去年とは違う歌を歌った組み分け帽子が新入生を四つの寮に分け終えると、ダンブルドアがやおら立ち上がって「思いっきり、掻っ込め!」と言った。尊大なお言葉を期待していたらしい新入生たちはポカンと口を開けてダンブルドアを見つめていた。
「気にしないでいいよ、ああいう人だから」
隣に腰を下ろした新入生のエレノアに話しかけると、彼女は真っ赤になって俯いた。初々しいなぁなどと考えてしまった自分は年をとってしまったのだろうか。は時々レイブンクロー席を親の仇でも見るかのような目で睨みつけ、ダンブルドアの言葉を体現したようにがむしゃらにマッシュポテトを頬張るフランシスを見てため息をついた。この調子だと、親友は一週間で五キロは太るかもしれない。母親がマグルのフランシスは、寮にマグルの体重計とやらを持ち込んで、去年から毎朝自分の体重と体脂肪を折れ線グラフにしていた。彼女はひどいストレスがあると一気に折れ線が右肩上がりになるので、グラフを一瞥すれば彼女がいつ情緒不安定だったかがよく分かる。身を乗り出して少し離れた位置のチキンに手を伸ばしたとき、テーブルの向こう端にセドリックの姿が見え、は慌てて目を逸らした。
デザートのチョコレートケーキと糖蜜パイを平らげると、目の前の皿が途端にピカピカになり、ダンブルドアが再び立ち上がった。教職員席に顔を向け、ぼんやりと思い出す。ああ、一年前の今日、あそこにはリーマスがいて。わたしは不安と期待に胸を膨らませていたのだ。
あの頃はまさかリーマスに負の感情を持つ日がやって来るなんて、思いもしなかった。
静まり返った生徒たちを見回して、ダンブルドアが笑顔で口を開く。
「さて! みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう」
新入生たちは今度こそ素晴らしいお言葉が聞けるだろうと目を輝かせて校長を見つめた。
「いくつか知らせることがある。もう一度耳を傾けてもらおうかの。管理人のフィルチさんから皆に伝えるようにとのことじゃが、城内持ち込み禁止の品に今年は次の物が加わった。『叫びヨーヨー』、『噛み付きフリスビー』、『殴り続けのブーメラン』。禁止品は全部で四百三十七項目あるはずじゃ。リストはフィルチさんの事務所で閲覧可能じゃ。確認したい生徒がいればじゃが」
『叫びヨーヨー』は去年フレッドがリーマスにプレゼントしようと目論んでいた玩具だ。リーマスは少なからず喜んでいたようだったが、が取り上げて双子がグリフィンドール寮から出てきたときに談話室に投げ込み大惨事になったことがある。あのときは双子と一緒に罰則でトロフィー磨きをさせられてしまったというあまり楽しくない思い出の品だ。
ダンブルドアは続いて去年と同じように、森は立ち入り禁止、ホグズミードも二年生以下は禁止だと告げた。
「それから、寮対抗クィディッチ試合は今年は取り止めじゃ。これを知らせるのはわしも非常につらいのじゃが」
途端に正面のフランシスの顔が引きつった。も呆然とダンブルドアの顔を見返す。広間の至る所から悲痛な声があがった。
「これは、十月に始まり今学年の終わりまで続くイベントのためじゃ。先生方もほとんどの時間とエネルギーをこの行事のために費やすことになる。しかしじゃ、わしは皆がこの行事を大いに楽しむであろうと確信しておる。ここに大いなる喜びを持って発表しよう、今年ホグワーツで
」
ちょうどそのとき、耳をつんざく雷鳴とともに、大広間の扉がバタンと開いた。
the BIG PROJECT
戸口に現れた男は長いステッキに寄りかかり、黒い旅行マントをまとっていた。時折天井を走る稲妻がその男の姿をくっきりと照らし出す。男はフードを脱ぎ、馬のたてがみのような長い暗褐色まだらの髪をブルッと振るうと、教職員テーブルに向かって歩き出した。男が一歩踏み出すごとに、コツッ、コツッという鈍い音が響いた。
しばらくして、男がのすぐ横を通った。その顔は一ミリの隙間もないほど傷跡に覆われ、鼻は大きく削がれているし、口はまるで斜めに切り裂かれた傷口のように見えた。だが一番恐ろしかったのは男の目だった。
