっと近くでクラムが見たいとうるさいフランシスに引きずられてスリザリン席の方へと歩かされる。だが彼女は途中で親友を放り出し、グリフィンドールのテーブルへと向かった。
「『年齢線』か!」
玄関ホールに出るドアへと進みながらそう口を開くフレッドと鉢合わせになった。
「お、!」
ぱっと彼の顔に笑みが広がる。後ろを歩いていたジョージもこちらに進み出て意気揚々と言った。
「明日だ! 明日あのゴブレットに名前を入れるぜ!」
は聞こえよがしにため息をついた。
「まだそんなこと言ってるの? さっき先生が言ってたじゃ……」
「たかが『年齢線』だぜ? 『老け薬』ひとつでどうにでもごまかせるさ。一旦ゴブレットに入れちまえば、ゴブレットには十七歳かどうかなんて分かりゃしないよ」
「でも十七歳未満じゃ誰も戦い遂せる可能性はないと思うわ」
ふたりの後ろに立っていたハーマイオニーが投げやりに言った。
「まだ勉強が足りないもの」
「君はそうでも僕は違うぜ」
ぶっきらぼうにジョージが告げる。彼はハリーに顔を向けニヤリと笑んだ。
「ハリー、君はやるな? 立候補するんだろ?」
ハリーは困った顔をした。ちょうどそのときのもとにフランシスが飛んできた。彼女は頬を紅潮させてスリザリンテーブルを示しながら、
「、もうすぐクラムがこっち来るわ!」
しかめっ面でそちらに見やると、フランシスの言う通り、カルカロフが「船に戻れ」とダームストラングの生徒たちを急き立ててドアに向かって歩いてくるところだった。
「ビクトール、気分はどうだ? 充分に食べたか? 厨房から玉子酒でも持ってこさせようか?」
少し顔色の悪いクラムが毛皮を着ながら、カルカロフの問いかけに首を横に振った。彼の後ろにいた男子生徒が物欲しそうな顔をして口を開く。
「校長先生、僕、ヴァインが欲しい」
「お前に言ったわけではない、ポリアコフ」
その生徒をちらりとも見ずにカルカロフがすげなく言う。クラムへのものとあまりにかけ離れたその態度には目を丸くした。クラムをもっとよく見ようとグリフィンドール席の端で立ち止まったフランシスとに別れを告げ、ドアへと向かっていたハリーたちが、ダームストラングの固まりとかち合った。三人がカルカロフたちに先を譲る。「ありがとう」と素っ気無く告げたカルカロフが何気なくハリーに目をやると、途端に彼は凍りついた。校長の後ろについていた生徒たちも急に立ち止まる。カルカロフの目はハリーの額に釘付けになり、ダームストラングの生徒たちの何人かもハッと息を呑んだ。たちはその様子を固唾を呑んで見守っていた。
「そうだ、ハリー・ポッターだ」
後ろから声が轟いた。いつの間にかマッド−アイ・ムーディが立っている。カルカロフはムーディを見るや否や真っ青になり、怒りと恐れの入り混じった凄まじい形相に変わった。
「お前は!」
カルカロフは亡霊でも見るような目付きでムーディを見つめた。
「ああ、わしだ」
ムーディは凄みのある声で低く唸った。
「ポッターに何か言うことがないなら、カルカロフ、退くのが良かろう。出口を塞いでいるぞ」
一言も言わず、カルカロフは自分の生徒を掻き集めるようにして広間から出て行った。ムーディはその姿が見えなくなるまで『魔法の目』でその背中をジッと見つめていた。傷だらけの歪んだ顔には激しい嫌悪感が浮かんでいる。クラムしか頭にないらしいフランシスは両手を合わせ恍惚とした表情でずっと彼らの消えた出口を眺めていた。
翌日は土曜日で、普段なら遅い朝食を摂る生徒が多いはずだった。だがが平日と同じくらいの時間に目を覚ますと、同室の友人たちはすでに着替え終わったあとだった。
「あら、おはよう。遅いわよ」
寝惚け眼をこすりながらのろのろと布団から顔を出すと、視界にぼんやりと親友の姿が映った。寝起きは頭が回らないし、些細なことですぐにイライラする。は眉間にくっきりとしわを刻んでうめいた。
「……何でこんなに早いの?」
するとフランシスは信じられないと言わんばかりに目を丸くして大声を出した。
