目覚めるとはベッドの上に横たわっていた。窓から差し込む月明かりはカーテンに遮られてはいても十分に辺りの様子を窺い知ることができるほどに明るい。

 ゆっくりと身を起こし、医務室の中に誰もいないことを確認してからはそっと布団を抜け出した。枕元に置かれていた杖を懐にしまいこみ、ひんやりと冷え込む廊下を地下へ向けて歩き出す。

 うんざりした気持ちで研究室の重い扉を押し開けると、はそこに黒い影を見て眉を顰めた。
WHAT to DO
「…どうしたの。今日は随分と…早かったのね」

 研究室には既にコートを脱いだセブルスが戻ってきていて、彼は自分のデスクに着いてジッとこちらを見つめていた。机の上で一つだけ点されたランプの明かりがただでさえ暗い彼の顔に殊更影を作り出している。

「何をしていた」

 壁に掛かった時計を見やると、時刻は深夜の2時を少し回った頃か。帝王のところへ向かう彼が帰ってくるのはいつも明け方だというのに。

「何って…ダンブルドアに呼ばれてたのよ。あなたこそ今夜は早過ぎるんじゃないの?何をしてきたの」

「俺がお前に訊いているんだ。ダンブルドアのところで何をしていた」

 いつもとは異なる空気に、きっと互いに気付いたのだろう。小さく息をつき、は自分の椅子にどさりと腰を下ろした。

「…私が帝王のもとへ戻らないと言ったら…あなたはどうする?」

 ぴくりと片方の眉を上げ、セブルスの眼球が微かに動く。は机上に散らばった書類を無造作に手で脇へと払い除けながらそこに肘をついた。

「もしも私が二度とダンブルドアのもとを離れないと言ったら…私に関しては£驩、から全てを任されているあなたは一体どうする?服従の呪文で従わせる?無理やり帝王のところへ連れ帰る?それとも      裏切り者は始末するのかしら?」

 自分の言葉に小さく吹き出し、は軽く首を振った。

「…それじゃあ元も子もないわね。服従の呪文を使ってでも      あなたは私をあのお方のもとへ連れ帰る…」

「何が言いたい」

 眉根を寄せてセブルスが顔を上げる。は顎の下で組んだ両手にふうと吐息を落としながら囁くように言った。

     あなたは…知ってたの?ダンブルドアが私の母を殺したんじゃないって」

 セブルスはただ僅かに瞼を伏せただけで、取り立てて動揺した素振りも見せなかった。

「俺は言われたことを実行したまでだ。それが事実か否かなど俺には関係がない」

「誰に頼まれたの。帝王本人じゃないわね。あなたは学生時代にはまだ帝王と会ったことがなかったはず」

 静かに、だがその奥底には荒々しい音を秘めては徐に口を開いた。セブルスは平淡に言葉を返す。

「そんな昔のことは覚えていない」

「ええ…そうね、今更そんなことを知ったところで私の犯した罪は消えやしない。でも忘れないで。私が帝王の下についている理由は最早完全に失われた。あなたたちがどんな卑劣な手を使おうとも私は闇の魔法使いを殲滅させるためならあなたたち以上にあらゆるものを利用してその目的を達する。たとえ命を落としても、それで闇の帝王が倒れるのなら!」

 次第に語気が荒くなっていくことには気付いていた。顔色一つ変えないセブルスを鋭い視線で見返し、苛々と息を吐き捨てる。

「私は何があってもハリーたちを助ける。ダンブルドア先生に頼まれたの、ジェームズに忠誠の魔法を使うように説得して欲しいと。私は何としてでも彼に忠誠の魔法を使ってもらう。二度と誰にも見つけられないように。セブルス、あなたにも      邪魔はさせない」