片方の目は小さく、黒く光っていた。もう一方は大きく丸いコインのようで、鮮やかな明るいブルーだった。ブルーの目は瞬きもせず、普通の目とはまったく無関係にグルグルと上下、左右に絶え間なく動いている。ちょうどその目がくるりと裏返しになり、瞳が男の真後ろを見る位置に移動したので、正面からは白目しか見えなくなった。エレノアが小さく悲鳴をあげた。
男はダンブルドアに近付き、顔と同じくらい傷だらけの手を差し出してダンブルドアと握手した。校長は小声で男に何かを訊ねたようだったが、男はにこりともせずに頭を振り、低い声で答えていた。ダンブルドアは頷くと、自分の右手の空いた席へその男を誘った。
静まり返った大広間の中で、ダンブルドアが明るい声で言った。
「『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生を紹介しよう。ムーディ先生じゃ」
ダンブルドアとハグリッド以外は職員も生徒も誰ひとりとして拍手しなかった。みんなムーディのあまりに不気味な有り様に呪縛されたかのように、ただじっと彼を見つめるばかりだった。
「ムーディ? まさか、マッド−アイ・ムーディ?」
がポツリと呟くと、フランシスは眉をひそめた。
「マッド−アイ・ムーディ?」
はそっと身を乗り出して小声で囁いた。
「今朝ウィーズリーさんの家で聞いたの。マッド−アイ・ムーディ、昔魔法省にいた、腕利きの『闇祓い』」
フランシスは目を丸くしてじっと鋭くムーディを見つめた。ムーディはお世辞にも温かいとは言えない歓迎ぶりにもまったく無頓着のようだ。はムーディが携帯用酒瓶に口をつけ、マントの裾が持ち上がったとき、先端に鉤爪のついた木製の義足をテーブルの下から垣間見た。
ダンブルドアが咳払いした。
「先ほど言いかけていたのじゃが」
そしてまたニッコリと微笑む。
「これから数ヶ月に渡り、我が校はまことに心躍るイベントを主催するという光栄に浴する。この催しはここ百年以上行われていない。この開催を発表するのはわしとしても大いに嬉しい。今年、ホグワーツで三大魔法学校対抗試合を行う」
「ご冗談でしょう!」
グリフィンドールのテーブルからフレッドが絶叫した。ムーディが到着してからずっと大広間に張り詰めていた緊張が急に解けた。
ほとんど全員が笑い出し、ダンブルドアもその絶妙な掛け声を楽しむようにふぉっふぉっと笑った。
「ミスター・ウィーズリー、わしは決して冗談など言っておらんよ。とはいえせっかく冗談の話が出たからには、実は、夏休みに素晴らしいジョークをひとつ聞いてのう。トロールと鬼婆とレプラコーンが一緒に飲み屋に入ってな……」
いきなりマクゴナガル先生が大きな咳払いをした。ダンブルドアはしゅんと悲しそうに一瞬だけ小さくなった。
「ふむ……しかし今その話をするときではないようじゃの」
は小さく吹き出した。
「どこまで話したかの? おお、そうじゃ。三大魔法学校対抗試合じゃった……さて、この試合がいかなるものか、知らない諸君もおろう。そこで、とっくに知っている諸君にはお許しを願って、簡単に説明するとしよう。その間、知っている諸君は自由勝手に他のことを考えていてよろしい」
漠然とした名前しか聞いたことのないはダンブルドアを見つめ、彼の言葉を静かに待った。フランシスも息を潜め、珍しく先生の話を一語一句聞き逃すまいとしているようだった。
「三大魔法学校対抗試合はおよそ七百年前、ヨーロッパの三大魔法学校の親善試合として始まったものじゃ。ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校での。各校から代表選手がひとりずつ選ばれ、三人が三つの魔法競技を争った。五年ごとに三校が回り持ちで競技を主催しての。若い魔法使い、魔女たちが国を越えての絆を築くには、これが最も優れた方法だと衆目の一致するところじゃった。夥しい数の死人が出るにいたって、競技そのものが中止されるまではの」
夥しい死者、という言葉には目を見開くが、多くの生徒たちはあまり気にしていないようだった。フランシスも然りで、早く続きが聞きたいとばかりに目を輝かせていた。