「あんた今日はハロウィーンよ? 代表選手が決まる日よ? 玄関ホールにはゴブレット、城にはあのビクトール・クラム……ああ、こんな素敵な日にいつまでも寝てるなんてもったいないじゃない! そんなのバカのすることよ、ほら、さっさと起きて下りるわよ!」
「うっ……さい……!!」
物憂げに黒髪をかき上げ、吐き捨てる。寝起きに口が悪くなるのはいつものことなので、フランシスはさして気にも留めず、勢いよくの布団を剥いだ。
「ほーら起きる起きる!」
「あーもう……邪魔すん、な……」
ベッドの上で身体を丸めて、毒づく。が、ははたと顔を上げて絶叫した。
「ああああああああああ!!!!」
「なっ、なっ、なに!?」
同室の友人たちが素っ頓狂な声をあげる。気付いたときにはは飛び起きていた。フランシスはきょとんとした顔をこちらに向け、
「あら、珍しい。起き上がるまでが早いわね」
「きょ、きょ、きょ……今日は十月三十一日!?」
「そうよ? 今さら何?」
平然としたフランシスを睨み付け、ベッドから飛び降りる。は洗面所まで飛んでいき、急いで顔を洗って歯を磨いた。鏡を見つめ、歯に汚れが残っていないか確認してベッドに戻る。呆然としたフランシスを横目に見ながら彼女はバタバタと着替えをすませた。
「ねえねえ、今日中にわたしができる範囲で準備できるプレゼントって何があるかな!?」
「はあ?」と声をあげてわけが分からないといった顔をするフランシスを残して一足先に談話室へと下りる。そこはゴブレットとセドリックの話で持ちきりで、土曜のこの時間帯にすれば異例の喧騒だったが、セドリック本人の姿はまだない。遅れて降りてきたフランシスが「お腹がすいた」とうるさいので、は彼が寝室から下りてこないうちに大広間へと向かった。玄関ホールのゴブレットのそばには、こんな時間だというのにすでにかなりの人だかりができている。彼女がそこに近付いたとき、ちょうどウィーズリーの双子がゴブレットを囲む線の中に足を踏み入れたところだった。
信じられない、と軽蔑の眼差しをフランシスがそちらに向けた瞬間、ジュッという大きな音とともにふたりは金色の円の外に放り出された。見えない巨人が彼らを押し出したかのようだ。双子は三メートルほども吹っ飛び、ちょうどたちの足元に叩きつけられた。フランシスが悲鳴をあげ、が屈みこんで彼らを抱き起こそうとすると、ポンと大きな音がしてふたりの顎にまったく同じ白い長い髭が生えた。
ホールが大爆笑に沸いた。もつられて笑い出した。フレッドとジョージでさえ、立ち上がって互いの髭を眺めた途端、腹を抱えて爆笑し始める。フランシスだけはひどく顔を歪めていたが。
「忠告したはずじゃ」
深みのある声が玄関ホールに響いた。どこか面白がっているような調子だ。顔を上げると、大広間からダンブルドアが出てきたところだった。
「ふたりとも、マダム・ポンフリーのところへ行くがよい。すでにレイブンクローのミス・フォーセット、ハッフルパフのミスター・サマーズがお世話になっておる。ふたりとも少しばかり歳をとる決心をしたのでな。もっとも、あのふたりの髭は君たちのものほど見事ではないが」
そう言ってニコニコ笑い、ダンブルドアは去っていった。フレッドとジョージはに髭を蓄えた顔を向け、「やられちまったぜ」と苦笑いする。彼らはゲラゲラ笑っているリーに付き添われて医務室へと消えていった。
朝食の席にはすでに多くの生徒たちが集い、それぞれのテーブルで誰が立候補しただろうかとがやがや話していた。
「ジャスパーが『老け薬』で挑んだって本当なの?」
ハッフルパフのテーブルに着いたフランシスが、隣の席でヨーグルトをつついていたケイトに訊ねた。
「ええ、今朝かなり早起きして試したらしいよ。今は医務室で寝てるけど」
「あの赤毛の双子と同じこと考えるなんてほんとバカよね」
うんざりとした顔でフランシスが言った。
「他に誰かもうゴブレットに名前入れたの?」
今度はが口を開く。と、三年生のキティが唸った。
「そうねー、セドはまだでしょう? 七年のアベルが昨日の夜入れたって聞いたけど、他は知らないわね」
「でもハッフルパフなら絶対セドでしょう?」
ケイトがキラキラと目を輝かせる。オートミールにスプーンを突っ込んだフランシスがうんうんと頷いた。
