闇の帝王の凋落で動揺しきった死喰い人たちは、その奮闘も空しく次々と闇祓いに捕らえられているようだった。連日予言者新聞を賑わすのは彼らの投獄のことばかり。

 ベラトリクスやナルシッサの親戚に当たるロジエール、そして学生時代に何度か話をしたウィルクスは闇祓いに殺された。カルカロフ、ドロホフ、トラバース、マルシベールはアズカバン行き。驚いたのは、彼女の知る死喰い人が彼≠フ弟だということだった。臆病風に吹かれた彼はとっくに死喰い人の手にかかって殺されていたけれど。

 レグルス。名前しか知らなかった。レグルス・ブラック。彼の、弟だったなんて。

『あいつらは死喰い人になることはあっても闇祓いなんかにゃ絶対にならねーよ』

 何を考えても。彼の言葉を思い出す。彼の声が鼓膜の奥で響く。うんざりする。

 イライラを生徒にぶつけずに済んだのは、彼がその役を買って出たからだ。

「馬鹿者!」

 何をどうしてどうなったのか、引っ繰り返した大鍋の中身を浴びたハッフルパフの1年生にセブルスの怒号が降り注ぐ。生徒は顔中赤く腫れ上がって惨めな悲鳴をあげた。

「おおかたコウモリの糞を入れ忘れたんだろう!馬鹿者が。さっさと医務室に行け!」

 セブルスが杖を振って零れた液体を取り去りながら怒鳴る。は泣きながら教室を出て行く生徒の後ろ姿をぼんやりと見つめた。今まで以上に強張った手付きで生徒たちがそれぞれの大鍋を恐る恐る掻き混ぜている。

 あんな姿を目の当たりにすれば、生徒に当り散らす気も失せる。

 分かっている。辛いのは      私だけじゃ、ない。

 ダンブルドアとの合意で密かに闇の陣営と接触を続けているセブルスは、以前ほどではないにせよ、新聞に載らないようなことは今でもに時折その話をした。

「ルシウスがうまく逃げ遂せたらしい」

 2人分のコーヒーをインスタントで淹れながら、は眉を顰めて振り返る。

「ルシウスが?あれだけのことをしておいて?」

 口を開いてから、自分の言葉に失笑する。あれだけのことをしておいて。それを言うなら自分も同じことだろうに。

 杖を振って冷やしたコーヒーを彼女から受け取り、ソファに腰掛けたセブルスが言う。

「陪審員に丁寧に≠ィ願いをして回ったそうだ。それに奴には唸るほど金がある。裁判の結果などどうにでも左右できるだろう」

 彼の隣に座りながら、は小さく肩をすくめる。死喰い人だった頃、ルシウスが彼女にしきりに金銭的援助を申し出ていたことを思い出した。

「…どうしたら、いいんだろう。どうしたら、闇の魔法使いを一掃できる?」

 それこそルシウスのようにうまく♀ト獄を逃れた死喰い人たちも、全て。

 セブルスは軽く鼻で笑ってみせた。

「一掃?馬鹿を言うな。そんなものは不可能だ」

 マグカップから口を離し、むっと顔を顰める。

「どうしてそう決め付けるの」

「馬鹿かお前は。この世は善と悪の二つに分かれるわけではない。そんなことはお前にも分かり切っていると思っていたが?」

 は口を噤み、ソファの上で膝を抱え込んだ。ずきんと胸が痛む。この世が善悪で両断されるとすれば、自分は紛れもなく悪で。でも少しくらいは善を備えていると、独りよがりながらもそう信じたい。