ダンブルドアは『国際魔法協力部』と『魔法ゲーム・スポーツ部』が対抗試合再開を決意し、先生方もこの夏いっぱい準備に取り組んだと言った。ボーバトンとダームストラングの代表選手最終候補生が十月に来校し、ハロウィーンに学校代表選手三人の選考が行われ、優勝者には優勝杯、学校の栄誉、そして賞金一千ガリオンが与えられるという。
「立候補するぞ!」
フレッドが顔を輝かせ、また叫んだ。ホグワーツの代表選手になる姿を思い浮かべたのはフレッドだけではないようで、首を巡らせると友人たちと熱っぽく語り合うセドリックの姿が見えたし、フランシスは「聞いた、!? 一千ガリオンですって!」とひどく興奮している。再び口を開いたダンブルドアの言葉は、そんな彼らを険しい表情にさせるに充分だった。
「すべての諸君が優勝杯をホグワーツ校にもたらそうという熱意に満ちておると承知しておる。しかし参加三校の校長、ならびに魔法省としては、今年の選手に年齢制限を設けることに合意した。ある一定年齢に達した生徒だけが
つまり、十七歳以上じゃが
代表候補として名乗りをあげることを許される。このことは、我々がいかに予防措置を取ろうとも、やはり試合の種目が難しく、危険であることから必要な措置であると判断したがためなのじゃ。六年生、七年生より年少の者が課題をこなせるとは考えにくい。年少の者がホグワーツの代表選手になろうとして公正明大なる審査員を出し抜いたりせぬよう、わし自ら目を光らせることとする。十七歳に満たない者は名前を審査員に提出したりして時間の無駄をせんように、よくよく願っておこう」
ダンブルドアの明るいブルーの目がちらりとグリフィンドールのテーブルを見て悪戯っぽく光る。その次の瞬間、無意識のうちには高々と手を挙げて声をあげていた。
「ダンブルドア先生」
え、とフランシスが間の抜けた声をあげる。ダンブルドアは顎を引いて半月眼鏡の上からきょとんとした顔でこちらに目を向けた。そればかりでなく、広間の全員の視線が彼女に一気に集まる。フランシスが切羽詰ったように言ってきた。
「ちょ、あんたなに血迷ったこと……!」
「何かね? ミス・ルーピン」
ダンブルドアがやんわりと訊いてくる。は手を下ろし、渇いた喉に唾を飲み込んでからゆっくりと口を開いた。
「あの……年齢制限を設けるということは、理解できます。でも六年生以上ではなくて、十七歳以上とするのはなぜですか? 同じ六年生なら同じように学んできて同じくらいの力があるはずです……もちろん、個人差はあると思いますけど。それなのに十七歳以上と決めてしまえば、不公平が生じるのではありませんか?」
同意の声をあげる者はいなかったが、多くの生徒たちが校長の答えを待って息を潜めるのが分かった。ダンブルドアは目を細めながら穏やかに言った。
「我が校では、その通りじゃミス・ルーピン。じゃがの、他の学校がホグワーツと同じような学年分けをしておるわけではない。すべてのことを考慮して我々が出した結論が、十七歳以上という制限なのじゃ。じゃからどうか諸君、理解しておくれ」
そう言ったダンブルドアが再びグリフィンドール席を一瞥した。首を巡らせると、フレッドとジョージが不貞腐れた顔でそっぽを向いたところだった。
「他に何か、質問のある者は?」
ダンブルドアの問い掛けに手を挙げる者はいなかった。彼は小さく頷いて続けた。
「ボーバトンとダームストラングの代表団は十月に到着し、今年度はほとんどずっと我が校に留まる。外国からの客人が滞在する間、皆、礼儀と厚情を尽くすことと信ずる。さらに、ホグワーツの代表選手が選ばれし暁には、その者を皆、心から応援するであろうとわしは信じておる。さてと、夜も更けた。明日からの授業に備えて、ゆっくり休み、はっきりした頭で臨むことが大切じゃと、皆そう思っておるじゃろの。就寝! ほれほれ!」
ダンブルドアは再び腰かけ、ムーディと話し始めた。
とハッフルパフのテーブルを離れたフランシスは、怪訝そうに顔を歪めて訊いた。