「まぁね、セドリックしかいないでしょ。アベルはちょっとね、ただの肉体派だし……」
はサラダをつつきながら、ただ黙って彼女らの話を聞いていた。今日は彼の誕生日だ。どうしよう、ホグズミードには行けないし、プレゼントを買いに行ける場所はない。どうしよう……彼は飛行訓練に付き合ってくれた。何か、してあげたい。お返しにではなくて
ただ、彼の生まれたこの日に、彼の誕生に感謝の意を捧げ、何かを贈りたいと思う。でも、わたしに一体何ができるだろう。
「ていうかセドの他に誰がいる? 魔法能力、勇気、推理力……セド以外に相応しい生徒がいるとは思えないわよ」
「そうそう。実は『能ある鷹は爪を隠す』でこの日のために今の今まで力を秘めてましたって人がいれば別だけどね」
ケイトの言葉に、フランシスとキティは声をあげて笑った。セドリックのことを話しているのは彼女らだけではなく、ハッフルパフのテーブルはどこも彼の話題で持ちきりだ。だがはそれには加わらず、プレゼントをどうしようかということだけを懸命に考えていた。
彼女がフランシスと大広間を出るとき、ちょうどセドリックが友人たちに囲まれてホールから入ってきた。彼らはたちを見つけるとみんな嬉しそうに笑い、「おはよう!」と挨拶してきた。もちろん、セドリックも。
「おい聞けよ、フランシス! セドがたった今ゴブレットに名前を入れた!」
六年生の男子生徒が口火を切った。とフランシスは歓声をあげてセドリックを見やる。セドリックは少しだけ照れくさそうに笑った。
「やった! ついに、ついに入れたのね!」
「おめでとうセド! すっごい嬉しいよ!」
「ありがとう、ふたりとも」
その喧騒を聞きつけたハッフルパフのテーブルは一気に盛り上がりを見せた。みんな立ち上がり、その場で喝采を浴びせたり、こちらに駆け寄って彼に話しかけたり。たちは押し流されるようにして大広間を出た。
玄関ホールを通って階段を上っているとき、はフランシスの隣で肩を落とし息をついた。
(あー……何で言えなかったんだろ)
今日は彼の、誕生日だというのに。誕生日おめでとうって。たった一言。
みんなに囲まれている彼には、とても言えなかった。
そうだ、彼は
みんなの人気者、だから。そんなことは分かりきっていたのに。
はふと足を止め、手すりに触れる指先に力を入れた。
「どうしたの?」
怪訝な顔をしたフランシスが振り返る。はパッと顔を上げ、決然とした面持ちで親友へと告げた。
「わたし、これから行くところあるから! じゃあ!」
「えっ、は? ?」
「ごめん、じゃあね!」
間の抜けた声をあげるフランシスを放り出して、彼女はもと来た道を駆け出した。そのまま玄関ホールを突っ切って城の外に出る。風が冷たい。両腕を抱き抱えて身震いすると、彼女は杖を取り出して「アクシオ、マフラーとコート!」唱えた。『アクシオ』呪文はもっと高学年用の呪文だが、使えたら便利だなと思い、去年リーマスに特別補習をしてもらったのだ。今ではかなり離れたところからも呼び寄せられるようになった。やがて彼女のコートとマフラーが飛んできて腕の中に収まる。素早くそれを着込むと、は禁じられた森へと足を向けた。
買い物には行けないし、きっとしてあげられることもない。それならば。
幼い頃、父に
リーマスに教えてもらったおまじないを。
代表選手は今夜選ばれる。もしも、彼がホグワーツを代表する選手となれば。
どうか彼が、無事に競技を終えられますように。
過去の対抗試合は、夥しい数の死人を出したという。髑髏を映した彼の横顔。
そんなものは、何の役にも立たないけれど。不安は拭えなくて。
代表選手になって欲しくないという気持ちは、まだ、少なからずある。けれど。
彼が代表選手になることを望むならば。永遠の栄光を手に入れたいと願うなら。彼と同じことを欲するだけ。
どうか彼が選ばれますように。そして
無事にわたしたちのところへ、戻ってきてくれますように。
優勝カップを手にして微笑む彼の姿を、この学校で見られますように。
ハグリッドの小屋のそばを通るとき、ボーバトンの馬車が遠目に見えた。けれど彼女はさして気にかけず、足早に歩を進めていった。