 言い終わるよりも前に、素早く立ち上がったは取り出した杖をセブルスに突きつけた。顔を上げたセブルスは、それでもやはり無表情のままだった。

「それは脅しか何かのつもりか」

「それこそあなたの脅しなの?」

 間髪を容れずに切り返し、杖先をセブルスの頬に押し当てる。沈黙はしばらくの間続き、やがてセブルスがフンと鼻を鳴らした。

「…お前はどうしようもない愚か者だな」

「大きなお世話よ。あなたほどに真っ直ぐ帝王を慕うなんて私にはできないの」

 ぶっきらぼうに告げたの言葉に、セブルスは目を細めて嘲るように笑う。

「…それを本気で言っているのなら、救いようがないぞ」

 は眉を顰め、杖を握る自分の指先から力が僅かに抜け落ちるのを感じた。

「何よそれ。どういう…こと」

 物憂げに首を捻り、セブルスがの杖を脇に払い除ける。はそのままだらりと腕を下ろし、ただ呆然と相手の顔を見つめていた。

 机に肘をつき虚空を見上げながら、セブルスが冷やかに笑う。

「帝王のところから直接あちら側の情報を持ち帰るのは誰だ。それを騎士団に伝えているのは誰だ。ポッター家が狙われているとダンブルドアに伝えたのは。奴の居所があちら側に漏れていると騎士団に知らせたのは誰だ」

 そんなもの、決まって     

 発そうとした言葉をアッという息とともに飲み込み、は目を丸くしてセブルスの瞳を穴があくほど凝視した。

「…あなた、まさかずっと…」

 セブルスは目を細めただけで、何も答えなかった。まさか、彼はずっと。

 カッと身体中が熱くなるのを感じ、は杖を放り出してセブルスに詰め寄った。彼の胸倉を掴み上げ、声を荒げる。

「あなた、まさかずっと騎士団のために動いてたの!?ずっと私まで騙してたってこと!?何で、どうして何も言ってくれなかったのよ!私たち、ずっと一緒だったのに!一蓮托生じゃなかったの!?何で、どうして何も      一体いつから     

「お前はダンブルドアに復讐すると誓ったはずだろう。俺とはそもそも目的が違う。俺が騎士団に寝返ろうと、お前にはお前の目的があった。どうしてお前にそんなことを言わねばならん」

 ぐっと息を呑み、掴んでいたセブルスのローブを力なく放す。確かに、彼の言う通りかもしれない。でも闇の世界に堕ちて以来ずっと心から信頼してきたセブルスにこんな形で裏切られるなんて。身が捩れる思いだった。

 みんなを裏切ったのは私だ。その私が騎士団に忠誠を誓っていたセブルスを責めることなんて      できない。

 項垂れるに、ゆっくりと立ち上がったセブルスが手をかざす。

 抱き締めてくれた彼の腕の中は今までと変わらず、ひんやりとしながらも仄かに温かかった。

     すぐに奴≠フところへ行け。帝王が近いうちに動き出す」

 え、と声をあげてセブルスを見上げると、彼は鋭い視線で真っ直ぐに彼女の瞳を覗き込み、繰り返した。

「早く行け」

 零れかけた涙を慌てて拭い、床に落とした杖を拾い上げる。セブルスが出してくれたコートを羽織って、はすぐさま地下牢研究室を飛び出した。

 駆け足で向かった校長室には、羽を休めた美しい不死鳥とアルバス・ダンブルドア、そしてミネルバ・マクゴナガルが立っていた。

「…、落ち着いたかね」

 そっと、ダンブルドアが口を開く。は彼らに大股で歩み寄りながら早口にまくし立てた。

「先生、ジェームズの居場所を教えて下さい!今すぐ私が向かいます、一刻も早く彼らに忠誠の魔法を     

 ダンブルドアは眉を顰め、マクゴナガルは目を瞬く。

「…、今夜はもう遅い。君も十分に睡眠を取るべきじゃ。明日の夜でも遅くはなかろう」

「いいえ、事は一刻を争います!セブルスの情報では帝王は近いうちに行動を起こすつもりです!今すぐ行かないと      何かあってからでは取り返しがつきません!先生、今すぐ私を彼らのところへ行かせて下さい!」