 開いた彼の口腔からは、濃いコーヒーの香りがした。

「俺たちに出来ることと言えば、待つことだけだ」

「待つ?」

 鸚鵡返しに呟いたところで、セブルスは空になったマグカップを片手にゆっくりと立ち上がった。

「いつか帝王は必ず蘇る。下手なことをせずに、その時≠ただ待つだけだ」

「…もしも、帝王が再び立ち上がれば?」

 ぞくりとするものを感じながら、彼の答えを待つ。その黒い、広い背を見せたまま、セブルスは唱えるように言った。

     確実に、息の根を止める」

 誓いのようで、呪いのようで。

 絶望のようで、それは希望にも聞こえた。
the WORST night
 早いもので、ホグワーツで教鞭を執ってもうすぐ1年が過ぎようとしていた。セブルスと手分けして、過去の試験問題を参考に新しいものを作成する。やはりは下級生の問題を担当し、セブルスはOWLとNEWTの最後の追い込みにと実習のプランをまとめていた。

 この1年は色々なことがありすぎて。死喰い人の頃よりは随分と贅沢なものを食べているはずなのにすっかり体重も落ちた。虚ろな気分になることは多かったが、それでもまだ信じられないでいる。

 ジェームズとリリーと、ピーターが死んだ。シリウスは孤島の監獄、アズカバンにいる、なんて。

 リーマスの所在はの耳には入ってこなかったし、別段知りたいとも思わなかった。唯一残った親友。けれど彼に会ってしまえば、もうジェームズたちはいないのだと。シリウスは二度と戻ってこないのだと思い知らされるようで辛いと思った。

 それに彼はもう、私を赦してはくれないだろう。

 なぜ死喰い人になったのか、なぜ騎士団に戻ってきたのか。全て話せると思ったのは、ジェームズとリリーがいたからだ。彼らが受け止めてくれたから。2人が支えてくれたから。

 でも全てを失ってしまったリーマスにとって、今更そんなことに何の意味がある?

 私が自分の罪の言い訳をしたところで、それが彼の救いになるか。

 そんなこと、もう関係ない。リーマスにとって、私は一生の裏切り者だ。彼の大切な親友は、全ていなくなった。

 私が、そうさせた。

 だからもう二度とリーマスには会わない方が、いい。お互いのためにも。

 はグリンゴッツにもう一つ金庫を持ち、そちらにホグワーツでの収入を蓄えることにした。日々の生活費や書籍の購入などには全てその給料を充てる。それは母の遺志を打ち壊すようなことをしてしまった自分への、自分なりの戒め。

 もしも闇の帝王を完全に打ち倒すことができれば。その時は。

      その時はどうか、私を赦して下さい、母さん。

 不安はいくらでもあった。帝王が一体いつ復活するのか。まだ捕まっていない死喰い人も少なくない。帝王が再び立ち上がるとして、その時自分に一体何ができるだろう。この腕の印が浮き上がってくる日は、やって来るのか。

 もうシリウスには、会えないのだろうか。

 せめて、せめて彼には分かって欲しかった。いや、そんな勝手なことは言わない。ただ私の言い訳を聞いて欲しかった。そしてもう一度、もう一度だけ、愛してると言いたかった。

 初めて愛した男。私が唯一愛した人     

「手元が留守になっているぞ」

 セブルスの声でハッと我に返り、は視界が潤んでいることに気付いてあたふたと目尻を拭った。さり気なく視線を羊皮紙に戻したセブルスは、黙々と羽根ペンを動かしている。

 紅茶を好むはずの英国人の部屋にコーヒーの香りが立ち込めているのは、この研究室の一つの特色だった。死喰い人時代、殊にコーヒーを愛飲する彼女に合わせるように彼もコーヒーを飲み始め(グリンゴッツに行く前は紅茶と併せて買うだけの余裕がなかった)、今では2人とも日に何度もコーヒーを口にするようになった。

 気持ちを切り替えようと重い腰を上げ、杖を振って沸かした湯をマグカップに流し込む。

「セブルスも飲む?」

「ああ、頼む」

 無地の、何の可愛げもないマグカップを自分のカップの隣に出す。以前はコーヒーを出す度に「濃い」だの「薄い」だの文句の多かった彼の好みもおおよそ計れるようになってきた。セブルス用に作ったコーヒーに少し口をつけると苦くて思わず呻きが漏れた。