「何であんなこと訊いたの? どっちにしたって二年生のわたしたちの出る幕なんてないじゃない」
「あー、ただ……」
は顔を上げ、大広間を出て行くセドリックの後ろ姿を見やる。次にグリフィンドール席に視線を移すと、フレッドとジョージが棒立ちになってダンブルドアを睨み付けていた。
「あ……ごめんフランシー、先に帰ってて」
「は? 何でよ、もう就寝時間よ?」
「フレッドとジョージのとこ行ってくるから。一緒に行きたくないでしょう?」
するとフランシスはあからさまに嫌そうな顔をして「勝手にしなさいよ」と言い残し、扉に向かう群れに加わって去っていく。はグリフィンドールのテーブルに駆け寄って声をあげた。
「フレッド、ジョージ」
「「!!」」
ふたりはしかめっ面のままこちらを向いて喚き散らした。
「ひどいよな、僕たち四月で十七歳だっていうのに!」
「僕は絶対エントリーするぜ! こうなったら何でもしてやる!」
は半眼でため息をついた。
「ダンブルドア先生の話、聞いてなかったの? あらゆる点を考慮して十七歳以上って決めたのよ? おとなしく応援に回りなさい」
「「嫌だ!!」」
ふたりは頑固に言い張った。
「代表選手になれば普通なら絶対許されないようなことがいろいろできるんだぜ? しかも賞金一千ガリオンだ!」
「……一千ガリオン」
ロンが魂の抜けたような顔で呟く。呆れ顔のハーマイオニーが扉を示しながら言った。
「さあ、早く行かないとここに残ってるのはわたしたちだけになっちゃうわ」
はフレッド、ジョージ、そしてハーマイオニー、ハリー、ロンと玄関ホールへと向かった。フレッドとジョージはダンブルドアがどんな方法で十七歳未満のエントリーを阻止するだろうと大議論を始めたが、とハーマイオニーは付き合いきれないと早足に階段を上った。
「そういえば、ねえ」
ハーマイオニーが言った。
「さっきは何であんなこと訊いたの? 六年生以上にしたってとてもあなたじゃ」
「あ…あー」
は顔を上げて小さく笑った。
「別に、ただ、フレッドとジョージが可哀相で」
「あ。そっか!」
突然パッと顔を輝かせてハーマイオニーが手のひらを打ち合わせた。そしての耳元でそっと囁く。
「セドリック・ディゴリーって、確か六年生なのよね?」
途端には何もない階段で足を引っ掛けて転倒した。勢いよく段に顔面を打ち付けて悲鳴をあげる。
「!?」
ハーマイオニーとハリーが急いで抱き起こした。鼻血さえ出なかったが潰れたかと思うくらい鼻が痛い。腹を抱えて笑い転げる双子に憎悪の眼差しをくれてから、はグリフィンドールとの分かれ道までハーマイオニーに支えられながら歩いた。
「あなたってほんとに分かりやすいんだから」
小声でハーマイオニーが言った。は真っ赤になって俯いた。
「ディゴリーの誕生日っていつなの? エントリーできる年なのかしら?」
「……分かんない」
はセドリックの誕生日を知らなかった。そうだ、なぜダンブルドアにあんなことを言ってしまったのか。あのときは気付かなかったが。
セドリックに代表選手になって欲しいという気持ちと。そうなって欲しくない気持ちと。
もっと彼をみんなに見て欲しい。いや、誰も彼を見ないで。
彼が人気者なのは知っている。彼女が入学した時点で女の子にもてていたことも分かっている。でも。
彼の良さを知っているのはわたしひとりでいい。
でも彼がみんなの中で輝いているのを見るのも好きで。だからクィディッチのハッフルパフ戦を見るのは好きだった。ゲームの結果ではない。ただフィールドで汗を流す彼が好きだった。彼の目はとても、真っ直ぐだ。
(ああ……そうだ)
彼のスニッチを追う眼差しも、チョウ・チャンを見る視線も。あまりに真っ直ぐで。
あの優しい笑顔を
誰にも、向けないで。彼女に向けないで。わたしだけに、微笑んで。
黙り込んだ彼女を見て、ハーマイオニーもまた口を閉ざした。
やがてハッフルパフとグリフィンドールの分かれ道に差しかかると、はハーマイオニーの身体から離れ、獅子寮の友人たちに別れを告げた。
ハッフルパフ塔の入り口を守る聖女の肖像の前にふらふらとたどり着いたとき、は重大なことに気が付いた。
「合言葉は何かしら?」