 不安げにダンブルドアに視線を走らせるマクゴナガル。ダンブルドアは小さく息をつくと、やがて溜め息雑じりに口を開いた。

「…分かった。それでは、わしも共に向かおう。、準備はできておるかね」

「はい、今すぐにでも出発できます」

 うむと頷いて、ダンブルドアが奥から持ってきた紫色のマントを羽織る。珍しく落ち着きもなくおろおろとしているマクゴナガルを見て、ダンブルドアは穏やかに微笑んだ。

「心配は要らんよ、ミネルバ。彼女のことは寮監じゃった君が一番よく分かっておろうと思うが。もう一度を信じてみてはどうかな」

「…何も、を信用していないというわけでは」

 呟くように言ったマクゴナガルはそっと瞼を押し上げてを見たが、すぐに視線を外し小さく肩をすくめてみせた。

 かつての寮監に向けて軽く頭を下げ、噛み締めるように告げる。

     私の犯した罪は…決して償えるようなものではありません。ですが命が続く限り、何があっても闇の魔法使いを殲滅させるために全力を尽くします。そして必ず      私がハリーを、守り抜きます」

 ダンブルドアが私を守ってくれたように。

 ハリーを、ジェームズを、リリーを。帝王の手から守りきってみせる。

 マクゴナガルは不安げな瞳でとダンブルドアを交互に見やり、ダンブルドアはそんな彼女の肩に軽く手を添えた。

「…よし、それでは、、出発しようかのう」

 長いマントを翻してさっと歩き出したダンブルドアの後についていきながら、ちらりと校長室を振り返る。既に不死鳥の姿は見えず、そこには狼狽しきったマクゴナガルが一人で呆然と立ち尽くしていた。







 騎士団の任務はここ数ヶ月でどんどんと過酷なものになり、まさに命を懸けた$闘がそのほとんどを占めるようになってきた。ほんの一瞬の隙が命取りになる。任務の最中に命を落とした仲間も少なくはない。

 次は      誰か。そんなことを囁く団員すらいる。

 僕には帰る場所がある。待ってくれている家族がいる。僕はどうしても      死ぬわけにはいかない。

 ホグワーツに就職し、彼女が任務から外れるようになったのは僕たちには好都合だったと思う。効率を考えて僕たちは彼女とは別に組まされることが多かったが、それでもどうしても避けられない状況というものは時に存在する。

 彼女が傍にいるだけで僕の心はひどく掻き乱される。彼女の瞳に浮かぶのがあの穏やかな笑みではなく、冷やかな暗い色だということを思い知らされるのが怖い。僕は彼女の顔を見ることができなかった。

      僕ですらこんなにも苦しいのに。シリウスの心中を思うと。

 僕とシリウスは卒業後の夏から闇祓いの訓練に参加していた。だが2年目の冬、闇の魔法使いが次から次へと起こす事件による混乱を理由に魔法省は闇祓いの募集を一時中断し、それ以降は騎士団の任務だけに専念している。

 シリウスは元々不器用な男だ。新しい恋もうまくできず、サウスエンドオンシーに建てた家にひっそりと一人で暮らしている。あの家には彼女との思い出が残っているだろうから引っ越すようにと勧めたが、あいつはうんとは言わなかった。

 あいつは不器用で、真っ直ぐで、彼女を忘れるにはあまりに一途すぎた。あいつのその性格がこんな形で仇になるなんて。

 彼女とならあいつは、幸せを掴めると思っていたのに。

 リリーはハリーを連れて既に寝室に上がっていった。戸締りを確認し、睡眠前に棚から小さな瓶とグラスを一つ取り出す。

 日々の疲労を取るには入浴と軽いアルコールが効く。僕にとってはそれは自分の中で大きなウェートを占めている彼女のことを少しずつでも忘れるためというのもあるのだけれど。

 グラスに僅かに葡萄色のそれを注ぎ込んだちょうどその時、何の前触れもなく彼の目の前にひらりと赤い何かが降ってきた。テーブルに落ちたそれは      赤い鳥の尾羽。

 こんな時間に、一体何だろう。

 ジェームズはそれを拾い上げ、無意識のうちに眉を顰めた。ダンブルドアがこの家を訪れる際には、いつも前もって不死鳥のフォークスがこの羽根で知らせてくれる。けれど深夜をとっくに回ったこんな非常識な時間に彼が訪ねてくることなんて今までになかったのに。