 羽根ペンを置いたセブルスにカップを手渡し、自分の椅子にそっと腰掛ける。カフェオレの甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 左手にマグカップを持ったまま、セブルスがまた羽根ペンを手に取る。

「ねえ、どうせだから研究室に一つコーヒーミル買わない?」

「お前の負担でか?」

「半々がそんなに嫌?どうせあなたも飲むんでしょう」

「俺はそんなものよりも新しい薬草の本が欲しい」

 さらりと言ってのけたセブルスが羊皮紙を埋め尽くすとインク壺に羽根ペンを差し込んで軽く伸びをする。

「本なら私も欲しいわ。ねえ、安いのでいいから一緒に買おうよ」

「あー、本で思い出したが」

 私の我侭に疲れると、セブルスはいつもあっさりと話題を変えようとする。は頬を膨らませてジロリと相手を睨み付けた。

 セブルスが平然とした顔で、書き終えた羊皮紙を脇に寄せる。

「フローリシュ・アンド・ブロッツのジェファという女は、お前の知人か?」

 は口をつけていたマグカップの中に口腔のコーヒーを思い切り噴き出した。喉に詰まりそうになった液体を咳き込んで外す。

「な、なな何でそんなことを?」

 不自然に目元が上下する。マグカップを持つ手がやけに震えた。

「先週ダイアゴン横丁に行った時、その女に会った。は元気にしているかと訊かれた」

 寒気がする。は書籍を買う際は敢えてフローリシュ・アンド・ブロッツを避け、ホグズミードの小さな古本屋に足を運ぶことにしていた。指定の教科書はモーン教授が決めていたものをそのまま使っているので、ダイアゴンまで選びに行く必要もない。ただ、古書ではカバーできるものが限られているので、そろそろフローリシュ・アンド・ブロッツを拒み続けるわけにもいかなくなってきていた。

 それでも。

 ニースに遭遇することを考えると、どうしても行くことができない。

「…それで、あなたは何て?」

「俺か?なぜ俺を知っていると言った」

「ああ、そう…そりゃあ、知ってるでしょう。気付いてなかったなら言うけどあなたはホグワーツではそこそこ有名人だったのよ」

「そうらしいな。俺たちのことはダンブルドアから聞いたそうだ」

 つくづくお節介な男だ、ダンブルドアは。はうんざりと息を吐いた。

 ジェームズやリリーには言えても、ニースには。打ち明けられない。どんな理由があろうとも、私は彼女をも裏切って死喰い人になった。死喰い人によって家族を失った彼女に、闇祓いになると公言した私が。

 死喰い人だったことを隠して彼女と接することは不可能ではないだろう。だが私の中に残る良心がそれを許さない。たとえそうしたとしても、もし万が一どこからか私が死喰い人だったと漏れたらそれこそ取り返しのつかないことになる。

 ニースのオフの日を狙う、変装して買い物に行く。色々と考えたが、そもそもニースの休日など分からないし、が出かけられるのは精々週末のみ。せっかく無罪になったのに変装して外出するなんて怪しいですと宣言して歩いているようなものだ。まだ逃亡中の死喰い人を追う闇祓いが至る所を巡回している。ムーディにでも見つかればただでは済まないだろう。

 本すら普通に買いに行けない。私が選んでしまったのは、そういう道だ。ノクターン横丁にも本屋はあるが、闇の魔術や非合法の書籍ばかりで今は取り立てて欲しいとは思わない。セブルスは今でも時折足を運んでいるようだが。