問われ、彼女は真っ青になった。
しまった。わたし、合言葉知らない。
「あら、知らないの? どうしたのかしら、お嬢さん?」
聖女がくすくすと笑い出す。は肖像画に泣きついた。
「ねえ、お願い入れてよ! わたしがハッフルパフ生だなんて知ってるでしょう!?」
「あーら、そんなことできるわけないじゃないの。そんなことしたらわたし、クビになっちゃうわ」
「お願いだからー! 誰か入れてー!!」
悲鳴をあげるが、中の誰も気付いてくれない。は愕然としてその場に立ち尽くした。確か大広間を出たハッフルパフ生は自分が最後だ。は泣きそうになりながらも叫び続けた。すると。
「何してるんだ、?」
ぎょっとして振り返る。そこにはきょとんとしたセドリックがひとりで立っていた。後ろで聖女が「あらあら」と楽しそうな声をあげる。は一瞬逃げ出したい衝動に駆られた。ワールドカップの晩、あんなことがあったあとでは。今はただあのときのことが恥ずかしいと思う気持ちでいっぱいだった。彼はまったく気にしている様子はないが。
「セ、セド! 何で? 先に帰ったんじゃ」
「ん? ああ、ダンブルドア先生に訊きたいことがあったのを思い出して」
「訊きたいこと?」
首を傾げると、彼は少しだけ声を潜めて言った。
「あー……まあ、ならいいかな。さっきの対抗試合の話なんだけど、エントリーできるのは十七歳以上だって言ってただろう? それで僕はまだ十六歳なんだけど、ちょうど選考の日が誕生日なんだ」
「えって! ハロウィーンが!?」
「そう。だから僕にエントリー資格があるのかどうか確認しに行ったんだ」
はドキドキと胸の鼓動の高鳴るのを押さえつけながら問うた。
「そ、それで、先生はなんて?」
すると途端に彼の満面に笑みが広がった。は目を瞬かせ、彼の言葉を待つ。セドリックはゆっくりと二本の指を立てた右手を差し出してきた。
「問題ないってさ! 僕はエントリーできる!」
は飛び上がって歓声をあげた。
「やった! やった、セド、やった! じゃあエントリーするんだね!?」
「ああ、もちろん応募するよ!」
「やった! すごいセド! 絶対、応援するよ!」
「ありがとう!」
はセドリックと両手を合わせて小躍りしながら喜んだ。しばらくの間そこでひとしきり騒いだあと、セドリックと一緒に談話室に入る。すると談話室で待っていたらしい彼の友人たちがセドリックのもとへ飛んできた。が思わず彼から離れると、一瞬のうちに彼は男女を問わず多くの寮生たちに囲まれてしまった。
「どうだった、セド!?」
彼は少しだけもったいぶったように口ごもってから、ニッコリ微笑んで「エントリーできる!」と叫んだ。談話室中が割れんばかりの歓声に包まれた。
「やった、セド! お前なら絶対やれるって!」
「そうよ、代表はセドで決まりね!」
「大袈裟だよみんな、まだエントリーできるって分かっただけなんだぞ?」
そう言いつつもセドリックはとても嬉しそうだった。
「大丈夫だって! セドなら絶対選ばれる!」
「そうよ、セド以外いないわ!」
ハッフルパフ寮のお祭り騒ぎはしばらく収まりそうもなかった。彼がエントリーできるというだけでこの有り様だ。もし本当にセドリックが代表にでもなれば、うちの寮は歓声だけで破裂する、とは思った。
「大人気ね、あなたの王子様は?」
冷め切ったフランシスが談話室の隅でぼやく。は答えずに、ばたんと力なくソファに倒れ込んだ。
だから嫌なんだ。
彼がこうして、大勢の人に囲まれているのが。
わたしの入る余地なんてないんだと見せ付けられるのが。
つい今しがた彼がエントリーできることに喜んだばかりなのに、一気に気持ちが落ち込む。
そして彼が
来年はハッフルパフのチェイサーになってくれと何度も言っていた彼が、クィディッチの「ク」の字も口にしなかったことが
とても、とてもつらくて。
喧騒を聞きつけた寮監のスプラウト先生がやって来るまで、セドリック・ディゴリーは多くの寮生たちの中心でずっと騒ぎ続けていた。ほんの一日生まれた日が違うというだけで彼の人生は大きく変わっていただろうということは
まだ誰も、知らない。