 彼は立ち上がり、グラスをもう一つ用意した。多少のアルコールは気持ちを楽にしてくれるといってダンブルドアが好むからだ。テーブルの上にグラスを二つ並べた時、玄関から遠慮がちにノックの音が聞こえてきた。

 懐に忍ばせた杖をシャツ越しに掴みながら大股で居間を飛び出す。玄関戸の前で足を止めたジェームズはいつでも呪いをかけられるようにと杖を取り出しながら唸るように言った。

「はい      どなたでしょう」

「ジェームズ、わしじゃ。こんな時間にすまんのう」

 聞き慣れた穏やかな声。それでも杖を構えたまま、彼はそっとドアを押し開けた。

 いつもの紫のマントを羽織ったダンブルドアが、暗がりの中でニコリと微笑む。彼の後ろに静かに佇む人影を見て、ジェームズは杖を握る手をだらりと落とし、呆然とその場に立ち尽くした。







 数ヶ月ぶりに出会ったジェームズは顔中に生傷が増え、目の下にもくっきりと黒いクマが浮かび上がっている。それは死喰い人との戦いがどれほど壮絶なものなのかを窺い知るには十分すぎる要素だった。

 視線が彼女に釘付けになっているジェームズに、ダンブルドアがやんわりと告げる。

「ジェームズ、まずはお邪魔させてもらってもいいかね。あまり戸口に長居するのは良くないじゃろう」

「あ、ええ…すみません、どうぞ」

 ジェームズが慌てて脇に避けると、ダンブルドアは静かに中へと進んでいく。ジェームズはちらりとを一瞥しただけですぐに目を逸らし、「どうぞ」と言って彼女もダンブルドアの後に続くように示した。お邪魔します、と瞼を伏せて建物の中へと足を踏み入れる。

 住居を何度も移しているためか、一軒家にしてはそこはあまりに小さな家だった。けれど数日後に控えたハロウィンの飾り付けが随所に見られ、彼らが少しでも明るい屋内にしようと努めていることが窺える。通されたのは居間と思しき一室で、テーブルの上には飲みかけのワインと二つのグラスが置かれていた。

「すみません、先生だけが来られるものと思っていたので…グラスをもう一つ準備します」

 最後に部屋に入ってきたジェームズが素早く棚からグラスを取り出して、の前にそっと置く。その時も彼はまともに彼女を見なかった。

 並んで椅子に腰を下ろしたとダンブルドアの向かいに座り、2人のグラスにアルコールを注いだジェームズが重苦しい声で口を開く。

「…それで、ご用件は」

 ダンブルドアはワインに少しだけ口をつけると、さっと周囲を見渡してから言った。

「リリーはもう休んでおるのかな」

「…はい。だいぶ前に、ハリーを連れて2階に上がりました」

 リリー。卒業以来、一度も顔を合わせていない。ハリー。大切な大切な親友たちの息子。一度も会ったことがない。

 は唇を引き結び、膝の上で握り締めた両の拳を睨み付けた。

「…これは君たち家族全体の問題じゃ。できれば…彼女も呼んできてはくれんかのう」

 ダンブルドアのその言葉に、ジェームズは突然厳しい顔をして呟く。

「彼女は      疲れていますので…急ぎのお話なら僕が全て伺います」

 ダンブルドアはしばらく考え込むようにして豊かな顎鬚に触れていたが、やがて小さく息を吐いてから頷いてみせた。

「…それならば、仕方あるまい。ジェームズ、以前から言っておるように、ハリーはヴォルデモートに狙われておる。こうしていつまでも住居を転々としておっても…あやつから逃れるには十分ではない。忠誠の魔法の件をもう一度考え直してはくれんか」

 またその話か、と言わんばかりに顔を顰め、ジェームズが首を振る。

「…僕の答えは変わりません、ダンブルドア先生。今この国はどこにいるから安全ということはない。そして誰が狙われてもおかしくない状況にあります。予言された子供ということならネビルだってそうです。それなのに僕たちだけが特別な方法で守られるわけにはいきません。ハリーは僕が命に代えても守り抜きます」