 3年生の試験問題が仕上がったのは夜の10時を回った頃で、は大欠伸を漏らしながら椅子の上で背伸びした。

「終わったか」

 ソファに腰掛けて薬草の専門書を読んでいたセブルスが顔を上げて口を開く。じわじわと眠気の押し寄せてきた瞼を擦りながらはうんと頷いた。

「あとは明日1年生の試験を作れば終了」

「俺もあとは6年の問題だけだ。少し飲め」

 傍らの棚から取り出したワイングラスに、セブルスは本当に少しだけワインを注ぐ。ダンブルドアと同じで、彼もまた疲労回復にと少量のアルコールを勧めてくる。下戸のにとっての明日の仕事に響かない限度をセブルスはきちんと把握している。ありがとう、と言ってはソファにどさりと腰を下ろした。グラスを受け取り、セブルスのものに軽くカツンと触れ合わせる。

「お疲れさま。乾杯」

「乾杯」

 物憂げに繰り返し、セブルスがグラスを傾ける。分量の多いセブルスのワインが減っていく様子に合わせるように、はそれをちびちびと飲んだ。

 慌てた様子で研究室の扉が叩かれたのは、ちょうどその時。

、まだ起きておるかね?」

 こんな時間にどうしたのか。はグラスを置いて立ち上がった。

 少しだけ、足元がふらついた。

 ドアを手前に引き寄せると、苦しそうに顔を歪めたダンブルドアの姿が目に入った。セブルスもグラスから手を放し、徐に腰を上げる。

「どうかされましたか?」

、今すぐ支度をしてくれんか。魔法省から連絡が入った、君のお父さまが…見つかった、と」

 どきりと心臓が跳ね上がる。目を見開き、はダンブルドアを凝視した。

 真実を知って騎士団に寝返った後、は父に会うのを躊躇した。何と言えばいいのか。どんな顔をして会えばいいのか。だがダンブルドアはに何度も父に会いに行くようにと言った。まだイギリスにいるはずだからと。

 けれどいざ探そうとすると、父は見つからなかった。

 日本に戻った記録はないし、娘が見つかるまでは絶対にこの国を出ないと父はダンブルドアに言ったそうだ。魔法省は死喰い人対策で手一杯なので、マグルの警察や余裕のある騎士団のメンバーが捜索活動を始めてからもう半年が経過していた。

「父は一体どこに      元気なんですか、父は!」

、落ち着くのじゃ」

 興奮気味に声を荒げたの腕を、後ろからセブルスが若干強く押さえる。ダンブルドアは小さく首を振り、悲しそうな深い色の目で囁くように言った。

「…残念じゃが、、お父さまは発見された時、既に亡くなってから随分と時間が経っておった…ご遺体は今、魔法省で保管されておる」

 声すら、出なかった。ぱくりと口を開いたまま、ぼんやりと老人の青い瞳を見つめる。まさか。そんな。

 血の気が引いていく。セブルスの冷えた指先から熱が吸い取られているかのようだ。

「取り乱すのは分かる。じゃが…一刻も早く、お父さまに顔を見せてやってはどうかね」

 そこでようやく意識を取り戻したは背後のセブルスの胸に倒れ込んだ。彼にしっかりと支えられなければ、そのまま転倒して気を失っていたかもしれない。朦朧とする意識の中で何度か頭を振り、は足に力を入れてふらふらと立ち直した。

「…すぐに、支度を」

 なぜ。どうして。

 寝室に戻り、薄手のコートを羽織ってからは急いでダンブルドアのもとへ戻った。彼の傍らに立つセブルスが探るような目でこちらを見ていたが、さり気なく視線を外してダンブルドアに一礼する。

「支度が…できました」

「うむ。では…行こうかのう」

 ダンブルドアに続いて研究室を出るまで、は決して顔を上げなかった。

 セブルスの目を見たら。この涙を止められる自信が、なかった。








「魔法法執行部のジェーン・ベンサムです」

 厳格な青い目をした金髪の女性ははきはきとした口調でそう名乗り、ダンブルドアとを遺体安置室へと促した。腐敗が激しいために会わない方が良いのではとベンサムは言ったが、がどうしてもと押し通したのだ。

