ホグワーツ生のホグズミード週末は、毎年ほとんど決まった時期に巡ってくる。普段は静かなこの村が、いっときの活気に満たされる。大人たちのしめやかな夕べもいいが、たまには子供たちの無邪気な喧騒がなければやっていられないと思うこともあった。

「マダムー!こっち、バタービールみっつ!」
「はーい、ちょっと待ってね」

この日に合わせて大量注文しておいた瓶を、新たにみっつ。カウンターを抜け出して隅のテーブルにそれらを運んでから、ふと振り向いたところでまた入り口のドアがひらいた。吹き込む寒気とともに姿を現したのは、この数年ですっかり見慣れた黒髪の青年。
そのすぐ後ろから可愛らしい女の子が顔を覗かせたのを見て、ロスメルタは大きくひらいた目をぱちくりさせた。

on a snowy day

とある昼下がりのこと

「ひょっとして初めてじゃないかしら?あなたが女の子を連れてくるなんて」

カウンターまでやって来ていつものようにバタービールを注文したその青年に声を落として囁きかけると、彼は途端に真っ赤になってこちらから視線を外した。わーお、意外と初心なのね、この子。

「可愛い子じゃない。はい、どうぞ」
「やっぱり?マダムもそう思う?そうなんだ、すっごく可愛い子でさ」
「それでシリウスは置いてきちゃったわけ?」

くすくす笑いながら言いやると、差し出した瓶をふたつ手に取ってジェームズは悪戯っぽくにやりと笑った。こちらに少し顔を近付けて、言ってくる。

「あいつも今日は女の子と一緒だよ。そのうちここにもくるんじゃないかな」
「あら、そう。しばらく女の子と一緒のところは見かけないと思ってたけど、また新しい子?」

ジェームズの相棒、シリウスは顔を見せるたびに違う女の子と一緒にいることが多かった。そこで軽い調子で尋ねると、ジェームズはどこか真面目そうな顔をして、

「そうだけど    あいつ、次は本気だよ。僕の大事な友達なんだ、仲良くしてあげて」
「へーえ。それは楽しみだわ。ほら、ジェームズ、彼女待たせちゃ悪いでしょ」
「かっ!」

彼女、という文言に驚いて真っ赤になったところを見ると、どうやらまだ付き合ってはいないらしい。大人ぶってみせた彼もまだ恋愛に関してはまったくの子供だと知って、なんだか微笑ましい気分になった。彼らは今まさに、青春と呼ばれる段階にある。

「そ、それじゃあまたねマダム!」
「ええ。がんばってね」

ひらひらと手を振って、恋する少年ジェームズを送り出す。くしゃくしゃの頭を掻きながら彼が赤毛の少女のところに戻っていったのを見届けて、ロスメルタは受け取ったばかりの硬貨をポケットの中で楽しげに転がした。
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(08.07.28)