「ジェームズ、今最も危険な状態にいるのは君たち家族なのじゃ。君たちには守りの魔法が必要じゃ、本当に家族を大切に思うならばもっと確実な方法で     

「僕が家族を本当に大切に思っていないとでも?」

 ジェームズの声はあくまで静かだったが、その瞳には深い憤りの色が浮かんでいた。疲れたように息をつき、ダンブルドアがかぶりを振る。

「そのようなつもりで言っているのではない」

「それなら、僕たちのことは放っておいていただけますか。先生の仰る通り、これは僕たち家族の問題です」

 頑なにその姿勢を崩さないジェームズに、ダンブルドアはほとほと閉口しているようだ。ジェームズも苛々とアルコールを口に運び、唇を真一文字に引き結んだ。

 はそこでようやく徐に口を開いた。

     ジェームズ。お願いだから先生の言うことを聞いて。狙われているのはロングボトムの息子じゃない、ハリーの方なのよ」

 するとジェームズは顔を上げて目を見開き、怒りとも驚きともつかない表情でこちらを凝視してきた。椅子の上で僅かに身を乗り出し、彼女は言葉を続ける。

「どうしてそこまで拒絶するの。ハリーが狙われてるのは事実なの、それはセブルスが帝王から直接手に入れた情報だから間違いない。闇の帝王は近いうちにここを襲撃してくるわ、あなたたちの居所が闇の陣営に漏れてるの!お願いだからここを出て忠誠の魔法を使って!帝王が本気を出せばあなたたちは確実に死ぬわ!」

 ジェームズはしばらく口をぱくりと開けたまま呆然としていたが、やがてきつく眉根を寄せると声を荒げてテーブルを拳で叩きつけた。

「僕は君たちを信用しているわけじゃない!その情報自体が罠じゃないという保証がどこにある?スネイプは今でもヴォルデモートのところに足を運んでいる…そんな奴の言葉を信じろなんて無理な話だ!僕は僕のやり方で家族を守る…君たちの指図は受けない!」

 言い終わるよりも先に勢いよく立ち上がったジェームズがを指差して絶叫する。ダンブルドアは目を細めて静かにジェームズを見上げ、は唇を引き結んでかつての親友を見つめた。

 ジェームズが私を信用できないのは分かる。許してもらおうなんて思っていない。でもどうしても、あなたたちを失いたくはない。

「…ジェームズ、私を信じろとは言わないわ。私はあなたたちをどうしようもない形で裏切った。でもお願い、これだけは聞いて。私はあなたたちを失いたくないの      お願いだから確実な方法で逃げて!セブルスの情報は信用できるわ、お願いだから」

 ジェームズはひどく戸惑っている様子だった。騎士団に入って以来頑なに冷たい態度をとってきた彼女が突然こんなことを熱くまくし立てているのだから当然だろう。だが彼はもやもやとしたものを振り切るように頭を振りながら強い口調で切り返す。

「僕たちを失いたくない、だって?もう厄介事は御免なんだろう?今更何を…。それに僕はスネイプの情報なんかに振り回されるつもりはない!これは僕たちの問題だ、君は今すぐここから出て行ってくれ!」

      どうすればいい。どうしてもジェームズたちを死なせるわけにはいかない。

 私の償いは今、始まったばかりなのだから。

 荒い呼吸を繰り返し憤りに顔を歪めたジェームズに、ダンブルドアがそっと口を開く。

「…ジェームズ。彼女を闇の世界にまで追い詰めてしまったのはわしの責任じゃ。彼女は身を切られる思いで君たちを突き放した。彼女は今、それを心から悔いておる。を、セブルスを信じて身を隠して欲しい。とにかく今は時間がないのじゃ」

 ダンブルドアのその言葉に、ジェームズは驚いた顔で目を瞬く。

「…それは、どういう…」

 その時。

…なの?」

 彼女らが入ってきたものとは違う扉が遠慮がちに開き。

 そこから姿を現した赤い髪の女性を見て、は全身に痛いほどの震えが走るのを感じた。





     リリー…?」