 腐敗臭がしなかったのは魔法をかけてあるせいだろう。顔にかけてある布をベンサムが取り去ると、は父の変わり果てた姿にその場に崩れ落ちた。

「…ごめん、父さん…ごめん…もっと、もっと早く…」

 私が探し出してあげていれば。

 黙ってベンサムの話が聞ける状態になるまでは随分と時間がかかった。涙も声も涸れ切った。父が横たわる台に倒れ掛かっていたは、ようやく立ち上がってベンサムを見た。

「…父は、私が連れて帰ります…」

「お願いします。それから別室でいくつか、説明しておきたいことが」

 事務的にそう告げたベンサムが先頭を切って部屋を出て行く。はダンブルドアをそこに残してその後に続き、勧められるままに側の小部屋に入った。

 小脇に抱えていた書類を捲り、ベンサムが迅速に言葉を続ける。

「お父さまのご遺体はブリストルの海岸に流れ着いているところを巡回中の魔法警察部隊に発見されました。いくつか外傷は見られますがどれも座礁によるものと思われます。その他には目立った外傷は見られませんし、聖マンゴからの報告では死の呪い≠ノよってお父さまは命を奪われたと」

 どきりと心臓が跳ね上がる。死の呪い。そんなものを使うのは、闇の魔法使いしか有り得ない。

 まさか      そんな。

「お父さまは死喰い人に殺害されたというのが我々の見解です。こちらからの説明は以上です。死喰い人の探索には我々が全力を尽くしていますのでどうかお任せ下さい」

 どうして。そんな。どうして、父が。

 再び溢れ出てきそうになったものを寸でのところで飲み込んで、は小さく頭を下げた。

「…ありがとう…ござい、ました…」

 最後の家族までも、失ってしまった。ごめん、ごめんなさい、父さん。私、最後の最後まで心配ばかりかけて。私のせいで。日本にいれば父さんは古の魔法に護られて命を落とすこともなかったのに。

 全部、私のせいで。

 母さん、本当にごめんなさい。あなたが守ろうとしたものを、私は悉く打ち壊している。

 項垂れるを残して部屋を出て行こうとしたベンサムが、ふと入り口で足を止め、僅かながらに振り向いた。

     あなたを裁くための評議会に私も出席しました。あなたが闇の世界に堕ちたなんて…ご両親はとても、嘆き悲しんでいらっしゃるでしょうね」

 ぞくりと背筋が凍りつく。顔を上げて見据えたベンサムの瞳は暗く潤んでいた。彼女の口調は、最早無関心を装ったものではない。

「本当に残念よ。自らの命を懸けてまで例のあの人を改心させようとしたの娘であるあなたが、例のあの人の駒に成り下がるなんて。何のためにが死んだのか…あの子がどれだけを愛していたのか…あなたに解されないなんて、あの子が惨めでならないわ。本当に      残念よ」

 バタン、という無機質な音が響き、ベンサムはあっという間に去っていった。その場に呆然と立ち尽くし、彼女の消えた扉を見つめる。

 彼女が母の親友だったとダンブルドアから聞いたのは、ホグワーツへの帰り道だった。父はロンドンの外れにある母の墓に近日中に埋葬することに決めた。身体が空っぽになったかのように、すーすーと風が吹き抜けていく感じがする。

 涙の滲んだベンサムの青い瞳が、頭から離れない。そういえば、学生時代の母の写真に彼女によく似た少女が写っていたかもしれない。あまりに古い記憶だったから、はっきりと覚えているわけではないけれど。

 セブルスは何も訊いてはこなかったし、私も父のことは口にしなかった。恐ろしかった。私が認めてしまうことで      それが、現実となる。

 今学期も残すところは試験のみとあって、はそのことに随分と救われた。教室の後ろに座ってただ生徒たちを監視していればいい。余計なことは考えなくて済む。

 これ以上悪くなることは有り得まいと踏んでいたを最後に襲う事件が起こったのは、確かハリーの2歳の誕生日の夜のこと。